143.『お好み焼き』

第12話です。 担当は ひまママです。

別のタイトルで考えていましたが、やはりこれしかない、と思いました(笑)]

夕飯はどうしようかしら。

考えているうちに眠くなって、気がつけば また うとうとしてしまった。

そんなに寝不足ってわけでもないのに、どうしたんだろう。

妊娠してたりして。 

なーんてね。 

心当たりは大いにあるけれど、これは違うと思う。

両手でおなかに触れてみても、トランクスができた時とは 違っている気がするもの。

 

二人目の子。 

さっきも チラッと考えたんだったわね。

わたしは女の子が欲しいけれど、トランクスは弟がいいって言うかしら。

悟飯くんと悟天くんの仲の良さを、いつもうらやましそうに見ているものね。

そういえば、トランクスは ちゃんと帰ってきたかしら。

わたしは起き上がって、ベッドを下りた。

 

この寝室には、簡易のバスルームがついており、洗面台とお手洗いもある。

「やっぱり妊娠じゃなかったか・・。」  ちょっぴり残念・・ かな?

ドアを閉めてひとりごちていると、部屋の扉を激しく叩く音がした。

それと同時に、わたしのことを呼ぶ声も。

「ママ! ママ!! 起きて!!」 「はいはい、 起きてるわよ。」

今朝と同じように、この部屋まで 起こしに来てくれたトランクス。

だけど、飛びついてはこない。 その代わり、手をつないで 力いっぱい引っ張ろうとする。

「早く 早く!! パパ、すごいんだよ!!」 「え? すごいって、何が?」

わけがわからないまま 手をひかれて進んでいくと、辺りには食欲をそそる匂いが立ち込めていた。

 

そこで目にした光景を、わたしは決して忘れることはできないだろう・・・

いうのは、ちょっと大げさね。

ベジータが料理しているところは、今朝も見た。

お昼も自分でお肉なんかを焼いて食べていたわけだけど・・・

それにしても衝撃的だ。

ベランダに設置された バーベキュー用の大きな鉄板に向かって彼は、

2本のヘラを自在に操っているのだ。

 

「いったい何を作ってるの・・?」

「お好み焼きだよ。」 トランクスが答える。

「え・・ お好み焼きなんて、うちで食べた事あった?」

「今日、悟天のママがおやつの時間に出してくれたんだ。 すっごく、おいしかったんだよ。」

そう言って、チチさんが書いてくれたらしいレシピを見せてくれる。

「パパ、チラッと見ただけですぐに覚えちゃったんだ。さっきなんて、歌まで歌ってたんだよ!!」

「う・・ 歌・・? ベジータが・・・?」

どんな歌だった?と こっそり尋ねると、トランクスは さわりの部分を 声をおとして歌ってくれた。

・・・。 

「それって歌なの?  もしかして軍歌?」

フリーザ軍の、厨房で歌われてたのかしら。

 

「トランクス!! 遊んでないで皿を並べろ!!」 「はーい。」

「それに、マヨネーズが出てないぞ!」

・・なんだか、息が合ってるみたい。

わたしの知る限りでは 抱っこしてあげたこともなければ、会話もあんまりしてなかったはずなのに・・。

やっぱり、親子なのね。

 

「あのね、鉄板の火ね、おれがつけたんだよ!」

言われた物を運んできたトランクスが、得意げな顔で教えてくれる。

「えーっ。 危ないじゃない。」

「マッチとかじゃなくて、気でやったんだよ。 パパが見ててくれたから、平気。」

付け加えられた一言で、目の奥がじんわりと熱くなってしまった。

「ママ、 どうしたの?」 「・・煙が、目に染みちゃったみたい。」

あわてて目元を拭い、笑顔をつくる。

「それより、早く食べたいわ。 おなかがすいてきちゃった。」

「フン、まったく いい身分だ。 三食昼寝付き、ってやつだな。」

「たまにはいいでしょ。 普段は一生懸命働いてるんですからね。」

 

ベジータは憎らしいことを言いながらも、わたしのお皿に一番大きな一枚をのせてくれた。

「わぁ・・ おいしそう。」 ソースの匂いが鼻腔をくすぐる。

「ママ、食べてみて。」

トランクスの言葉に甘えて、焼きたてのそれを先にいただくことにした。

箸を入れる。  湯気と一緒に、かつおぶしがゆらゆらと踊っている。

 

「おいしい?」 「うん、 とっても。 ほら、 あーんして。」

箸で取ってあげた一切れを、トランクスの口の中にも入れてやる。

「おいしーい。」

こちらまで 微笑んでしまうような、満面の笑顔。

まだ鉄板に向かっているベジータの顔を見ると、 ほんの少しだけ口の端が上がっていた。

第13話 呆れた食欲 に続く