130.『・・・そっくり』
[ 第10話です。 担当はひまママです。]
ソファの背に 深くもたれるようにして、ブルマは瞼を閉じていた。
かすかな寝息が聞こえてくる。
また、眠ってやがるのか。
昨夜・・ いや、日付が変わっていたから 今朝のことになる。
まったく、いつも以上にひどい寝相だった。
毛布を一人占めされ、何度も足蹴にされて、眠りを妨げられた。
腹が立つので いっそベッドから落としてやろうと思い、肩に手をかけた。
その時、 彼女が発した一言。
『好きよ ・・・ ベジータ。』
呑気で、ひどく無防備な女。
この遅れた星で生まれ育ったわりには、優れた科学者であると思う。
だが、どこか抜けており、食事を用意することすらも おぼつかない。
そんなことを考えていると、ブルマの頭がぐらりと揺れた。
うたた寝の状態であっても 寝相が悪い。
ベジータは腕を伸ばして、彼女の上半身を支えた。
思わず、反射的に。 つい、なんとなく。
この女が隙だらけなのは、いつも周りの者に守られているためだ。
本当につらい目にあったことなど ないのだろう。
口元が かすかに動いたけれど、まだ起きる様子はない。
ベジータは仕方なく、眠り続けるブルマを抱き上げた。
そう。 自分もまた、結局のところ この女の思い通りに動いてしまっているのだ。
その頃。
トランクスは、窓の外から両親の姿を見つめていた。
「パパ、 ママを抱っこしてる・・。」 ぽつりと口にする。
遊びに来ていた彼を送ってきた悟飯が、声をかける。
「仲良しなんだね、 トランクスのお父さんとお母さんは。」
「そうなの?」 「そうだよ。 とっても いいことなんだよ。」
小さな彼に向かって続ける。
「うらやましいな。 トランクスには お父さんがいて。」
その言葉に トランクスが顔を上げると、悟飯はこう付け加えた。
「・・・って、 悟天がいつも言ってるよ。」
トランクスはつぶやく。
「だけど、悟天にはお兄ちゃんがいるじゃん。」
悟飯が大きな手のひらで、トランクスの頭を撫でる。
誰が見ても母親譲りの、さらさらとした髪。
そして・・ その笑顔は、父親から譲られたものなのだろうか。
「また、遊びにおいで。」 「うん。 どうもありがとう。」
手をふって、二人は別れた。
ベッドの上に わたしをおろして、ベジータは寝室の扉を閉めた。
本当は、抱えられている時に目が覚めた。
だけど とってもらくちんで、気持ちがいいから そのままでいた。
今日は、本当によく 抱きかかえられる日だ。
お弁当を届けに行った時。 重力室で。 そして、つい 今さっき・・。
幼稚園からの帰り道、トランクスにも そうしてもらった。
そういえば、何年も前に 別の星でも そんなことがあった。
トランクスは もう、あの時の悟飯くんと同じ年頃なのね。
あの頃は、ベジータと こんなことになるなんて思いもしなかった・・・。
あーあ。 夕飯はどうしようかしら。
料理を教えて、 ってベジータに言ったら、どんな顔をするかしら。
ベッドに横になったブルマが、あれこれ思いをめぐらせている頃。
トランクスは父親に声をかけた。
「パパ、 ただいま。」 「・・・。」
返事が無いのはいつものことだ。 だから、彼は気にしない。
「ママ、寝ちゃったの?」 「ああ。」
「ふーん。 ママ、疲れてるもんね。 お仕事、大変なんだよね。」
祖父母に言い聞かせられているらしい言葉を口にした後、こう続けた。
「おれもね、今日 ママを抱っこして飛んだんだよ。
重くなかったけど、ママは大きいから ちょっと大変だった。」
ベジータは素早く反応する。
「おまえ・・ 空を飛べるのか。」
「うん。 悟飯さんのを見てたら、飛べるようになったんだよ。」
何かを言いたげな父親を見上げながら訴える。
「たくさん飛んだから、また おなかがすいちゃった。 夕ご飯、どうするの?」
「・・台所にある食い物で済ませろ。 足りなければ、後でブルマの奴に言え。」
素っ気ない答えに、トランクスは少し不満げな顔をした。
だが、気を取り直して話し続ける。
「今日ね、 悟天の家で すっごくおいしいもの食べたんだよ。」
ズボンのポケットを探って、紙片を取り出す。
「簡単だから作ってもらえって、悟天のママが言ってた。」
作ってもらえ、 だと・・・?
「おい。 余計なことを言ってないだろうな。」 「えっ?」
きょとんとする息子を見下ろし、ベジータが気色ばむ。
「俺が料理がうまいとか、何とか・・・。」
「あっ、 言うの忘れちゃった!」 「・・・。」
顔立ちは、まぎれもなく自分に似ている。 しかし、とぼけた表情が 別の誰かを思わせる。
「ほんとにおいしかったんだよ。 ねえ、パパ、作ってよ。」
舌打ちする父親に、紙片を広げて見せた。
作り方が記されたメモ。 一番上には、こう書いてあった。
『お好み焼き』
[ 第11話『パパとトラ』に続く ]