311.『いつもの顔ぶれ』
[ 第7話です。担当は ひまママです。 せっかく寝ていたパンちゃんを起こして(笑)
トラパンをねじ込んでばかりいてスミマセン・・。]
気を読む、までは もちろんできない。
だが パンは、大好きな母や祖父母の気配をしっかりと感じ取った。
ぱっちりと目を開ける。
部屋の扉を閉めて 食堂へ向かった一行を追いかけようと、小さな体を起こした その時。
「んー?」
ベッドの上に横たわって 寝息をたてているトランクスに気付いた。
まるで調べるかのように、顔をうんと近付ける。
指で鼻をつまむ。
小さな小さな手のひらで、頬を、額を ぴしゃぴしゃ叩く。
「う、 うーん ・・・ 痛いよー。」
廊下。 「なあ、チチぃ。」
お茶にしようと提案した妻に向かって、悟空が訴えかける。
「茶よりさあ、オラ なんか食いてえよ。 今日は まだ、昼メシ食ってねーぞ。」
「用意は ちゃんとしてあっただよ。 悟空さの帰りが遅かったせいだべ。
まったく、外に出ちまうと鉄砲玉なんだからな・・。」
ぼやいた後で付け加える。
「じゃあ、おらたちは一旦 うちに帰るだか? ビーデルさは、パンが起きたら、 」
その言葉が終らぬうちにブルマが口を挟む。
「あら、うちで食べればいいじゃない。 材料は冷蔵庫にある物を好きに使ってよ。」
「だども ブルマさ・・。」
「いいから いいから。遠慮なんかいらないわ。 そのかわり・・ 」
夕飯の分もお願いしていい? このところ、調理機の料理に飽きてきちゃって。
それなのにベジータってば、外で食事したがらないのよ。
ベジータには、手に取るようにわかっていた。
自分の妻がチチの耳元に向かってささやいたセリフの、一部始終を。
孫家と関わり合いになることは気が進まないが、チチが作る料理の魅力には抗えない。
だからベジータは めずらしく、異論を唱えなかった。
スナック菓子の匂いの残った小さな手で さんざん顔を叩かれて、
トランクスは ようやく目を覚ました。
「パンちゃん、痛いよ・・。 あれ、どうしたの。」
気がつけばパンは窓の方を見つめて、「あー、 あー。」と声をあげている。
「鳥でもいたのかな。」
ベッドから下り、ひょいと 抱き上げてやる。
窓を開けると、腕の中のパンは ますます大きな、うれしそうな声をあげた。
「きっと すぐに、気を操って飛べるようになるんだろうな。」
今より 少しだけ大きくなったパンが、自在に空を飛びまわる光景を思い描いて
トランクスは何だか、とても楽しい気分になった。
「じゃあ、その前に。」 両腕に力を込める。
「ちょっとだけ、おれと飛んでみようか。」
人目につく所では無闇に飛ばないようにと、言い聞かせられていた。
だが 彼の自宅であるC.C.は、都随一の科学施設でもある。
多少の不思議な現象は、何かの実験だろうと思ってもらえる傾向があった。
「ちょっとだけだよ。 家の周りだけね。」
学校の制服を着たままのトランクス。
その腕にしっかりと抱えられて、パンは きゃっきゃと歓声をあげた。
とても、とても うれしそうに。
キッチンではチチとビーデルが調理を始めていた。
ブルマは何枚かの大皿に、前菜になりそうな物を盛り付けている。
彼女は料理は不得手であるが、決して不器用ではない。
食い意地の張った夫たちの目の前に大皿を置いて おとなしくさせ、
自分は いそいそとキッチンに向かう。
「この台所は本当に便利だな。 あっという間に何品もできそうだ。
ブルマさも座ってていいだよ。」
「やだあ、 仲間はずれにしないでよ。」
とは言うものの、口は大いに動かすが 手の方は動かさない。
キッチンという場所でのブルマは、子供の頃からそうなのだった。
チチに向かって話しかける。
「ねえ、さっき孫くんも言ってたけど 三人目、どう? いいんじゃない?」
「な、何言ってるだ! おらをいくつだと・・・ 」
「あら。 わたしより若いじゃない。」
うろたえたチチが 床に落とした物を拾ってやりながら続ける。
「孫くんは ああ言ったけど、次は女の子かもしれないわね。 わあ! そしたらさ、
パンちゃんと うちの子、それにチチさんの・・ 何だか楽しいわね。」
・・確かに、高い戦闘力を持って生まれるであろう、サイヤ人の血を引く女児。
同じ年頃の子が三人そろったら・・・!
「スーパーヒロインね。 なんだか映画みたい。」
ブルマの言葉に、ビーデルは ふっ、と笑みをもらした。
かつて夫と自分が扮した、グレートサイヤマンを思い出したのだ。
気遣うようにチチが言う。
「おらなんかより、パンに弟か妹をつくってやらねえと。」
「そんな、 」 こんな状態じゃ とても・・・。
うつむいたビーデル。 それを目にしたブルマが、小声で尋ねる。
「ねえ・・ ビーデルちゃんたちって、もしかして ・・・レスなの? それ、よくないわよ。」
チチとビーデルが、ほぼ同時に 手にしていた物を落とした。
「ブルマさ!! 何言ってるだ、日が高いうちから!!」
「だ、だって・・ 大切なことでしょ。」
開き直って続ける。
「いくら疲れてるって いっても、サイヤ人よ。 しかも若い。
孫くんとチチさんだって、その年の頃は・・・。」
「やんだ、 もうっ!」
何を思い出したのか、チチは耳たぶまで赤くなり、やたらとジタバタし始めた。
「なあ。」
背後から 聞き慣れた声に呼びかけられ、女たちは うろたえた。
「な、なんだべ、 悟空さ。 もう、すぐに出来るから おとなしく座って待つだよ。」
「いや、 そうじゃなくてよ。 パン、外に出たみてえだぞ。」
「えっ・・!?」 驚いたビーデルが、大きな瞳を さらに見開く。
「あの子ったら また・・・!」
「トランクスも一緒だ。」
動揺する女性陣に かまわず、悟空はキッチンの窓を開いた。
「ほら、 来るぞ。」
幼いパンをしっかりと抱えて、C.C.の周りを飛んでやっているトランクスが見える。
「あら、 まあ。」 「パン・・。」 「はは・・ 楽しそうだべ。」
隣接している食堂で、憮然としながら 腕組みをしているベジータ。
その両肩に手を置いて、ブルマが話しかける。
「パンちゃんとトランクス、すっごく かわいくて、楽しそうよ。」
「フン・・。」
「この子のことも、あんなふうに可愛がってくれるかしらね。」
せり出した腹部を見つめながら つぶやいた後、何かを思いついたような顔になる。
「ねえ、 ベジータ。」
「なんだ。」
「あの二人、 将来 結婚すればいいのに。 そう思わない?」
「何を言ってやがる・・・。」
なんという気の早さ。
テーブルに置かれたままだった、空いた大皿を下げながら チチも苦笑する。
「パンとトランクスのことだか? ちょっと年が離れすぎだべ。」
「そう? 一回りくらい、大人になったら変わらないんじゃない?
確か クリリンくんたちだって、そのくらい違うはずよ。」
そして、ビーデルに向かって 声をかける。
「ねえ ねえ、どう思う? あ、もしかして悟飯くんって、こんなこと言うと怒るのかしら。」
「さあ、 どうでしょうか・・。」
曖昧な返事を返しながら、ビーデルは思う。
平和な午後、 いつもの顔ぶれ。
なのに 悟飯は この場にいない。
高校を卒業してからは、それまでのようには一緒にいられなかった。
同じ家に帰りたくて、同じ夜を過ごしたいと願った。
その日あった たくさんの出来事を話したい。
そう思って、一緒になったはずなのに。
日を追うごとに成長していく パンの様子を、一緒に見守っていきたいのに・・・。
その頃。
会合は終わったというのに、例の教授は まだ、悟飯を解放してくれなかった。
「悟飯くん、あと一杯だけ行こう。 いや、まだ時間が早いな。
それに君は飲めなかったね。 じゃあ、お茶にしよう。」
「・・・。」
気のいい悟飯は、善良な人間を突き放すということが どうしても できなかった。
先程 少量のアルコールを摂っていたためか、教授の愚痴は なかなか止まらない。
内容はもちろん、娘夫婦についてのことだ。
「うちの娘と婿さんは、高校生の頃からの付き合いでね。
今思えば、あの頃 もっと反対しておくべきだったよ。」
耳が痛い。
もしや自分も、義父にそんなふうに思われているのだろうか。
「社会人として、もっと大成してから一緒になると思っていたのに、彼の方が転勤になってしまってね。
ついていくと言って、聞かなかったんだ・・・。」
「お寂しいですよね。 でも、娘さんが幸せなら、いいじゃないですか。」
これまで、何度となく繰り返してきた やりとりだった。
しかし 今日、教授は こんなことを言いだす。
「・・悟飯くんが、独身だったらな。」
「えっ? どうしてですか?」
「悟飯くんに、うちの娘をもらってほしかったよ。」 ・・・
「な、 なにーーーーーーーっ。」
声を発したのは、悟飯ではない。
なんと、偶然 同じ店に居合わせた、ミスターサタンだった。
「お、 お義父さん!」
仕事の話を邪魔してはいけないと、声をかけるタイミングをはかっていたらしい。
サタンは声を荒げた。
「悟飯くん! なんだ、その曖昧な態度は!!!」
「いえ、 僕は そんなつもりじゃ、 」
「君は出世のために、ビーデルとパンちゃんを捨てるつもりなのか!!」
「何 言ってんですか・・・。」
な、なんだか恐ろしく ややこしいことになってしまった。
しかも その時 サタンと一緒にいた女性、
それは彼の再婚相手なのではと疑われている、
長年のマネージャーを務める ピーザだった。
[ 第8話 『指をからめて』に続く ]