083.『初めての・・・』
[ 第4話です。 担当はMickey様です。OH!とらぱん!!(笑) ]
また止める前に勝手に行ってしまった悟空がいた場所をしばらく眺めていた。
「まったくいつだって勝手だべ・・・」
悟空が気配を探って見つけた先なら間違いなんてことはないんだろう。
だけどなんだかはっきりしなかった悟空の物言いに、不安に思う気持ちが落ち着かない。
気になるのは悟空だけじゃないのだから一緒に連れて行ってくれてもいいのに。
「大丈夫だべか・・・?」
こういう時、これだけ無駄に力の強い人たちに囲まれて過ごしているのに
自分だけ気というものが感じれないことがじれったい。
だけど、こんなことはいつものことで慣れっこなのも悲しい。
仕方がないとばかりに、お茶でも入れて落ち着こうかとキッチンへと振り向いた瞬間、
視界が遮られ顔をぶつけた。
「痛っ!!な・・・悟空さ!急に来たら危ねぇって言ったじゃねぇだか!!」
「わ、悪ぃ・・・平気か?」
そう言って背中をかがめて覗きこんでくる悟空が鼻の頭を軽く撫でてきた。
「ちと鼻が赤ぇな。そんなに思いっきりぶつけたか?」
「硬い壁にぶつけた気分だべ!!それより、どうしただ?いなかっただか?」
「そうだ!違ぇんだよ。二人はいることはいたんだけど、ベジータがよぉ、
なんだか知らねぇけどすげぇ怒っちまって・・・
急に超サイヤ人になったりすっから家壊しそうになって、
そしたら今度はブルマが怒っちまって、二人がケンカ始めっちまったんだ」
「それでなして一人で帰ってくるだ?」
「だってよ・・・二人とも怖ぇんだ・・・とてもパンたちのこと聞ける雰囲気じゃねぇよ。
だから・・・」
「だから?」
「チチも一緒に来てくんねぇか?」
「は?」
「初めからチチも一緒に連れて行けばよかったんだよな」
「もう、悟空さ!!どうせ今みたいに急に目の前に飛び出して怒らせたんだべ?!
ベジータさの修行の邪魔でもしただか?」
「ん?ブルマとチューしようとしてた」
「そ、そうだか・・・それは怒るだべな・・・」
まさかそんなところに遭遇していたとは想像もしなかった。
別に不思議はないのかもしれないけど、あの二人がそんな甘い空気になることが想像できない。
行ったらちゃんと謝っておかなければ、と思いながらも
どんな理由でも自分を頼りに悟空が戻ってきてくれたことがうれしかった。
その頃、CCでは未だ二人の喧嘩は続いていた。
「ちょっと、家の中で超サイヤ人にならないでって言ってるでしょ!!
他の家よりは強度あるけどあんたたちのようにハチャメチャな人たちには対応できないのよ」
「だったら全部重力室と同じ造りにすれば良いだろう!
たかだか超サイヤ人になったくらいでそんなに言われる覚えはない!!」
「だいたい、孫君来たくらいでそんなに怒ることないでしょ!!確かにビックリはしたけど」
「それだけでも十分な理由になる!」
「何がよ?あんた的にはキスシーンを孫君に見られるのがイヤだってだけでしょ!!」
「と、当然だ!!あんなもん見せるもんじゃない」
「バカじゃないの?」
「何だと?!」
「あ、あの・・・」
溢れそうになる涙を止めたくて、後ろ向きになってしまう気持ちを消し去りたくて
顔を洗わせてもらっていたら聞こえてきた声。
こんな大声で言い合いをする夫婦を見たのは初めてかもしれない。
お義父さんとお義母さんはケンカをしてもこんな言い合いにはならない。
自分の父が母とケンカしていた記憶なんてものもない。
もちろん自分と悟飯くんとだって・・・
声を掛けても良いものなのかも迷ったが、あまりにもすごい口論に止めずにはいられなかった。
お腹の子に障ってしまい兼ねないと思ったから。
「なんだ!!」
「何よ!!・・・あ、ビーデルちゃん!あはは、ご、ごめんなさいね。
こんなところ見せちゃって」
「いえ・・・けど、お腹の赤ちゃんに障るといけないので」
「え?あ〜大丈夫よ。この子、ベジータの子だもの多少のことではなんてことないわ。
けど、心配してくれてありがとう」
「はい・・・」
「ちょっと、ベジータも謝りなさいよ!!驚かせちゃったんだから」
「こんなことで驚く奴がいるか。それに悪いのはお前だ」
「なんで私なのよ!!孫君でしょ!!」
「え?!お義父さん、来たんですか?」
「そうよ。突然孫君が来たりするからこんなことに・・・あれ?どこ行ったのかしら?」
「帰った」
「え?・・・そうなの?なんでかしら・・・
ビーデルちゃんとパンちゃんのこと探しに来たみたいよ」
「・・・・・・」
「ん・・・?どうしたのビーデルちゃん」
「・・・悟飯くんでは、ないんですね」
「え・・・?」
期待、していたわけではない。
迎えに来てほしくて家を出てきたわけではない。
なのに、来てくれるのはきっと悟飯くんだとどこかで信じて疑わなかった。
支えてあげたいなんて思っているはずが、結局は負担をかけている。
こんな風では夫婦になっても意味もないのかもしれない。
そんなことを考えていれば、せっかく顔を洗った意味もなく涙が溢れて来て仕方がない。
今の自分は本当に・・・嫌いだ。
「まー、まー」
目を覚ましリビングを出たパンはといえば、覚束ない足取りでCC内を歩きまわっていた。
階段を上ったり降りたり、色んな部屋の扉を開けて入っては出るを何度も繰り返し続けていた。
「ただいま〜・・・って自分の部屋だった」
今日は学校の都合で急に午前中で終わった。
別にいつものように玄関から入ればいいのだが、パパやママに見つかりたくなかった。
パパに見つかれば絶対にトレーニングに付き合わされるし、
今日から休みのママに捕まれば何させられるかわかったものじゃない。
せっかく出来た自由の時間は自分の好きなように使いたい。
だからこうしてわざわざ気配を消してまで自分の部屋に直接帰ってきたというのに、
癖というのは怖い。
思わずただいまなんて言葉をかけてしまった。
だが、入ってすぐ何かがおかしい気がした。
小さいけど、大きな気がこの部屋に居る。
身構えながら気を配れば原因はベッドの中。
こんもりと盛り上がった何かが右に左に動いていた。
「誰だ!!」
正体を確かめるためシーツを勢いよく捲れば、そこに居たのは赤ん坊。
というか・・・ 「パン、ちゃん?」
何故一人でこんな場所に居るのだろう?
なんてことを考える間もなく、家中に響く大きなママの声。
パンの存在を探しまわるその声に、
どうやら今日の自由時間はやっぱりなくなってしまいそうだと小さく息をつき、
ベッドに座って自分に向けて満面の笑みを浮かべているパンと視線を合わせた。
[ 第5話 「あーん」 に続く ]