031.『サイヤの系譜』
[ 第2話です。 担当はMickey様です! べじぱん・・・(笑) ]
コンコンと控えめに戸を叩く音が聞こえた。
悟空が朝の修行から戻ってきたにしては少し早い上、扉をノックするなんてことはない。
悟天だって毎日デートだなんだと言って朝っぱらから出かけていった。
日曜である今日なら尚のこと。
誰か訪ねて来るなんてことも滅多にない。
ここまでやってくるのが大変なのは山の麓まで買い出しに行っている自分が良く分かってる。
「一体誰だべ・・・?あ、もしかしてビーデルさか?」
孫という存在は本当に不思議だ。
自分の子供たちほどに可愛いと思える存在がこの世に存在するようになるなんて
思いもしなかった。
出来ることならずっと抱いていたいと思うほど。
しかも自分は息子二人。
女の子はやっぱり男の子とは違っていて、仕草の一つ一つがかわいくて仕方がない。
目に入れても痛くないというのはこういうことなんだろうと、
こうなってみて本当の意味で分かった気がしていた。
ビーデルも忙しい悟飯が留守がちということもあって良く遊びに来てくれていた。
家が隣なんだから、一緒に暮らしているようなものだけど・・・
「ビーデルさ、いつも言ってるでねぇけ。勝手に入ってくればいいだ・・・?悟飯?」
「お、おはようございます」
「珍しいだな。こんな朝早くに悟飯が来るなんて。今日は休みなんだべか?」
「いえ、午後から教授の接待があるんですが・・・」
「何だべ?どうかしただか?」
「・・・・・・ビーデル来てませんか?」
「来てないだよ・・・いないだか?」
「はい・・・」
「居場所わからないだか?」
「それが・・・気を抑えてるみたいで」
「ビーデルさと喧嘩でもしただか?」
「そ、そんなわけないですよ!!けど、朝食の準備だけしてあってどこにもいないんです」
「まったく・・・悟飯ちゃんも変なとこ悟空さと一緒で女心ちっともわからねぇだから
ビーデルさに出て行かれるだよ!!きっと気付かないうちに何かしたんだべ!!」
「そ、そんな・・・」
「たっでぇま〜!!って、おっす悟飯。珍しいな、おめぇがこっち来るなんて。パンはどうした?」
「それがな、悟空さ。悟飯ちゃんったら―――」
変わってCC重力室――――――
「何してやがる・・・」
重力室の扉はかなり分厚い。
外との重力を違えるのだから、ちょっとやそっとで開いてしまうような代物じゃない。
それを、この赤ん坊は開けたというのだろうか?
一人で立って歩くことも覚束ないような赤ん坊が?
浮いていた体を地につければ近づいてきた赤ん坊は
足に縋りつくようにズボンのすそを掴み這い上がるように立ち上がった。
その時ふっと知ってる気をこの赤ん坊のどこかに感じた。
「悟飯のガキ、か」
それなら無理やり納得出来なくもない。
サイヤ人の血が混じっているのなら、小さな頃から大きな力をもっていても不思議はない。
・・・不思議はないが、気を抜けばあっという間に追い越されそうだ。
「・・・っち」
とりあえず、壊された扉を直してもらわない限り重力室は使えない。
重力の負荷をかけないにしても、赤ん坊がここに居てはトレーニングも出来たものじゃない。
もしこの赤ん坊に傷でも付けて悟飯にキレられれば地球の1つや2つがなくなりかねない。
盛大にため息をついて、足に縋りつく赤ん坊の服の背中を掴み、
宙ぶらりん状態の赤ん坊を自分の目の前まで持ち上げてみた。
だが、それは失敗だったと今更後悔してももう遅い。
黒い澄んだ瞳に大量の水分が浮かび上がってきた。
それが意味することくらい分からないわけがない。
扉が壊されたとはいえ、赤ん坊が入って来れる隙間程度しか開いていない重力室の中、
鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの絶叫がこだまする。
つまり逆にいえばこの声はほとんど外に漏れていないということだ。
「泣くな!!耳が痛い・・・」
言って分かるくらいなら苦労などない。
さっさとこの部屋を出て誰かに託せばいい話だが、
動くことすら気がそがれるほど耳が痛いのだ。
空いている左手で左耳を押さえていたが、右耳の痛みがひどい。
交代とばかりに左手を離しその手のひらに赤ん坊を座らせ、
空いた右手で右耳を抑えようとしたところで、泣き声が止んでいることに気付いた。
未だ目にはたくさんの涙を溜め、しゃっくりあげながらもとりあえず泣きやんでいる。
そして何かを求めるように手を自分に差し出してきた。
「一体、なんなんだ・・・?」
意味も分からず、理由を知りたくて顔を覗き込むように自分の方へ引き寄せてみれば、
抱きつくように首元の服をギュッと握りしめられ、腕の中にスッポリと納まり落ち着いた。
「!!・・・おい」
引き離そうと力を入れたが、ちょっとやそっとの力では引き離せない。
この部屋の扉を開けてしまう腕力をもっているなら当たり前だが、
服が破れるのを覚悟で無理矢理引き離しても、おそらくまた泣かれるのだろう。
しかも赤ん坊を支えていた手を離しても少しも落ちる気配はない。
さっきの鳴き声のせいか、これ以上トレーニングを続ける気力が削がれた。
やめるにしてもシャワーくらい浴びたい。
だけどしがみついている赤ん坊が邪魔だ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
いっそこのまま浴びれば離れるかもしれん。
そう思い立ってバスルームへと足を向け勢いよくシャワーをかけた。
だが結果、状態は変わらなかった。
服を掴まれているだけだから、どうにかして濡れた服を脱ぎ捨ててみれば
ようやく離すことができた。
初めからそうすれば良かったと思ったのもつかの間。
また自分の元に歩み寄りよじ登ってこようとする。
「いいかげんにしろ。オレはお前のじいさんではないぞ」
これはあくまで予測だが、純粋なサイヤ人独特の気配みたいなものがあるのかもしれない。
自分ではわからないが・・・
それでカカロットのヤロウと勘違いしてるんじゃないか?
あいつはこうやって赤ん坊と共に風呂にはいっているのだろうか?
・・・そういえば―――
「お前・・・一人でやってきたのか?」
赤ん坊がここに居るということはきっと母親もいるのだろう。
そんな当然のことにも気付けなかった。
それくらいの驚きと衝撃を食らっていたのだ。
今更ながらに家の中を気配を探ってみれば、赤ん坊の母親とブルマの気がウロウロしていた。
だが、様子がおかしい。
この赤ん坊の母親はミスターサタンの娘。
それなりに武道をやっていて空も飛べるはずだ。
だったら気の探り方も多少なりとも知っているはずなのによっぽど焦っているのだろう。
見当違いなところへ向かっている。
「ほら、行くぞ」
結局、共にシャワーを浴び体まで洗ってやった。
というか自分の体を洗えば必然的に赤ん坊まで洗う羽目になったというだけだが。
濡れてしまった服はどうしようもないため、乾いたバスタオルでグルグル巻きにし
しっかりと抱いてやればいつの間にか眠ってしまっていた。
そのままバスルームを出てリビングへと足を向ける。
散々探した揚句、今二人はリビングに居るようだ。
その時ふわりと甘い香りがした。
その根源がこの赤ん坊であることは間違いない。
ミルク、か・・・?
あんなに予想外の力を発揮していた赤ん坊が今は安らかな顔して規則正しい寝息を立てている。
リビングまでのたった数秒の道のり。
自分では気付いていなかったが歩く速度が遅くなっていた。
[ 第3話『タイミング』に続く ]