今腕の中にいる孫は、よっぽどお腹いっぱいで満足したのか機嫌も良い。
久しぶりに乗った筋斗雲をゆっくり走らせ家への帰り道を楽しんでいた。
こうしていると、悟飯が小さい頃を思い出す。
あの頃は良くこうして3人で筋斗雲に乗ったものだ。
チチも自分も若くて、知らないことばかりだった。
今とは違う理由で良く怒られたりしたっけ・・・
だけどあの時は怒られる理由も意味も分からなかったから、
負けずに食ってかかってしまうこともあった。
今にして思えば、きっとチチはいっぱい傷ついていたんだろうなってわかるのに。
だからこそ今傍にあるチチが楽しそうにしているだけで、幸せだと感じる。
今この手に孫を抱いて居られるのもチチがいてくれたからだと、そう思うから。
けど・・・
「悟飯たちでもケンカなんてすることあんだな」
悟飯は自分よりずっと頭が良い。
何も知らない若い自分なんか比べ物にならないくらい。
人一倍思いやりに長ける悟飯のことだからケンカしたと聞いた時から
ずっと不思議に思っていた。
「違うだ。ケンカにならねぇから問題なんだべ」
「へ?」
「悟飯はやさしい子だべ」
「ああ」
「だから心配かけねぇように何も言わなかったんだべ。
ビーデルさもその辺悟飯と似てるから、結局どうしようもなくなっちまっただよ」
「どういう意味だ?」
「おらたちみたいに言いたいこと言い合った方がいいってことだべ」
「ふーん。頭良くても関係ねぇんだな・・・それよりよぉ、なんか懐かしくねえか。
ここにいんのはパンだけど、こうして筋斗雲に乗るの」
「ふふふ、そうだべな」
「やっぱさ、オラたちももう一人子供―――」
「悟空さはそればっかりだべな・・・」
「だってよーそしたら楽しいぞ。パンの遊び相手も出来るしな」
「そういう問題じゃねぇだ。パンが居れば十分でねぇけ」
「オラさ、悟飯の時は闘いばっかだったし、悟天の時なんか死んじまってたし、
ちゃんと父親やってやったことねえだろ?だからさ、今度はちゃんとしてみてぇな・・・って」
「はぁー・・・良く言うだ。そんなこと言ってどうせ悟空さは毎日修行に明け暮れるだ。
そしてまた勝手にどっか行っちまったり、知らない間に死んじまったり・・・」
「チチ・・・」
「そんなの、もういらねえだ」
「そんなことねぇよ。だから今度はって―――」
「それはおらに悪いって思ってるからだか?」
「は・・・?」
「おらが知らねぇとでも思ったら大間違いだぞ!
そんなに子供が欲しければあの女に産ませればいいでねぇけ!!」
「何、言ってんだ?どうしたんだよ急に」
「しらばっくれるでねぇだ!おらもいい年だし、
目を瞑ろうって思ってただがそんなに子供、子供って・・・!!」
「お、おい。どうしたんだよ。何のこと言ってるかわかんねぇって。女って何の話だ?」
「・・・もう、いいだ。悟空さが反省するまでおらは帰るの止めただ」
「へ?」
急に怒り出したチチの意図がつかめない。
何のことを話しているのかも分からない。
筋斗雲の上で立ち上がったチチはポケットを探りカプセルを取りだした。
カチリと押すと同時に筋斗雲から飛び降りたチチ。
それはさすがとしか言いようがないが、
舞空術を使うことが出来ないチチは落ちて行く空中で現れた飛行船にうまく飛び乗り、
どこかへ向けて飛び始めた。
それを追いかけるべく進路を変更しようとすれば飛行船のスピーカーから届く声。
“早く家に帰るだ。パンはもう寝る時間だべ。付いて来るでねぇ!”
そのままスピードを上げて来た道を引き返していく飛行船。
追いつこうと思えば追いつけるのに、チチの言う言葉の意味を理解できなくて何もできずにいた。
「良かった。悟飯さんに話し聞いた時はさすがにオレも焦っちゃった」
「お腹の張りがひどいから私も驚いたけど、大丈夫だって。
一応今日は様子見で入院になったけど、このまま何ともなければ明日には帰れるし。
産まれるまで入院にならなくて良かったわ・・・ね、ベジータ」
病室の窓際の壁に背中を預け外を眺めているパパ。
さっきママがこっそり教えてくれた、病院にママを運んだパパのこと。
その様子を想像出来るだけ、思わずクスリと笑ってしまった。
「なんだ?」
「別に。パパ、帰ろっか?」
「・・・ああ」
なんて返事はするくせに、ちっとも動こうとしない。
もうこれ以上笑いを堪えられそうになくて、先に病室を出ると告げた。
別に待ってなくたって勝手に帰ってくるだろうけど、
今日はなんとなく一緒に帰りたいと思ったから。
それから待つこと30分。
ようやく病院から出てきたパパ。
家までの道のりを飛んで帰ることなく歩いて帰る。
「ねえ、パパ。パパはさ、ママの心配をしたの?それともお腹の子?」
「・・・何を馬鹿なことを・・・」
「だってさ、ママが驚いてたから。見ない振りしてちゃんと知ってるんだって。
オレは気付いてたけどね。ママって普段鋭いくせに変なところ鈍いよね」
「フン。あいつは自分のこととなるとさっぱりだからな」
「で、どっち?」
「・・・・・・・・・」
「・・・そっか。良かった」
「何がだ」
「答えが出せないってことが答えでしょ」
「さっきから何なんだ?」
「んーなんとなく。遅くの子ってかわいいって言うでしょ?本当なのかなーと思って」
「くだらん」
「本当はさ、自分の時がどうだったのかなんてわかんないから、なんかうれしいんだよね」
「・・・」
「って、あれ?ちゃんと戸締りしたはずなのに電気付いてる・・・」
家に入った途端香る良い香り。
足を向けたリビングにあるのはさっきまでこの家に居た人の気配。
帰ったところを見たわけではないけど、自分が帰ってきた時には確かにいなかった。
確かにセキュリティーは顔パス出来るようにはなってるけど、それを利用した人は今まで・・・
悟天くらい。 その父に至ってはセキュリティーの意味をなしたこともないけど。
「何をしてる?」
「お帰りなさいだ。ブルマさ、平気だべか?」
「今日だけ様子見で入院だって。
それよりチチさんどうしてここに?っていうか、ママのこと知ってたっけ?」
「悟飯に聞いただよ。ブルマさ、いなくて色々大変だべ。
帰ってくるまでおらが家事受け持つだよ。お腹空かねぇだか?夜食作っただが食べるだか?」
「おい」
「トランクスは明日も学校あるだべ?食べるなら準備するだが早く食べてもう休むと良いだ」
「おい」
「おらのことは気にしないでいいだべ。ここのソファ貸してもらうだ」
「おい!お前、なんでここにいる?帰ったんだろう?」
「・・・帰りたくないだ」
「は?」
「な、何?何かあったの、チチさん?」
「本当は・・・見て見ないフリするつもりだっただ・・・けど、もう我慢できないだ!
悟空さが浮気するなんてっ!!」
「えぇ?!」
「う、浮気・・・?カカロットが、か?お前の勘違いだろう・・・?」
チチさんの口から語られた内容は驚くには十分だった。
あの悟空さんが浮気だなんて想像もつかない。
だけど、チチさんがそんな嘘つくとも思えない。
思わずパパと顔を見合わせ、
今日は女性に振り回される日だと小さくため息をついてしまっていた。
047.『人の妻』
[ 第12話です。 担当はMickey様です。 どうしましょっかねー、次。
すぐ仲直りさせちゃうかも・・・笑(ラブラブカップル応援隊なので)。 ]
[ 第13話 『時に愛は』に続く ]