176.『ため息は誰のせい?』
[ 327.『誤算』の後日談のつもりで書いたお話です。]
ナメック星の神龍によって ヤムチャは無事に生き返り、わたしのもとへ戻ってきた。
16歳の頃から一緒だった、初めての恋人。 大切な仲間。
あんなに遠い星まで行ったのは、彼を生き返らせるためだった。
理由を忘れてしまっていた。
いろんなことが起こりすぎたから・・・。
「あんな奴、 家に入れて大丈夫なのか?」
うちの両親以外のみんなが言ったのと同じ言葉を、ヤムチャも口にした。
「平気よ・・・。 今は、孫くんに勝つことしか興味ないみたいだから。」
そして小さく付け加えた。
「放っておいたら、悪いことしてたかもしれないでしょ・・? 」
悪いこと。 部屋でひとりになった私は、またつぶやく。
『悪いことしちゃダメよ。 ・・・ 』
もう、しちゃったのにね。 あの時、 ナメック星で。
男の人にそういう目で見られることには慣れている。
だってわたしは魅力的だから。
だけど、本当に、あんな・・・
あの日からわたしは、何度もそのことを考えている。
ふつうだったら、二度と思いだしたくないはずなのに。
隠れ家の床の上に押し倒されて、着ていたものをを引きちぎられた。
でも、 だけど、 そのあとは、 意外なくらいに・・・
身をよじるのをやめたのは、殺されたくないと思ったからだけじゃなかった。
わたしはおかしくなっているんだろうか。
いろんなことが起こりすぎて。
人並み外れたものすごい力を、目にしすぎて。
そして、最も人並み外れた男の一人・・・
ベジータはこのC.C.を拠点にして、トレーニングに余念がない。
遠い星での出来事なんて、まるで忘れてしまったみたいに。
それからまた、しばらく経った。
知らない星の服を着込んだ孫君が、ようやく地球に戻ってきたと思ったら、
正体を明かさない不思議な少年が現れた。
その子の警告を受け、皆は改めて厳しい修業を始めた。
ベジータは重力室での訓練と、人里離れた荒野で過ごすことを繰り返している。
彼に命令されてわたしは、フリーザ軍のものと同じ戦闘服を作っている。
どうして引き受けたんだろう。
少なくとも、殺されたくないと思ったからじゃない。
そんなある日、ヤムチャはとうとうわたしに言った。
「おれがいない間、 何があったんだ?」
別れた日のことは、今はあんまり思いだしたくない。
「なんで、あいつなんだよ。」
何度も 同じことを問われ、そのたびに わたしは答えた。
「思いもよらない目に、遭ってみたいのかもしれない・・・ 」
ベジータとわたしが再び肌を合わせることになったのは、
それから少し後のことだった。
ベッドの中で彼が言った。
「おまえは何故、俺とこんなことをしてるんだ。」
うまく答えられないわたしは、逆に尋ねてみる。
「どうしてだと思う?」
ほんの少しだけ 笑ったような顔になって、彼は答えた。
「おまえが下品で、物好きな女だからだ。」
「そうね、 きっと・・・。」
仰向けに横たわるベジータの胸元に顔を埋めて、わたしはつぶやく。
「あんたの体、 温かいのね・・・ 」
ベジータは思い出していた。
それは、遠い星でこの女を抱いた時に自分が思ったことと同じだと。
指先で、不思議な色の髪を梳く。
あの日と同じ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
これからどうなってしまうのか、まるでわからない。
けれどもその時、ブルマは確かに幸せだった。
彼もそうであることを 彼女が知るのは、まだ、 もう少し先のことになる。