327.『誤算』

ナメック性祭に投稿した作品を改題・一部修正しました。

主催者様によります挿絵もぜひご覧ください。]

この星に来てから、わたしはずっと一人きりだ。

 

悟飯くんもクリリンくんも、深刻な顔で出たり入ったりするばかりで 少しも落ち着かない。

洞穴の中に建てた隠れ家にこもっていることに、いい加減飽きてしまった。


危険なのはわかってる。 

だけど、ほんの少しなら・・・。

わたしは外に出て、バイクを収納しているカプセルを投げた。


やっぱり、外の空気はいい。 

気温もちょうどいい。

今、この星に 恐ろしい宇宙人が来ているなんてこと忘れてしまいそうだ。

 

早く孫くんが着けばいい。

悪い奴らをやっつけて、この星のドラゴンボールを貸してもらう。

そして 死んでしまったみんなを、ヤムチャを生き返らせるの。


ヤムチャが無事に戻ってきたら・・・

わたしは彼と、一緒になるんだろうか。

バイクを走らせながら、そんなことを考えていた。


いつの間にか、湖が目の前に広がっている。

バイクから降りて、両手で水をすくってみる。

あまり冷たくない、きれいな水だ。


その時。 水面が揺れた。


グローブをはめた左手が現れる。


水音とともに人間が、男が顔を出して、大きく息をした。

「ベジータ・・・。」

 

化け物に変身したザーボンに傷を負わされ 湖に沈められた俺は、

何とか岸辺に這い上がった。

ちくしょう・・・。 どうにかして体力を回復させなくては・・。


見知らぬ女の姿が視界に入る。

俺は、ナメック星人ではない その女の足首を掴んだ。

「傷の手当てをしろ。 断れば、今、この場で貴様を殺す・・。」

女は怯えながらも、おかしな乗り物を奇妙な方法で収納すると、

また別のものを出しやがった。


そうか。

ドドリアの野郎が言っていた、こいつは地球人だ。

 

わたしは ずぶぬれでボロボロのベジータを、車の後部座席に乗せて 隠れ家へ向かった。

逃げ出したかったけれど、どうしようもなかった。

今は やり過ごすしかない。

ひどいケガをしていたって、わたしなど 容易く殺してしまえるのだろうから。

 

「チッ・・・ こんな原始的な治療しかできない星の奴が、よくここまで来れたもんだ。」


飛べない奴のためにあるらしい乗り物に、薬品や 細かい道具。

地球人というのは、戦闘以外のことにばかり 目を向ける民族のようだ。

黙って傷の手当てをしている、この女にしてもだ。

華美な装飾品はつけていないが、よく手入れされているのが 見てとれる。


かわった色の髪から、甘ったるい匂いが漂ってきて 鼻をつく。

息が苦しくなってくる。

俺は、女に質問をした。


「何の力もない貴様が、何故こんな星に来た?」

「わたしは科学者よ。」 声が震えている。

「宇宙船を改造して、操縦だって、わたしが・・・ 」

それでも、肩をそびやかすようにして 言い返してきやがった。


「カカロットはどうした。」

「もう、 すぐに着くわ。 わたしは、クリリンくんと 悟飯くんと一緒に・・・ 」

悟飯というのは、たしか カカロットのガキの名だ。

「貴様が、あのガキの母親なのか?」

「ちがうわ。 孫くんには奥さんがいるのよ。」

 

俺は手を伸ばして、女の顎を掴んだ。

「じゃあ、貴様はカカロットの何だ?」

「ただの友達、 仲間よ・・・。 わたしの恋人は、 あんたの仲間に・・・ 」


殺された。

言い終わらぬうちに、女を押し倒して床の上に組み敷く。

「ドラゴンボールが目当てか。 あいにくだったな。」

「孫くんが着いたら、あんたの思い通りになんか・・・ 」


襟元を掴んで、引きちぎる。

意外と丈夫な材質らしく、一度では引き裂けなかったが 胸元が露わになる。

その、あまりの白さに俺は 目を奪われた。


数秒ののち、女の訝しげな視線に気づく。

「くそっ・・.。」  むき出しになった 左胸を掴む。 「イヤ ・・・ ッ 」

グローブ越しの手のひらに、体温と感触が伝わってきた。

そんな場合ではないというのに、止められなくなる。

力を緩めた時、女は喘ぎ声を発した。 「 あ ・・・  

 

かすかな、溜息にも似たそれを、俺は聞き逃さなかった。

「・・嘘だ。」

身をよじるのをやめた女は でかい、青い目をさらに見開く。

「力を抜け。」

女の体は、温かかった。

 

 

事の後の、特有のだるさの中で 俺は尋ねた。

「貴様・・・ 名前は・・・。」 


閉じられていた瞼が開き、 つい さっき、放してやった唇が動く。  

その時。

「ブルマさん!」  部屋の扉が開いた。

 

カカロットのガキが 飛び込んできた。

慎重に、戦闘力を消していやがったらしい。

「ベジータ!! おまえ、ブルマさんに何を・・・ 」

「何もしてないわ。」

 

静かな声で、女が告げる。

体を起こして立ち上がり、後ろを向く。

「傷の手当てをしろって言われたから、そうしただけよ。」


女とガキのやりとりを見届けずに、俺は隠れ家を後にした。

「で、でもブルマさん、その格好。 ケガは・・・ 」

「してないわ。 だから、誰にも言わないで。」

 

間もなく、俺の死体を血眼で捜しまわるザーボンの 巨大な気を感じた。

 

 

その後の死闘と攻防によって、俺はさらに強くなった。

だが、フリーザの野郎にだけは 歯が立たなかった。

死の淵で俺は、カカロットのガキが口にしていた あの女の名前をつぶやいた。

「ブルマ・・・。」

 

そして、ドラゴンボールで目覚めさせられた俺の目の前にいたのは・・・

 

 

僕は あの時の二人のことを、誰にも話していない。

もっとも、あの頃は幼すぎて 何もわかっていなかった。

 

だけど大人になって、家族を持った今だって、あの二人のことは よくわからない。

 

わかっているのは、

彼の子供を二人も産んだブルマさんが とっても幸せそうに見えることと、

ベジータさんが今も 彼女のそばに留まり続けていること。

それだけだ。