338.『おなじゆめ、見てる』
[ 『初めての・・』の続きです。ついに、想いを遂げた二人です。]
やっぱり わたしは待てなかった。
あの日から数日後、 夕方、ベジータの部屋。
ドアが閉まる音を合図のようにして、制服を脱ぎ棄てる。
今日は夏みたいなお天気だった。
上着を着ていなかったわたしたちは すぐに、あの日と同じ姿になる。
ベッドの上での長いキスの後、 ベジータの手で上の下着がはずされた。
彼はわたしの胸に顔を埋めて、吸いつくみたいに唇を当てる。
このあいだ 同じようにされた時には、胸にいくつも痕が残った。
お風呂の時、 着替えの時、
なかなか消えてくれないそれが目に入るたびに
体の奥がどうしようもなく熱くなった。
「そんなふうにしたら、水着が着られなくなるわ。」 「じゃあ、着るな。」
そう言ってベジータは何度もそれを繰り返した。
多分 わざとだ。 強く、時には噛みつくみたいに力を込めて。
しばらくのち。
今日の彼は、それほどためらうことなく 残りの一枚に手をかける。
ひどく無防備な姿にされたわたしは、両ひざを掴まれて脚を大きく開かされる。
恥ずかしくて、目が開けられない。
一体どんな顔をしているのか、見てやりたいのに。
わたし自身でさえも さわったことのない個所で、ベジータの指が動いている。
丁寧に、ひとつひとつを確かめるみたいに。
頬が熱い。 だけど、体の奥はもっと熱い。
「あ・・・ 」 溜息に混じって声が出る。
その声は自分以外の・・ まるで、誰か知らない女のようだと思った。
それからベジータは、ベッドのそばに置かれていたライトを片手でずらした。
隠していたらしい何かを掴んで、わたしに背を向けてしまう。
袋を破るような音が聞こえる。
覗き込もうとしたら 「見るな。」 とすごい剣幕だ。
このあいだ 途中でやめてしまったのは、
ママからの電話のせいだけじゃなかったのかもしれない・・・。
「ねぇ、それ、自分で買ったの?」 「・・だったら なんだ。」
仰向けにしたわたしの脚を 再び開かせてベジータは入ってきた。
わたしの声を、表情を確かめながら ゆっくりと動く。
時々、「目を閉じてろ。」と怒りながら。
「あんまり、痛くなかった・・。」
今度はわたしが、ベジータの胸に顔を埋めている。
「気持ち良かったかも。なんとなく、だけど。」
「フン、まったく下品な女だ。」
そんなふうに言いながらもわたしの髪に指を通す。
顔を見ると、まんざらでもなさそうだ。 つい、軽口を言いたくなる。
「誰かと 練習したんじゃないの?」
「くだらんことを言うな。」
途端に不機嫌になったベジータに、あっという間に体勢を入れ替えられる。
愛撫とキスの応酬に、わたしは伝えそびれてしまった。
ベジータが好き。
多分、わたしのほうが 背が高いけど。
一度も 好きって言ってくれないけど。
いつからなのか覚えてないけど、ずっと、ずっと大好き。
ベジータと こうなって、本当に幸せ・・・。
いつものように家に送って行く途中。
ブルマはまた、俺の腕にしがみついてきやがった。
「やめろ。 歩きにくい。」
「誰もいないから、いいじゃない。 誰か来たら、すぐ離れるわ。」
そして、こんなことを言い出した。
「初めて一緒に帰った日のこと、覚えてる?」
答えなくても、お構いなしにブルマは続ける。
「あの時ね、 もっと大人だったら こんなふうに歩けるのに、って思ってたのよ。」
もたれかかっているブルマの髪が、頬をなでる。
「あれから、もう四年も経つのね。」 それから、小さな声で言った。
「四年後もこうして歩いていたいな。」
本当は ずっと、って言いたかった。
でもちょっと欲張りすぎかなって思って控え目にしたの。
そんなことを話しているうちに、もう家に着いてしまった。
門の前で立ち止まったベジータが言う。
「あと四年経ったら、俺たちは二十歳だ。」
「・・? うん、そうね。」
「二十歳になったら、俺はおまえの親に 話をするつもりだ。」
「話? なんの?」 わたしは その時、本当にわからなかった。
舌打ちをして、ベジータは頬を赤らめた。
「自分で考えろ。」
そして じゃあな、と言って さっさと歩いて行ってしまう。
もしかして、さっきの言葉は・・。
嘘みたい。 好きだってことさえ、一度も口にしてくれないのに。
わたしは、胸がいっぱいになる。 だけど今日は 追いかけなかった。
追いかけて、しがみついてしまったら もう離れられなくなる。
そう思ったから。
曲がり角の手前で、姿が見えなくなる前に ベジータは立ち止まった。
このあいだと 同じことを言う。 「さっさと家に入れ。」
多分わたしは今夜、ベジータの夢を見る。
ベジータもきっと、わたしの夢を見ると思う。
ずっと 隣を歩いて行く夢。 そしてずーっと一緒に眠る夢。
幸せなわたしは大きく手を振る。 「また、明日ね。」