『愛してる、と言う前に』

以前 笑顔の行方』というお話を書きまして・・ その一部分を膨らませてみました。

描写的には たいしたことないので、申し訳ないのですが・・。]

人が覆いかぶさっている感触で 目が覚めた。

唇を塞いでいるのが 18号のそれであるのを知るのと同時に、

彼女が何も着ていないことに気付いた。

 

唇が離れた後、 おれが言葉を探していると 彼女が先に口を開いた。

「あんた、 そんなにあたしを抱きたくないわけ?」

「そんなこと、 あるわけないだろ。

「・・わざわざ金を払って二人っきりになったってのにさ。」

 

そう。 都に出てきたおれたちは、奮発してホテルに宿をとったんだ。

カメハウスで一緒に暮らし始めて もう数カ月になるけれど、

おれたちは まだ、そういう関係になっていなかった。

いい加減 潮時かな、と思ってはいたんだけど・・・。

 

「怖いんだよ、おれ。」

「怖い・・・?」 「あ、 いや ・・

ライトのついていない暗闇の中でも、18号の表情が変わったのがわかった。

「違うんだ。 そういう意味じゃ・・。」

肩に手をかける。 指先に、体温が直に伝わってくる。

その時。

ぽつりとつぶやいた。 聞き取れないくらいに、小さな声で。

「あたしの体が 普通の女と違ってるんじゃないか、って思ってるんだろ。」

 

「そんなはずないだろ。」

思わず、両腕で抱きしめていた。

「それに・・ そんなこと言うな。」

 

その後は・・ 18号は、ずっと、何も言わなかった。

ベッドの脇のライトだけつけていいかと尋ねた時、「好きにすれば。」と答えただけで。

緊張しちまうから 目を閉じてくれよ、と頼んだ時も、口をへの字にしたけれど

黙って言うことを聞いてくれた。

 

18号の体は、その顔や髪の毛と同じように すごくきれいで、

普通の女の人と何も変わらなかった。

華奢と言っていい外見からもわかるように、それほど鍛えぬいたという感じはしない。

つまり、恐るべき あのパワーの多くは改造によって与えられた・・

彼女の体の奥に埋め込まれた、機械の力によるものなのだろうか。

そのことが、自分の意志ではなかったのだとしたら・・・。

 

18号。 口にしようとしてやめる。

この名前だって、彼女を改造した奴が、便宜上つけた呼び名なんだ。

 

 

彼女は、おれが初めてではなかったと思う。

けど、 はっきりとはわからなかったけれど、あまり慣れているようにも思えなかった。

だけど ひとつになった時、おれの背中にそっと両手を添えてくれて、

それが とてもうれしかった。

 

何とか事を終えた後。

愛してる、って言おうと思った。

だけど それに続く、ずっとそばにいてくれという言葉を口にすることは ためらわれた。

自分でもなさけないと思うけど、おれは怖かったんだ。

こうなった後に、彼女に去られてしまうことが。

 

18号は まるで眠っちまったみたいに、瞼を閉じたままだった。

聞いていても、いなくてもいい。

おれは言った。 愛してるという言葉の代わりに。

「好きだよ。」

しばらくのち、 小さな声で、だけど確かに彼女は答えた。

「うん。」

 

 

18号がマーロンを身ごもったのは、それから すぐのことだった。

彼女はカメハウスに留まって、おれの家族になる道を選んでくれた、と思う。

あいかわらず口が悪くてキツイんだけど、

ごく たまに、おれの言うことに 「うん。」 と素直に答えてくれることがあって・・・

そんな時 おれは、あの 二人だけの最初の夜のことを思い出すんだ。

 

そして いつか、「愛してる」って きちんと言ってやった時にも、

その一言を返してくれたらいいな。

そう思ってるんだ。