西の都の、ホテルの一室。

18号が、窓から夜景を見ている。

おれのほうは、その横顔に見とれていた。

 

完璧に整っているだけに、感情があまり読み取れない。

彼女を「人形」に例えたくなるのは、わかる気がした。

 

ダブルベッドではないのに、18号は迷わずおれの隣に横になる。

おれたちは、まだそういう関係になっていなかったけれど

実は毎日一緒に眠っていた。

 

ちゃんと部屋を用意したのに、カメハウスに来た日から

『17号とは、こんなふうに寝てたから。』と譲らなかった。

 

おれは弟じゃないよ。とは言えず、

『おまえと17号って、本当の名前があるのか? 他に家族っているのかい?』 

と 聞いてみた。

 

沈黙の後、 話したくないならいいよ。

そう言う前に18号はつぶやいた。

『忘れた。』

 

記憶を消されてしまっているのか、

幼すぎて覚えてないのか、 おれにはわからない。

けれど その時、なにか痛々しさのようなものを感じてしまった。

彼女がおれを頼って身を寄せてくれるなら、それに応えてやりたい。

 

隣で寝息をたてる18号はいつもあたたかくて、

普通の女の人と何も変わらないと思った。

 

 

昼の疲れで早々とまどろんでいたら、左の頬に唇が触れた気がした。

 

そうか、初めて会った日、こんなふうにしてくれたっけ。

 

彼女の髪が、頬をくすぐる。

家にあるものとは違うシャンプーの香りで、これは夢じゃないと気付いた。

そして、自分に覆いかぶさる18号が何も着ていないことにも。

 

何か言わなきゃ、と思った途端に唇がふさがれた・・・。

 

 

マーロンが生まれて少し経ってから、三人でC.C.を訪れた。

良いお医者を紹介してもらったり、ブルマさんにはいろいろお世話になった。

 

「わぁー、カワイイ。 女の子ってやっぱり、やわらかいわよね。」

小さな赤ちゃんを抱っこして歓声をあげる母親に、

すっかり幼児らしくなったトランクスが近づいてきて覗き込む。

「この子は生まれた頃から、力が強くって・・・

 ダメよ、トランクス。 お人形じゃないんだから。」

その言葉と同時に、珍しくベジータが居間にやってきた。

 

よぉ、お邪魔してるよ。 と一応声をかけてみたけど

来客なんて視界に入れないことにしているみたいだ。

 

「食事? 母さん、キッチンにいないのかしら。」

ブルマさんはマーロンを18号の腕に返して、ちょっとゴメンね、 と中座した。

「わたしも、次は女の子がいいわ。」  無愛想な男に明るく話しかけながら。

 

「はぁー・・ベジータって、ホントにここに住んでんだなぁ。」

そして間違いなく、トランクスの父親なんだ。

 

そう付け加えている途中で、笑い声が聞こえてきた。

下を向いて、おかしそうに、18号が笑っている。

きょとんとしていたトランクスも笑いだし、小さなマーロンまでがニッコリしている・・・。

 

赤ん坊は、自分を見つめる人の笑顔で、笑い方を覚えるそうだ。

娘と一緒に彼女も覚えていけばいい。

 

声を出して笑うことを、 愛情を、 幸せを。

 

 

『笑顔の行方』

[ 『ハネムーン』の続きです。]