Sorry, I love you

ごめんね。』の続きです。 3分の1程、飯ビになってしまいました・・。]

「さわるだけなら、いいかな。」

トランクスは そう言うと、わたしの腰の寝間着のひもを するりと解いた。

「これも、とっていい?」

この日のために用意した下着は、結局 上しか着けられなかった。

器用な彼の手が それを、いとも容易くはずしてしまう。

その一連の動きは ずいぶんとスムーズで、とても慣れているように思えた。

ほんの少しだけ、複雑な気分になる。

だけど仕方がない。

わたしが物心ついた頃には トランクスは既に、今のわたしと同じ年頃だったのだから。

今夜だけでも 何度目だったか忘れてしまったキスをしながら、そんなことを考えていた。

 

離れた彼の唇は、首筋を経て 裸の胸に移動する。

溜息と一緒に、思わず 名前を口にする。 「トランクス・・・。」

「大丈夫。 痕なんか、つけないよ・・。」

そのことを心配したわけではなかった。

だけど、痕が残るのは 確かに困る。

お風呂の時、着替えの時、 トランクスの唇を、熱い吐息を思い出してしまうから。

さらさらとした髪に指を通して、その匂いを吸い込んでみる。

わたしの髪も、今夜は同じ匂いがしているはずだ。

そう、 それは、ホテルの この部屋に備えつけられていたシャンプーの香りだ。

 

わたしの胸に 幾度となく唇を押し当てた後、トランクスは言った。

「さ、 もう いい加減にしなきゃな。」 「え?」

「もう、おとなしく寝よう。 これ以上は・・ さすがに我慢の限界だ。」

おどけたように つぶやいて、体を離して仰向けになる。

そして 左腕を伸ばすと、わたしに頭を のせるよう促した。

「あのね、 いいのよ。」  思い切って、口にしてみる。

「ん? 何が?」 「トランクスがイヤじゃなければ、わたしは・・・。」

「パン・・。」

 

黙ったままで、トランクスは考え込んでいるようだった。

だけど、しばらくのちに こう言った。

「そうしたいのは やまやまだけど・・。 やっぱりダメだよ。」

薄暗がりの中、わたしの顔を見つめながら 続ける。

「パンにとっては初めての、大切な ・・・ だろ。 それに、」

一旦 言葉を切る。

「パンは、生涯 おれだけってことになるわけだからさ。 

一番最初は その、やっぱり ちゃんと、さ。」

 

生涯、トランクス 一人だけ。

確かに このまま彼の奥さんになってしまえば、そうなるのだろう。

うれしい半面、 ほんの少しだけ くやしくなって、こんなことを言ってしまう。

「そうなの?」

 

その一言に、おれは情けなくも うろたえてしまった。

「・・そうだよ。 おれは ずっと、考えてたよ。

  だいたいさ、いい加減な気持ちでパンと 付き合えるわけないだろ。」

「うちのパパが、怖いから?」  「ちぇっ。 意地悪 言うなよ・・。」

頭をのせていた腕をずらす。

わざとらしく背中を向けたおれに、パンは あわてて寄り添ってくれる。

「ごめん、 ごめんね。 ほんとはうれしかったの。 本当よ。」

おれは調子に乗った。 どさくさに紛れて、言ってみる。

「なるべく早く 結婚してくれるんなら、許してあげるよ。」

「うん。 でもね、 ちょっと不安なの。」 

「何が?」  向きを変えて、パンの顔を再び見つめる。

「わたし、まだ 子供でしょ。 世の中のこと、あんまり知らないから。」

 

いいんだよ、 そんなこと。

いつもの笑顔で、 おれの帰りを待っていてくれれば。

頭に浮かんだ 一言を、おれは口に出さなかった。

だって それじゃあ、お人形と おんなじだ。

そんなことを言ってしまえば、パンみたいな子は笑顔を見せてくれなくなるんだ。

だから、代わりに こう言った。

「勉強でも仕事でも、好きなことをすればいいよ。 子供はずっと後でもいいから。

 だからさ、一緒に暮らそう。 おんなじ家に帰りたいんだよ。」

「そうね、 だけど・・・

「まだ 心配事があるの?」 すべすべした頬に、指で触れながら尋ねる。

「あのね、 わたしまで忙しくなっちゃったら、トランクスとすれ違いになるんじゃないかと思って。」

確かに、それは あるかもしれない。 かわいいだけじゃなくて、パンは賢い子だな。

 

「大丈夫だよ。 仕事が一段落したら、どんなに遠くにいても 必ず家に帰る。」

「飛んで?」 「うん。」

そうだよ。 地球の上での話なら、距離なんて別に関係ない。

おれは何としてでも、愛しい奥さんの待つ家に帰るんだ。

「心配事は、解決した?」 「うん。 ねえ、トランクス。」

「ん? なに?」 「わたしも飛ぶわね。 飛んで、トランクスに 会いに行く・・・。」

かわいい かわいいパンを、ベッドの中で もう一度抱きしめる。

つややかな黒い髪からは いつもとは違う、ホテルのシャンプーの香りがした。

 

さあ、もう 眠ろう。 おれは明日、パンを送りがてら 孫家へ行く。

こわいけど、悟飯さんに挨拶するんだ。  こわいけど。

ああ、 それを考えたら・・

今夜は最後までしなくて、よかったのかもしれない。

『悟飯さん、すみません。』

心の中で おれは、何度も頭を下げていた。

 

 

その数時間前のこと。

悟飯とビーデル、 パンの両親である二人は 夜の公園を散歩していた。

外で食事をしてきた帰りだった。

「珍しいわよね、 あなたの方から誘ってくれるなんて。」

日中に電話をもらい、仕事が終わる時間を見計らって 待ち合わせをしたのだ。

「ふふっ。 パンのいない家に帰るのがイヤだったんでしょ。」

 

図星を突かれ、少しの間 黙っていた悟飯が口を開く。

「まったく、あきれちゃうよ。」  どうしても、ぼやきになってしまう。

「あれで 隠してるつもりなんだからな・・。」

彼らの一人娘は恋人のことを うまく隠しているつもりらしいが、

実はバレバレなのだった。

「仕方ないわよ。 わたしたちだって 昔は・・。」

そう。 かつては悟飯だって、一人の父親から 愛しい娘を奪ったのだ。

 

「それに、いいじゃない。 トランクスくんなら よーく知ってるし。 信用できるでしょ?」

「反対できないところがイヤなんだよ。 それにさ・・

ぼそり、と付け加える。

「あんなに年が離れてると、すぐに結婚って言われそうで こわいよ。」

それには答えず、歩みを止めてビーデルは言った。

「ねえ、 悟飯くん。」 その呼び方は、今は二人きりの時だけしかしない。

「ん? なんだい?」

「・・頑張ってみる? その・・ 二人目の、子供。」

「えっ、 本気かい?」

「うん。 ブルマさんが よく言ってたわ。 もう ほとんどあきらめて、

 忘れかけてた頃に、ブラちゃんを授かったって。」

 

明るい色の大きな瞳、 はきはきとした話し方。

彼女は いつでも自分を支えて、勇気を与えてくれた。

そんな妻の肩を抱き、歩きながら 悟飯は言った。

「どこかに、泊まって行こうか。」 「・・いいの?」

「構わないさ。 たまには。」

 

だが ビーデルが うっかり発した一言で、彼は再び うなだれる。

「でも 今から産んだら、パンの赤ちゃんと同い年になっちゃうかもね。」

「・・・。」

あわてて付け加える。 

無言になってしまった夫の頬に、そっと唇で触れながら。

「ごめんね!」