『明日』
[ 『予感』の続きです。]
初めて会った日、言ってたことは本当だった。
生まれ変わろうとしている、新しい街。
人手の足りないあちらこちらを走りまわるみたいに、彼女はとってもよく働いた。
元気でその場を明るくしてくれる彼女は、人気者だ。
そのことはうれしいはずなのに、
彼女のことを好きな男がたくさんいるだろうと考えると、
なんだか複雑な気持ちになってしまう。
家への帰り道や夕食の後、僕たちはたくさん話をする。
お互いの子供の頃のこと。 大切に思っている人のこと。
そして、僕が行って来た過去の世界の話。
近頃、母さんはさりげなく席をはずすようになった。
時々、「がんばるのよ。」と僕に耳打ちまでする。
ある時、僕は彼女に聞いた。 「好きな人、いるの?」
僕の目をまっすぐに見て、彼女は答える。
「うん。 いるわよ。」
そして、こう続けた。
「トランクスは、ブルマさんが好きなんでしょう?」
僕は一瞬、言葉を失う。 「何、 言ってるの?」
「あ、おかあさんのことじゃないわよ。
過去の世界で会ってきたほうの、 ってこと。
話を聞いてて、思ったの。 ・・・トランクスは、おとうさんによく似てるのね、 きっと… 」
言い終わらぬうちに、僕は彼女を抱きよせた。
「・・・今は、君が好きだよ。」
「うん、 あたしも好きよ。 でも、いいの?」
何が、 と尋ねると、
トランクスを嫌いな子なんていないのよ。 と言って笑った。
そして、目を閉じた彼女。
僕は金色の前髪をちょっとつまんで、もうひとつのまぶたに唇を当ててみた。
「こっちの目も、閉じてるんだね・・・。」
「あ、そう? 自分じゃ、わからないのよ。」
あっけらかんと言う彼女に、もう一度キスする。
今度は、ちゃんと、唇に。
一人の部屋。
ブルマは心の中で、天国にいる仲間たちに話しかける。
トランクスがあの子を連れて来た時、 両親の名前を告げた時。
あの子を抱きしめて、わんわん泣いちゃったわ。
よく無事に大きくなったわね、って。
よく会いに来てくれたわね、って。
あの子はトランクスの初めての親友に、 恋人に、
いずれ家族になってくれるかも。
そうなるといいわね。
タバコに火を点ける。
わたしは、寂しくなっちゃうけれどね。 ・・ほんの少しね。
いつの間にか、ブルマが話している相手は変わっていた。
この世にも、天国にも、いない男に。