以前、『ベイビーブルー』という お話を書いていまして・・・

よろしければ、そちらも併せて読んでみてください。]

17マロ、17⇒18風味が強いです。

金髪と、青い瞳はママから受け継いだ。 

だけど顔立ち、特に目元は誰が見ても、パパにそっくりだ。

そのために、小さな頃から、周りの人に言われ続けてきた。

『マーロンちゃんって、お母さんに全然・・。  お父さん似なのね!』

 

普通ならば、コンプレックスになるのだろうか。 

だけど わたしは、それほど気にならない。

何故なら そう言った人は後から、いろんな言葉でフォローしてくれるから。 

それを聞くのが、面白いのだ。

髪や瞳を誉められることが多いけれど、もう一つ、よく言われる言葉があった。

『お父さん似の女の子は、幸せになれるって言うわよね。』

それは わたしの、大好きな言葉だ。

 

それに、家ではパパとおじいちゃん・・ 

本当のおじいちゃんではなくて、パパの武術の師匠なのだけど・・ が、

かわいい かわいいと、しつこいくらいに繰り返す。

ジェットフライヤーで送り迎えしてもらって通っている学校には、仲の良い友達が たくさんいる。

そして 今年のホワイトデーには、バレンタインデーにチョコをあげなかった男の子からも、

プレゼントをもらってしまった。

 

そのことを、家に帰ってから ママにだけ打ち明けた。

すると、「得したじゃないか。 よかったね。」 と、あっさりとした答えが返ってきた。

だけど その後、こうも言った。 

「クリリンには黙っておきな。 あれこれ聞かれるだろうし、ゴチャゴチャうるさく言うに決まってるから。」

「うん。」  わたしは素直に頷いた。 

男の子のことでパパの機嫌が悪くなると、ママまで怒ってしまい面倒なのだ。

ただし わたしにではなくて、パパに対して。 要するに、やきもちだ。

 

髪を短くし、服装も地味にして、若く見えすぎないよう 気を遣っているママ。

ママが普通の人間ではないことに、わたしは気付いている。

だいたい 18号なんて名前を、自分の子供につけるわけがない。

同時に わたしは、17号と呼ばれている 叔父さん・・・   

ママの双子の弟である彼のことを、考えていた。

 

ママとは違い、若く見えることを武器にしているような 叔父さん。 

まっとうな仕事には、ついていないらしい。

ふらりと やって来て、この家に顔を出すと、ママはいつも そのことを怒る。

ニヤニヤしながら聞き流そうとする 叔父さんに、

「クリリンに迷惑をかけたら、承知しないからね。」  そういう意味の言葉をぶつける。

そんなママに向かって、叔父さんは いつも こう答えていた。

「大丈夫だよ。 おまえの幸せを、壊したりはしないよ。」 

・・・

 

こんなことがあった。  

あれはわたしが6歳の頃、小学校に通い始める少し前のことだ。

パパとママとわたしの三人で、どこかに出かける予定だった。 

なのに わたしは、風邪をひいてしまった。

当日は もう、ほとんど治っていたのだけど、

大事をとって おじいちゃんと二人で留守番をすることになった。

普通の外出なら、日延べするか 取りやめると思う。 

多分、パパのお仕事に関係のある お呼ばれだったのだろう。

 

具合が悪いわけではないから、退屈だった。

『そうだわ。』  わたしは その日、着るはずだった新しい服を出してきて 着替えた。

おじいちゃんに、見咎められる。 

『こりゃ。 それは、入学式の日にも着るんじゃろ。 汚したら叱られるぞ。』

『わかってる。 すぐに着替えるわ。』 

 

隙を見て、ドアを開けて、外に出た。

とても いいお天気だったけど、風が冷たい。 

くしゃみを一つした後で、顔を上げた わたしは驚いた。

目の前に、叔父さんが立っていたのだ。

『よお。』  『・・・こんにちは。』 

『どっか行くのか?』  いつもと違う服装に、気付いたらしい。

『お留守番よ。 パパとママは出かけちゃった。』 

『なんだ、置いてけぼりか。』

風邪をひいてたからよ。 言いかえす前に、叔父さんは言った。 

『じゃあ、おれと どっかに行くか?』

 

・・・あの時、どうしてダメだと言わなかったんだろう。

ママが知ったら、きっと怒る。 わかっていたのに わたしは、叔父さんの腕に抱えられていた。

気配に気づいて 家から出てきた おじいちゃんに、『行ってきます。』 手を振った。 

空の上から。

 

『で? どこに行きたいんだ?』  『・・・ じゃあ、遊園地。』

口に出してから、少し後悔した。  

服が汚れてしまうことを心配したのと、デパートと言えば よかった、と思った。

この服をすすめてくれた店員さんは、とっても優しかった。 

だから、着ているところを見てもらいたかった。

だけど 叔父さんは、あんまり お金を持っていないかもしれない。

そういう人がデパートに行っても つまらないだろう。 そう考えたのだ。

遊園地だって入場料がいるということを、その頃の わたしは まだ知らなかった。

 

たどり着いた遊園地は ジェットコースターの類が多い所で、

チビだったわたしには あまり、乗れる物が無かった。

けれども 買ってもらったアイスクリームを食べながら、訪れている人達を眺めるだけでも面白かった。

お父さんと、お母さんと、子供。 

どちらか片方に よく似ている子、どちらにも半分ずつ、似ている子。

 

ベンチの隣に座っている、叔父さんの横顔を見つめる。

叔父さんとママは、よく似ている。  

お父さんとお母さんの、どちらに似ているのだろう。 

どちらが金髪で、どちらが黒い髪だったのだろう。

尋ねてみたら、何て答えるだろうか。 

怒ったような、困ったような顔をして、『知らないよ。』 と言うのだろうか。 

ママと、同じように・・。

 

『どうかしたか?』   声をかけられ、わたしは咄嗟に こう答えた。 

少し離れた場所にいる、きれいな女の人に視線を向けて。

『あの女の人、ママに似てるね。』  

フン、と鼻を鳴らして、叔父さんは答えた。

『どこがだよ。 あいつの方が ずーっと・・ 』

美人だ、ということだろう。  

その後、わたしの顔を見つめながら、叔父さんは こんなことを言った。

『おまえは あんまり、美人になりそうにないな。』

 

・・・失礼な言葉だ。  だけど腹は立たなかった。 

叔父さんの声は優しかったし、あまり大きくない手のひらが、わたしの頭を そっと撫でてくれたから。

 

それから、少し経ったのち。 聞き慣れた声が、耳に飛び込んできた。 

『マーロン!!』

『パパ! ママ!』  気がつけば、もう 夕暮れが近かった。

『心配したぞ。 まだ風邪が、治りきってないってのに・・。』  

パパが、わたしを抱き上げる。

ママは怒ったような顔で、叔父さんの顔を じっと見ていた。  

だけど 意外にも、強い言葉を ぶつけることはしなかった。

 

いつもの調子で、叔父さんは言った。 

『悪かったよ。 おまえの幸せを、壊したりはしないよ。 ・・・。』

いつもと同じ、一言。 だけど最後に、女の人の名前を付け加えた。 

もしかして、それは・・・。  

でも ママは、返事をしなかった。

 

『またな、マーロン。 その服、まあまあ似合ってるぜ。』  

そう言って、叔父さんは飛び去って行った。

周りにいた たくさんの人達が、驚いて騒ぎだす。 わたしたちも足早に、その場所を立ち去った。

『まったく・・。 目立つことは控えろって、いつも言ってんのに。』  

ぼやいてから パパは、ぽつりと小声でつぶやいた。 

『・・・っていうんだな・・。』

 

けれど 結局、パパはママを、その名前では呼んでいない。

 

その夜、わたしはまた熱を出した。 でも すぐに治って、元気になった。

それからも 叔父さんは時々、忘れた頃に ふらりと家にやってきた。 

あんなふうに、一緒に出かけることはなかったけど。

 

 

あれから七年ほどが過ぎ、 わたしはもう 中学生だ。

今日は日曜日。 

パパとママは二人で出かけて、わたしは おじいちゃんと留守番をしている。

そろそろ、お昼ごはんの用意がしたい。 

それなのに、 かかってきた電話が なかなか終わってくれない。

「それじゃあね。 明日、学校でね! バイバイ!」 

やや強引に通話を終えると、おじいちゃんが笑っていた。

「冷たいのう。 男の子なんじゃろ? 相手は。」

「うん。 同じクラスの、友達よ。」

「もてるんじゃな、マーロンは。 あんまり べっぴんすぎないところが いいのかもしれんな。」

結構、失礼な言葉だ。 でも まあ、事実だから腹は立たない。

 

その時。 窓の外に、人の気配を感じた。

玄関のドアを開ける。 立っていたのは、案の定・・・ 「叔父さん。」 

「よお。 久しぶりだな。」

「ママは いないわよ。 パパと出かけちゃった。」 

「なんだ。 また置いてけぼりかよ。」

「・・・。 テスト勉強があるから、行かないって言ったの。」 

「ふーん。 風邪ひいちまったわけじゃないのか。 じゃあ また、遊園地でも行くか?」

「・・・。」  

わたしは足を、踏み出しかけた。 だけど、やめた。 

「いいわ。 言ったでしょ、勉強があるの。」

その代わり、言ってみる。 

「それより、今から お昼ごはんなの。 叔父さんもどう?」

 

手を取って 促すことは、照れくさくって できなかった。 でも、叔父さんは笑って答えた。 

「食べられるものを出してくれよ。」

ママとよく似た、皮肉の混じった笑顔で。

 

食卓を整えながら、わたしは考える。 

電話とプレゼントをくれた、同じクラスの男の子。 

彼の話を叔父さんにしたら、いったい何て言うだろうか。

『へえー、意外だな。 まあ、あんまり美人すぎないところが いいのかもな。』

きっと、こんなふうに言うと思う。

Funny Face