『神龍への願い事』

LLV』のmei様が、管理人の同名作品の続きとして書いて下さったものです。]

普段と変わらぬ夜。
ブルマが忙しそうに明後日からの出張の準備をしていると、ベジータが今から出掛けるぞ、と言って寝室の窓からカプセルコーポレーションの本社ビルの屋上庭園へとブルマを連れ出した。
「珍しいじゃない―――ベジータのほうからこういう場所に誘ってくるなんて」
「ブルマ・・・おまえ、何か企んでいるだろう?」
「・・・・・・別に何も」
「ならいいが」
「・・・・・・」
ベジータは自分に背中を向けてフェンス越しに外の景色を眺めているブルマの横へいくと、自分はその景色に背中を向けてフェンスに寄りかかった。
「忙しいのか、仕事」
「うん、だいぶね〜明後日は朝早くから行くつもりよ」
「最初はどこからだ」
「最初はね・・・って―――
ど、どこからっていう問題じゃないでしょ?出張だもの・・・・・・」
「期間が長いって聞いたからな、5〜6箇所回るのかと思ったぜ」
「・・・・・・」
「気をつけて行けよ」
「うん、ありがと」
ブルマは振り返って微笑むと、庭園内をゆっくりと歩き始めた。

 しばらくの間、ベジータは腕を組んだままただ黙って、ゆっくりと進むブルマを目で追っていた。
そして、ブルマが庭園の半分ほどで折り返して自分のところへ戻ってきたところで口を開いた。
「前にもう一人子供が欲しいとか言っていたが、今はどうなんだ?」
「ん?子供ねぇ・・・・・・そりゃ、できたら嬉しいわよ。でも、それは諦めたわ」
「若返れば大丈夫じゃなかったのか?」
うふっ、そういう問題じゃないのよ〜、と笑いながら、ブルマは近くにあったベンチに座った。
「だって、もし次も女の子だったら、絶対あんたはその子も可愛がるから・・・
今だってあんたの半分はブラものでしょ?
男の子だったら小さい頃から鍛え上げそうだしね。
結局、ベジータがあたしのものでいてくれる時間が短くなっちゃうもの」
「・・・・・・」
「だから、万が一若返ったとしても子供が欲しいとは言わないわよ。あっ、でも出来ちゃうかもね?
だって若くなって魅力的になったら、今よりもっと―――」
「そうは思わんがな」
「えっ?」
「急におまえが若くなったとしても、それで魅力的になるかといえば、違うだろうな」
「・・・そう?肌とかピチピチのほうが良くない?」
ベジータはそれには答えず、くるっと体の向きを変えるとフェンスに片手をかけて夜空を見上げて続けた。
「オレがもし永遠の命を手に入れていたら、どうなっていた?」
「そうねぇ・・・今頃地球はなかったわよね、きっと。私も殺されてるだろうし」
「―――今となっては、叶わなくて良かったと思っている」
「想像しただけで怖いわね、そうならなくて良かったわ」
「つまり、叶わなくてもいいくだらん願い事だった、というわけだ」
「・・・?」
ベジータが何を言わんとしているのか―――ブルマにはその真意が理解できなかった。
そして、夜空の星を見上げるベジータをただ後ろから見つめていた。

 程なくして、ベジータはフェンスを離れてブルマの横へと腰掛けると、ブルマを軽々と抱えて自分の上に横座りさせた。
ブルマは戸惑いながらも両腕をベジータの肩へと回し、しっかりとその腕に力を込めた。
そして、自然と近づいた相手の顔をしばらく見つめると、そのまま逞しい首筋に顔を埋めた。
「―――もしおまえが若返ったとしたら、きっとこうはできんだろうな」
「・・・どうして?」
「そうなったら、オレの知ってるブルマじゃなくなるからな」
そう言いながらベジータはブルマの首筋に手を添えると、その白い肌に唇で赤い模様を浮かび上がらせた。
「痛っ・・・そんなにきつくキスマークつけないでよ―――しかも目立つじゃない、ここ」
「願いが叶えば、こんなものもあっという間にきれいさっぱり、だ」
「・・・ベジータ―――」

ブルマは赤くなったその箇所を指で触れながら、自嘲気味に言い放ったベジータを見た。
そして彼の頬のほんのりとした赤味と視線を逸らして遠くを見つめるその表情より、彼の真意にやっと気がついた。
今まで数え切れないほど、ベジータによって全身に刻み込まれた痣、傷・・・・・・
全身きれいになって若返ったところで、この体に刻まれたたくさんの想いまでがクリアされてしまったとしたら・・・
少しでも一緒にいたいという願いが叶ったところで、全く意味はなくなってしまう。
そう考えたブルマの瞳に、うっすらと涙が浮かんだ。

「・・・やっぱり、あんたの言うとおりね。若返っても仕方ないかも」
「仕方ないとは言わんが、今のままで構わんとは思う。
だから―――明後日からの偽出張はキャンセルしろ」
「・・・・・・気づいてたの?」
「当たり前だ。
どうせオレがあんまり乗り気じゃなかったから黙って出掛けて、変身して帰ってこようとでも思っていたんだろう」
「何でもお見通しね・・・」
いつものように拗ねて唇を尖らせるブルマに対して、ベジータはふっと笑いかけると、その尖らせた箇所を柔らかく揉み解すように自らの唇を優しく重ね合わせた。
しかし。
ブルマの唇の力が抜けて吐息が漏れたその刹那、プルルル プルルル、とブルマの携帯が上着のポケットの中で鳴り始めた。
「もう〜こんなときに・・・」
ブルマが慌てて携帯を取り出すと、相手の番号はクリリンだった。
それに気づいたベジータが、怒った声で電話に出て一喝した。
「おい貴様!今何時だと思っ―――?」
「どうしたの?」
呆れた表情で電話を切ったベジータに、ブルマが尋ねた。
「クリリンじゃない、タチの悪いエロじじいが酔っ払って間違い電話をかけてきやがっただけだ」
「そうよね、クリリン君だったらこの時間にかけてきたりしないわよね〜」
そう言いながら、ブルマはふと昔のことを思い出した。
「そう言えば、昔クリリン君をドラゴンボールで生き返らせるときに、ベジータに助けてもらったわよね」
「そうだったかもな」
「それに悪いブウに地球を壊されて人類が全滅しちゃったときも―――」
「・・・それがどうした」
「ベジータは、ドラゴンボールで願いを叶えてもらう名人なのかな、と思って」
「ああいうのは本当に必要なときに必要なことだけ頼めばいい」
「そうよね〜じゃあ、もう神龍へ必死に願わなくちゃいけないような世界になりませんように、というのはどう?」
「ふんっ、そんなことは近くの神社にでも拝んでおけ」
「あら、今のは冗談よ?でも、神社行った時はそう拝んでおくことにするわ」
ブルマはそう言って、ベジータの頬にちゅっ、と軽くくちづけた。
それを合図に、2人は体をぴったりと寄せながら、再び唇を重ね合わせた。
ベジータは、未だ鮮やかなブルマの首筋の赤い模様を指で撫でながら、ブルマは明後日からの休日をベジータとどうやって過ごそうか考えながら。