149.『神龍への願い事』
夜、 寝室。
ベジータは、ベッドの上に横たわってくつろいでいた。
ドレッサーの前で、長いこと肌の手入れをしていたブルマが、やぶからぼうに言った。
「ねぇ、 一緒にドラゴンボールを探しに行って。」
「なんだと?」
ベジータは何事かと、半身を起こした。
「あ、 今すぐじゃなくていいのよ。
あと何年かして、会社や子供たちの手が離れてからで。」
「何のためにだ。」
「若返るためよ。 わたしが。」
ベッドに腰かけたブルマは大まじめだ。
ベジータはあきれて、非難する気にもなれないようだ。
「だって・・・ 若くてきれいなほうが、いいでしょ?」
「くだらん・・・。」
ブルマは、形の良い唇をとがらせる。
「あんたのためじゃないわよ。 子供たちは、そのほうが喜ぶと思うの。」
またたく間に、夢見るような表情に変わっていく。
「10代になったブラとお買い物に行って、お姉さんに間違えられたり・・・ 」
「喜ぶのは、おまえのほうだろう。」
夫のコメントは、聞こえないふりをする。
「トランクスと二人で街を歩いたら、恋人に間違えられちゃうかもね。」
その言葉を聞いたベジータは、露骨にイヤな顔をする。
この手の軽口に、いちいち本気で反応するのがこの男の良いところだ。
「冗談よ。若くなれたら、もう一人くらいあんたの子がほしいな、と思って。」
長いまつ毛を伏せて、ブルマはつぶやく。
「だって、もう無理だものね。」
「・・二人もいるんだ。 もう、いいだろう。」
ベジータは、妻の手をとって引き寄せる。
「うん・・・。 ほんとは、まだほしかったんだけど、まぁ、いいわ。
あんたに手がかかりすぎるし。」
ベジータが聞き返す。 「なんだと?」
「あんたって、ある意味、子供よりも手がかかるのよ。 自覚してないの?」
「こっちのセリフだ。」
仰向けにした妻を、組敷くかたちで言葉を続ける。
「おまえときたら、欲深で、口のへらない・・・ 」
ブルマは最後まで話を聞かずに、夫の頬を両手ではさんで、そっと短いキスをする。
「・・かわいい女、 でしょ?」 「・・フン。」
自分を見つめる、ブルマの大きな青い瞳。
力の加減に苦慮しているこちらの気も知らずに、白くやわらかな肌を無防備に押し当ててくる。
一体どのあたりが昔と違うというのか、彼には本当にわからなかった。
「ふふっ・・・ そんなふうにしたら・・・ 」
屈強な背中に、華奢な腕をきつくまわしてブルマはささやく。
「赤ちゃんができちゃうかもね。」
「チッ、 まったく下品な女だ・・・。」
ベジータ。
あんたが、わたしの手の届かない所に行ってしまわないよう神龍に願いたいって、
そう思った日もあったのよ。
でも、そのことはもう、考えなくてもいいわよね?
わたしが若くなりたい一番の理由。
それは、あんたと一日でも長く一緒にいたいからなのよ。
だってわたしは、とっても若く見えるけど本当はそんなでもない、
ごく普通の女だから。