『ただいま』

[ ベジブルSSの『おかえり』の悟チver.です。]

願いは叶えられた。

 

ポタラによって合体してしまった悟空とベジータは、

どうにかそれぞれ、元の姿に戻ることができた。

 

「ベジットさん、消えちゃったの・・・。」

寂しそうにつぶやいた悟天の頭を、実の父親の温かな手のひらがそっとなでた。

 

その様子をチチは少し離れた自宅の前で見守っていた。

気づいた悟空が手を振って声をかけると彼女は家に入り、玄関の戸を閉めてしまった。

駆け寄って扉を叩く父親を追いかけようとした悟天に、ベジータが一言つぶやいた。

「二人だけにしてやれ。」

 

数分ののち、扉が開いた。

 

「チチ・・・ 怒ってんのか?」  「怒ってねえ・・・  」

少し目を赤くしたチチの答えが終わる前に、悟空は妻を抱き寄せた。

「外にみんな・・・ 悟天もいるんだべ。」

「誰もいねーぞ。 悟天はトランクスと飛んでっちまったぞ。」

 

窓から確かめようとしたチチを、悟空が軽々と抱きかかえる。

「ちょっ・・・  何するだ。 昼間っから。」

あっという間に寝室に運ばれた彼女が抗議すると、

着ていた道着をすばやく脱ぎすてた夫が覆いかぶさってくる。

 

「だってさ、 半年も・・・  きつかったぞ。」

「もっともっと長いこと、平気で留守にしてたくせに・・・ 」

「そばにいんのに、さわれないのがつれーんだよ。」

 

その一言でチチは観念し、 結いあげていた長い黒髪をほどいた。

 

「・・・チチは暑くねーのか。 一体、何枚服着てんだ?」

やわらかな肌にようやくたどりついた悟空があきれたように言って、

チチが頬を膨らませる。

「悪かったな、寒がりで。 もうオバさんなんだ・・・。」

「えー、前と変わってねえじゃん。 どこが違うんだ?」

窓から日の差し込む部屋で、数年ぶりの妻の体をしげしげと見つめる。

「もうっ、 そんなに見ねえで。」 「なんだよ、 隠すなって・・・ 」

 

無防備な姿を隠そうとする彼女の腕を、悟空の大きな手がとらえて掴む。

妻を抱くときだけはひどく慎重な彼だったが、こんな時は違っていた。

 

 

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

薄暗がりの中、夫の顔が目の前にある。

 

「何時だ・・・。 夕飯の支度しねえと・・・ 」 「まだ、いいよ。」

悟空にしては珍しい言葉で、起きようとした妻を制する。

 

「さっき、ブルマのかあちゃんから電話があったよ。

 悟飯も悟天も、C.C.に泊まるって。」

電話が鳴ったことにも気付かなかったなんて。

 

話をしている時も、夫は自分の顔をじっと見ている。

「もう、なんでそんなにジロジロ見てるだ・・・ 」

照れて目を伏せるチチに、悟空は言った。

「かわいーな、 と思ってさ。 寝顔は、よく似てんだよな。」

 

ああ、 そうだった。

一度目の死の前。  夫が地球人ではないなんて、考えもしなかった頃。

誰もが父親似だと言った長男のことを、

この人だけは自分に似ていると言っていた・・・。

 

死んでしまって、 戻ってきて、

消えてしまって、 戻ってきて。

病による死を免れたと安堵したとたん、結局また逝ってしまった。

思いがけずに授かった次男は、さらに夫によく似ていた。

今では自分と出会った頃の姿に生き写しだ。

 

「悟天、オラにそっくりだけどさ、 やっぱり寝顔はチチに似てんだよな。」

昼間は隠した涙が瞳にあふれだす。

 

夫はまた、戻ってきた。   自分と、子供たちの元に。

本当は、半年前に戻ってきていた。

 

「おかえり、  悟空さ。」

 

二人は、再び重なり合った。

 

夕闇が辺りを包む。

空には星が、輝き始めていた。