122.『おかえり』
[ 169.『彼女の彼』のつづきです。]
天界で、皆が驚いたあの日から半年余り。
さすがの神龍も戸惑ったらしく、やけに時間がかかったものの
どうにか悟空とベジータは、それぞれ元の姿に戻ることができた。
心配して迎えにきていたトランクスは歓声をあげたが、
ベジットと過ごすことが多かった悟天は、少しの間複雑そうな顔をしていた。
だが、自分によく似た実の父親の姿を見ているうちに笑顔が戻ってきた。
その時。
「チチ・・・。」 悟空が、妻の名を呼んだ。
チチは自宅の扉の前で見守っていた。
しかし、夫の呼びかけに答えず
泣いている顔を隠すように扉を閉めてしまう。
悟空は駆け寄って、家の扉を叩く。
「開けてくれよ・・・。」
無理やり家に入ることは、意味がないとわかっていた。
やがて扉は開かれた。
両親のもとへ行こうとする悟天をベジータが制し、
自分の息子に目くばせをした。
「悟天、 ああいう時は邪魔しちゃいけないんだぞ。
おれんちに行って、遊んでいようぜ。」
「でも・・・。」
「おばあちゃんが、おやつをくれるよ。 新しいゲームもいっぱいある。」
不安げだった悟天の表情が明るくなる。
息子たちのやりとりを見届けぬうちに、ベジータは飛び去ってしまった。
「あーあ、 もう飛んでっちゃった。
ママ、今日は仕事でよその会社に行ってるのに。
まぁ、 気でわかるのか・・・。」
父親にあきれながらもトランクスは親友を連れて、
西の都の我が家を目指した。
商談を終えたブルマは、ガラス窓の外に愛する男の姿を見つけた。
ここは高層ビルの上の階だ。 窓は開かない。
ベジータが短気を起して壊したら、おおごとになるかもしれない。
ブルマは身振りで上を示し、階段を駆け上がる。
この階ならば、屋上のほうが近いのだ。
しかし、外へ出る扉が開かない・・・。
「待ってて、ベジータ。 今、カギを・・・ 」 「どいてろ。」
簡単に扉は開いた。 破壊音とともに。
でも きっと、ガラス窓よりましだろう。
ブルマがベジータに飛びつくと同時に、彼は彼女をしっかりと抱きかかえた。
ブルマは、驚いて集まってきた社員たちに空中から声をかけた。
夫の腕の中で。
「お先に失礼するわ。 ドアはちゃん弁償しますって、伝えておいて。」
空の上で、今やなつかしい顔を見つめて話しかける。
「ちゃんと戻ったのね。 今日は仕事を抜けられなくて・・・ 」
逸らしていても、彼の目に鋭さはない。
「明日はお休みするわ。 トランクスのことは、母さんに頼む・・・。」
返事はないが、口元にかすかな笑みが浮かんでいる。
しばらくしてから、小さな声で彼は答えた。
「覚悟しろよ・・・。」
屈強なその腕は地上に降りた後も、決して彼女を離さないだろう。
C.C.の子供部屋では、
トランクスと悟天が新作のゲームに興じていた。
画面に夢中のままで、悟天はつぶやく。
「おもしろいね!! ゲームなんて久しぶりだよ。
ベジットさんの特訓、 きつかったからなぁ・・・。」
慣れた手つきでリモコンを操作しながら、トランクスは答える。
「ママにそれ話したらさ、ヨッキューフマンなんでしょ、 って。」
「それ、なに?」 「さあな・・・ 」
おやつを運んできたブルマの母が、声をかけてきた。
「悟天ちゃん、今日は泊まっていってね。
悟飯ちゃんも、そうした方がいいわね・・・
あなたたち、後で高校までお迎えに行ってあげて。」
全宇宙を救った英雄は、
やっと、やっと愛する妻をその腕に抱くことができた。
そして、ひそかに気を揉んでいた家族も
ようやく胸をなでおろしたのだった。