169.『彼女の彼』

[ ブウ戦後、もしも悟空とベジータが、

ベジットのままで戻ってきていたら・・?というパラレルです。]

大きな戦いが終わった。

 

ナメック星の人々の協力で、荒れた地球と犠牲者は蘇ることができた。

天界では、家族や友人たちが

強大な敵を倒して帰還した、一人の英雄を迎えた。

 

そう、 彼は一人だった。

ベジットと名乗る、一人の男になってしまっていたのだ。

 

「えーーっ、 ポタラで合体しちゃったら、戻れないの・・・?」

「ぼくたちみたいに、フュージョンにしておけばよかったのに・・。」

 

彼の幼い息子たちの言葉に、周囲も複雑な表情を隠せなくなった。

やむをえない事態だったとはいえ、とかくサイヤ人というのは後先考えない、 と・・・

 

「ドラゴンボールが使えるようになるのを、待つしかないわね。」

ベジットの前につかつかと歩み寄って、ブルマが言った。

「・・・見た目は孫くんに近いのね。 背も高いし・・・。

 ね、 とりあえずチチさんたちと帰りなさいよ。」

「でも、ブルマさ・・・ 」

チチを遮り、ブルマは続ける。

「ブウのおかげで、全然ゆっくりできなかったでしょ?

 チチさんの手料理食べて、少しの間休むといいわ。」

 

そして踵をかえして、ジェットフライヤーの入ったカプセルを投げた。

 

 

その日の夜更け。

ブルマは、窓の外に気配を感じた。

 

「どうしたのよ・・・。」

ベジットだった。  窓を開ける。

「こっちにいたのか。」

その言葉に、彼女の胸は締め付けられる。

 

その夜、ブルマは以前の自分の部屋のベッドにいた。

夫婦の寝室に、一人で眠るのはイヤだったのだ。

「やっぱり、あんた、半分はベジータなのね・・・ 」

腕を伸ばし、両手で、彼の頬に優しく触れる。

 

「昔、 この部屋によく来てたわよね。

 ドアからだけじゃなくて、こんなふうに窓からだって。」

 

それには答えず、ベジットはつぶやく。

「眠れないんなら、会って話をしてこい、ってチチが・・・ 」

「そう・・・ じゃ、今夜はここで寝ていったら。」

ベッドに横になった彼に、ブルマは毛布をかけてやる。

その腕を大きな手がとらえ、体を引き寄せられる。

 

「ダメよ・・・  半分は孫くんなんでしょ。」

「わかってる。   眠るだけだ。」

「今夜だけね。 だって、わたしがつらいもの。」

 

死んでしまって、二度と会えなくなるよりも ずーっとマシなはずなのに。

 

ブルマはベジットの頬を 唇でそっと触れて、目を閉じた。

 

翌朝。

「ドラゴンボールで元に戻るまで、こっちには来なくていいわよ。

 暇だったら、悟天くんの相手をしてあげて。

 あの子は、お父さんを知らないんだから。」

 

飛び去るベジットに小さく手を振り、ブルマはしばらくの間、空を見上げていた。

 

 

昨夜、 眠りに落ちる前、わたしは彼に言ってしまった。

 

「・・・わたしのこと、 好き?」   「ああ。」

 

愛してる? と聞かなかったとはいえ、素直な返事に驚いた。

「びっくり・・・。 孫くんが言わせてるの?」

 

数秒間の沈黙ののち、彼は答えた。

「ちがう。」

 

ベジータ。  わたしはここで、あんたを待ってる。

だから今度は、ちゃんと言ってね・・・

 

約半年後、ドラゴンボールによって

悟空とベジータは、無事に元に戻ることができた。

 

ブルマの願いがかなえられたかどうか、

それは当人たちにしかわからない。

しかし、 彼は二度と彼女のそばを離れることはなかった。