『ありきたりなロマンス』 その3

洒落た店で、グラスを次々に空けるトランクスから

ブラちゃんが不機嫌だった理由の一部を聞かされた。

しつこい男を手荒なやり方で追い払った父親のおかげで、

彼女は学校でイヤな思いをしたらしい。

 

「この間も、ヘンな奴らにからまれてたよ。もてるのも大変だなあ。」

「ブラは、おまえのことを気に入ってるんだよ。 昔からな。」

酔ってるのか、そうじゃないのか、トランクスは意外なことを口にする。

「まさか。 ブラちゃんにとっちゃ、おれなんておじさんだろ。」

「おまえは、俺より年下だろ・・・。」

皮肉な笑い方をすると、ベジータさんにそっくりになる。

 

それに、あいつの初恋の相手、ヤムチャさんだぜ。 

耳打ちされて へぇーーーーー!! っておれが驚いて、

二人して笑った。  まるでずーっと昔みたいに。

 

「悟天、結婚しないのか。 親父も兄貴も早婚なのに。」

それには答えず、おれはトランクスに同じ質問をした。

「・・・大企業の社長が、いつまでも独身じゃまずいんじゃないのか。」

 

トランクスが、またグラスを空にした。

 

「忙しいしな。 ・・・それに・・・。」

沈黙のあと、彼は続けた。

「母さん、体の具合が良くないんだ。」

 

「え・・・。 ベジータさんは、知ってるのか。」

「母さんは、そういうこと、父さんに言わないんだよ。 昔っから。 絶対にな。」

また、口の左端だけを上げる、父親ゆずりの表情になった。

 

「心配かけたくないのかな。」

「まぁ、そういうことなんだろうけどな。」

どこか、自嘲気味に言葉を続ける。

 

「もし、敵が現れたら、父さんは母さんを守り抜くさ。

 何としてもな。 でも、父さんはそれしかできないんだ。」

 

ただ、そばにいてやることだけしか。

トランクスがぽつりと付け加えて、

それを聞いたおれは、 ちょっと疲れてるんじゃないか、

なんてありきたりなことしか言えなかった。

 

祖父が興して、母が大きくしたC.C.を、これから背負っていくトランクス。

彼が抱える、いろんな思いを受け止めてくれる人が、早く現れるといい。   

心からそう願った。

おれの兄さんに、ビーデルさんがいるように。

 

そんなことを考えながらアパートに戻ると、玄関の前に女の子が座り込んでいた。

「ブラちゃん・・・。」

[ その4・終につづく ]