『春を待つ季節』

ブラは15歳くらいのつもりで書きました。

ベジブルSSの『ヘアスタイル』と併せてお読みいただけるとうれしいです。]

「ブラ、とってもかわいいものね。 わたしにそっくりで。」

 

ママは、確かにそう言っていた。

パパはその時、何も言わずにちょっと笑った。

別に深い意味なんてないのは、わかってる。

だけど落ち込んだときには、いつもこんなふうに考えてしまう。

 

わたしは、ママにそっくりだからかわいいの?

みんながわたしをかわいがるのは、ママにそっくりだからなの?

 

「寒いな・・・ 」

風が冷たいけれど、週末だから人が多い。

友達と遊ぶ気にはなれなかったわたしは、一人で街を歩いていた。

 

「ブラちゃん?」

聞き覚えのある声が、わたしを呼びとめる。

待ち合わせしている人達がたくさんいる場所に、悟天が立っていた。 

一人で。

 

「一人なのかい? 珍しいね。」

「別に。 誰か待ってるの? もしかして、デート?」

「まぁね。」

ふぅん。  ニコニコしちゃってさ。

 

その時、着信音が鳴った。  悟天の携帯に、メールがきた。

「ちょっと遅れるみたいだ。」

 

・・・わたしだったら、こんな寒い日に、外で恋人を待たせたりしないのに。

 

「ねぇ、 あそこで待てば?」

近くのコーヒーショップを指さしながら、言ってみる。

「でも・・・ 」

「窓際の席なら、すぐ気付くわよ。

 寒いから、コーヒー飲みたいの。 ねぇ、 いいでしょ。」

 

窓のそばの席に着いてマフラーをはずすと、静電気で髪の毛がまとわりついた。

「もうっ。 邪魔でイヤになっちゃう。」

それでつい、こんな話をしてしまう。

「わたし今まで、ほとんど髪を切ったことないのよ。

 切っちゃったら、もう伸びてこないんだって・・・。」

どうして、こんなおかしなところがサイヤ人なんだろう。

 

「へー。 ブラちゃんもそうかぁ。」

あっけらかんと、悟天は言った。

「おれもさ、ちょっと暑苦しいかなと思って

 何年か前に短くしたら、それきり伸びてこなくなっちゃって・・。」

自分の頭を手でさわる。

「兄さんはそんなことないのになぁ。 ま、散髪しなくていいから楽だけど。」

 

笑ったあとでカップで手を温めながら、わたしはまた、つまらない話を始める。

「パパはどうして、わたしに戦うことを教えないんだと思う?」

「ブラちゃんが、お姫様だからだよ。」

「え・・・?」

思わず、向いに座る悟天の顔をじっと見る。

「だって、ベジータさんが王子だったんなら、そうだろ?」

 

サイヤ人の、お姫様・・・?

 

「・・うれしいのか、うれしくないのか、わかんない。」

その言葉でわたしたちは、また笑った。

 

窓の外を見ていた悟天が、あっ、と声をあげた。

視線をたどる。  あの人が・・・

 

「呼んできてあげる。」

いいよ、と言われたけれど席を立って、外に出る。

 

あいかわらず風が冷たい。

 

お化粧をあんまりしていない、だけどきれいな人。

髪は、長くも短くもない。

あなたは? って聞かれたから、妹みたいなものです。 って答えた。

 

そう、 妹みたいなものよ。 今はね。 なんてね・・・。

 

あの人を見つけた時の悟天、うれしそうだったな。

あの人はいいな。  そして、 ママは、いいな・・・。

 

そんなことを考えながら歩いていたら、

ものすごく聞き覚えのある声が、わたしを呼びとめた。

 

パパ・・・。

 

「迎えに来るなら、普通、車でしょ。

 こんなに人の多いところで飛ぶの、わたしイヤよ。」

だけど・・・  悟天がさっき言ってたことを思い出す。

「たいした距離じゃないもんね。 歩いて帰ろう・・・ 」

 

パパと二人で歩くなんて、久しぶり。

「子供の頃、よくこうやって歩いたわね。」

「今だって、子供だろう。」

ほんの少しだけ、わたしは笑う。

 

「同じような顔しやがって・・・。」

また、そんなこと言って。

 

でも、その時のパパの言葉は、何故かそんなにイヤじゃなかった。

 

妻によく似た、娘の愛らしい顔。

けれど苦笑いした表情は、息子にとてもよく似ていた。

それは、つまり、自分にも・・・。

 

何も言わずに後ろを歩く父親の思いを、

その頃のブラは、まだ気づいていなかった。