125.『ヘアスタイル』

「ただいま。」 

ある休日のこと。

平日に時間がとれなかったブルマは、夫に娘を頼んで美容院へ行って来た。

カットされて整えられた母親の髪を、

6歳になったブラはうらめしそうに見つめ、プイと走り去った。

「まったく、 あの子ったら・・・。」

 

ブルマやトランクスが髪を切った後、

ブラはいつも不機嫌になる。   そのわけは・・・

 

「チッ、 あいつめ、本当に切りやがって・・・ 」

姿見の前では、小さな彼女の父親がぼやいていた。

 

ベジータの髪を見て、ブルマは言葉を失った。

彼のトレードマークである、逆立った毛先の一部分・・ 

一房分程度ではあったが、ざっくりと切り取られている。

「どうしたの、それ・・・ 」  「ブラの奴にやられた。」

 

トランクス同様、ブラも母親譲りの髪質だと思われていた。

手入れしてやりながら伸ばし、きれいなロングヘアになった。

しかし、そのうちにどうもおかしいことに気づいた。

ある程度の長さになると、もう伸びてこないようなのだ。

 

まったく、こんなところにサイヤ人の特性が表れるとは。

考えようによっては楽だとも言えるが、ブラは女の子だ。

うかつに短く切ってしまえば、もうヘアスタイルを変えられなくなってしまう。

そんなわけで、ブラは髪を切るということに大変な憧れを抱いてしまったのだ。

 

『ママは、美容院へ行ったにきまってる。 わたしに内緒で。』

『わたしだって、髪形を変えてみたいのに。』

止めどなく続く娘の不平。

辛抱強く相手をしていたベジータだったが、ついに堪忍袋の緒が切れた。

『そんなに切りたいのなら、自分で切ったらどうなんだ。』

 

口から出てしまった言葉をすぐに悔やんだ父親を睨みつけて、

ブラは工作用のハサミを取り出した・・・。

 

「あの子ったら、なんてことするのかしら・・・ 」

「まぁ、いい。 このくらい。」

そう言ってベジータは部屋を出て行った。

まったく。 ブラには甘いんだから。

 

「パパの髪、あのままにしておくの?」

数日後、 ブルマと二人になった際、トランクスが言った。

 

「そうねぇ。 結構、目立つわよね。」

「お店に連れて行って、ちゃんとしてもらえばいいじゃないか。

 おれの担当の人、上手だよ。」

息子の提案に、ブルマは口をとがらせる。

「あんたの担当の美容師さんって、女の人でしょ。  ・・・イヤよ。」

 

まるで小娘みたいな、母親の言い草。

トランクスは気を取り直して別の案を出す。

「じゃあ、ママの担当の人に頼めば? 男の人なんでしょ。」

「あの人ね・・・  最近知ったんだけど、中身は女の子みたいなのよ。

 だから、やっぱりイヤ。」

 

もう、付き合いきれない。  トランクスはあきれてしまった。

 

 

「そんなに気になるなら、今、適当に揃えろ。」

「えーーっ、 わたしが?」

 

ためらう妻に、ベジータはぼそり、とつぶやく。

「あいつの・・ トランクスの髪を切ってやっていただろう。」

「え? トランクスは、ちゃんとお店で・・・」

「タイムマシンで来たほうの、だ。」

 

ああ・・・。

あの時やっぱり難しくって、ほとんど母さんにやってもらったのよね。

だけど、しっかり覚えてたのね、 そんなこと・・・。

ブルマはほほえんだ。

 

「固すぎて、うまく切れないわ。 刃が負けそう・・・ ブラは、よくあんなハサミで切れたわね。」

「なかなか力があるようだからな。」

ベジータの口元が笑っている。

「ずいぶん優しいのね?」

ブルマは、ハサミをサイドテーブルに置いた。

 

「ブラ、すっごくかわいいものね。 わたしにそっくりで。   ・・・でも」

見えないところは、あんたにそっくりよ・・・。 

後ろから、夫の肩に両腕をまわす。

「髪の毛がつくぞ。」  「いいの・・・ 」

首を伸ばして、頬に、耳たぶに、唇を寄せる。

 

そんなことをしながら、きちんと整えられるはずもなく

ベジータはそれから長いこと、あの髪形だった。

 

そこにようやくハサミを入れて整えたのは、

生意気盛りに差し掛かった娘の一言がきっかけだったという。

 

「パパ、 そのスタイル、 すっごくヘン。」