The First Lover

夫婦になって数年が経っている二人です。

ブルマが遺した成分表を参考に、ブラが若返りの薬を作りました。

トラパンの『Like a virgin』と併せてお読みいただけましたら うれしいです!]

この薬ときたら まったく、味はもちろん 匂いまでひどい。  

料理にでも混ぜ込もうと思っていたけど、ちょっと無理みたいだ。

そうだわ、 それに 効いている時間のことも考えておかなければ。

これは やはり寝る前の、二人きりでいる時に飲んでもらわなくてはならないだろう。

そんなわけで苦労して錠剤にしたというのに、

薬ギライの悟天は、サプリメントだと言っても飲もうとしないのだ。

 

こうなったら もう、小細工はやめにして正攻法でいくしかない。  

「悟天、 お願い。 何も言わずに この薬を飲んで。」

「? なんだい、これ。」 「例の、若返りの薬よ。」

 

えー、っと悟天が声をあげる。 「トランクスが間違って 飲んじゃったやつかい?」 

「そうよ。 少しでも飲みやすいようにと思って、錠剤にしたの。」

「それって、自分用に作ったんじゃなかったの?」 「違うわ。」 

少しだけムッとする。 そりゃあ もう10代じゃないわよ。 

だけど お肌の調子は むしろ、あの頃より いいくらいなんだから。

「わたしに、必要だと思う?」 

「思わないけど・・。 でも、どうして おれに?」

 

一呼吸置いた後で、わたしは言おうとする。 「10代に戻った悟天に、 その・・・、 」 

さすがに、言葉に詰まってしまう。

だけど言い方を変えて、一気に告げた。 

「わたし、 悟天の最初の女になりたいの。」

 

「最初の女って・・・。」  

わたしの目的を、彼は ようやく理解したようだ。

「別に、時間が戻るわけじゃないだろ。」 

悟天にしては めずらしい、不機嫌な声。 うろたえる わたしに向かって、彼は さらに続ける。

「ただの自己満足じゃないか。 記憶を書き替えるってわけでもないんだろ。」 

「・・・。」

 

そんなのわかってる。 

だけど わたしは一度でいいから、あの頃の悟天の前に、一人前の女として立ってみたいの。

ちゃんと そう言えばよかった。 なのに わたしは、こんなことを言ってしまう。

「なによ。 悟天は昔の彼女のこと、忘れたくないのね。」

 

言い返してはこない。 そして、怒った顔を見せることもなく、彼は部屋のライトを消した。

ベッドに体を横たえる。 わたしに、背を向けてしまう形で。

 

バカ。 バカ。 また やってしまった。 

優しい悟天とは、ケンカになることなんて ほとんどない。

けれど ごくたまに、彼女のことを口にすると、 いつも・・・

 

昔、 わたしが小さかった頃。 

ママはパパとケンカをすると、わざと いつもの寝室ではない 別の部屋に向かった。

そういうことをするのは、自信があるからだろう。 すぐに仲直りできるという自信が・・・。

わたしには まだない。  だから黙って、ベッドの端に横になる。

 

 

どのくらい経っただろうか。 浅い眠りから目を覚ますと、悟天の姿が なかった。

ドアから 明かりが もれているのに気付く。 室内にしつらえられた、洗面所の方にいるようだ。

 

・・ずいぶん 遅い。  

心配になった わたしは、ベッドを抜け出してノックしようとした。 ちょうど その時、ドアが開いた。

彼の顔を見上げて、わたしは息を呑んだ。 「悟天・・・。」  

サイドテーブルに置いてあった、薬を飲んでくれたのだ。

 

長めの髪、 やや鬱陶しい前髪。  

その他は あまり変わらないけど、やっぱり少年の顔をしている。

次の言葉を探し当てる前に、悟天はベッドの方へ向かった。

 

パジャマを脱ぎ、 わたしにもそうするよう命じる。 

言うとおりにした わたしに、彼はいきなり 覆いかぶさる。

そして、まるで貪るかのように唇を重ねてきた。 

掻きまわされる。 からめとられる。 息継ぎがしたいのに、許してもらえない。

下に伸びてきた手に、指に、もっとも敏感な部分を捉えられる。 

身をよじりたいのに、押さえこまれて動くことができない。

声を出したい、我慢できない、 もう、 ダメ・・・。

 

「は、あ ・・・ っ 」  やっと離れた唇で、ようやく息をついた。  

わたしの顔を見つめながら 悟天は言った。 「ブラは勝手だよ。」 

「え・・?」 「ちょうど この頃だよ。 会うたびにブラは、おれに こういうことをしてくれたんだ。」

言ってるの?  「わたしが? いつ?」  

そのままの姿勢で、悟天は話し始めた。

 

小さな女の子ってのは普通さ、 さっきまで舐めてたアメ玉だとか、

そうじゃなければ おひさまの匂いがするもんだろ。

なのに、ブラは違った。 うんと小さな頃から、女の子の匂いが ぷんぷんしたんだ。

 

「そんな・・。」  口をはさもうとして やめる。 

お兄ちゃんやパパが、時々 複雑な表情をしていたことを 思い出したためだ。

 

悟天は続ける。 

ただでさえ、自分を持て余す時期だったってのにさ、

ブラときたら遠慮なしにしがみついて、キスを浴びせてくるんだもんな。

おかげで夜、 ヘンな夢を見るようになっちゃってさ。 

あんな小さい子に・・ おれは おかしいんじゃないかって、一時はずいぶん悩んだよ。

 

「ヘンな夢って、どんなの?」 「・・言えないような夢だよ。」  

その言葉が終るよりも早く、わたしは彼の背中に きつく腕をまわした。

小さく ささやく。 「わたしなら よかったのに。 悟天だったら・・、

少しだけ あきれたように彼は言った。 

「何 言ってるんだよ。  そんなこと、ブラが今、大人だから言えるんだろ。」

 

仰向けに横たわっている わたしの脚を広げて、悟天が入ってくる。 

一度 達してしまったわたしに そうしようとする時、悟天は少しだけ 手こずっているように見える。

その様子を見るたびに、思いだしてしまう。 

初めて、彼に抱かれた日のことを。

 

 

終わった後、 悟天の腕に包まれながら わたしは尋ねた。 

「自分勝手な わたしのこと、キライになっちゃった?」

「ならないよ。」 小さく笑いながら 彼は続ける。

「しょうがないよね。 ブラは お姫様なんだからさ。」

 

その言い方は とても、とても 優しかった。 

なのに わたしときたら また、こんなことを口走る。 「それだけ・・?」

抱きしめる腕に、さらに力が込められた。 「あっ・・ 」 

「おまけに欲張りだ。 勝手で 欲張りで、だけど 可愛い、」 

おれだけのお姫様。 だから おれは死ぬまで、ブラに逆らえないんだよ。

 

そう ささやいた悟天は、 いつの間にか元の姿に戻っていた。

頬に、 額に、 何度も 何度も キスを贈る。 

そして もちろん唇にも。

あの頃、 20年前と 同じように。