「一人でやらなきゃ、自分のためにならないのよ。」
そう言いながらも、ブラは最後にはいつも手伝ってくれる。
「はぁ・・・ これで、大体終わりだ。」
ためこんでいた宿題が片付いて、おれは ほっと一息ついた。
机の上を片づけながらブラが言う。
「ちゃんとお礼してもらうわよ。」
「お礼って・・・。 ブラに手に入らないものなんか、ないだろ?」
彼女の家は、あのC.C.。 地球一の金持ちだ。
「そんなことないわ・・・。」
少しだけ傷ついた様子で、ブラは続ける。
「あのね、大学のこと、もう一度 ちゃんと考えてほしいの。」
おれは、ちょっと驚いた。
以前 『まじめにやらなきゃ推薦してもらえなくなるわよ。』と ブラに注意された時、
『進学しないかもしれないから、いいんだよ。』
そう言い返したことがあった。
それを覚えていたんだ。
「大学も一緒に行けると思ってたのに・・・。」
「別におれじゃなくても・・・ 」
その一言を、ブラは別の意味にとったようだ。
「悟天は、わたしのこと嫌いなの・・・?」
そんなはずないだろ。 そう言えなかったおれは、
「ブラやトランクスを嫌いなやつなんて・・・ いるとしたら、ひがんでるやつだろ。」
と、つぶやいた。
伏せていた目を上げると、いつの間にかブラの整った顔がすぐそばにあった。
自慢のつややかな髪から、甘い香りが漂ってくる。
「なんだよ・・・。」
答えない彼女の両手が、おれの頬をそっとはさむ。
まばたきする間くらいの、小鳥がついばむみたいな短いキス。
なんて言ってやったらいいのかわからずにいると、廊下に人の気配を感じた。
「おばあちゃんが、ブラちゃんも夕飯食べて行きなさいって。」
ちいさな姪っ子が、ドアの外に立っていた。
今日は用事があるからと、ブラは夕食の誘いを丁寧に断った。
「悟空さがいれば、あっという間なのにな。」 そうこぼした後で、
おかあさんはおれに、彼女を送って行くよう命じた。
「用事って何だよ。」
沈黙が苦しくて、おれの方から口を開いた。
「一人の時に遅くなると、パパが迎えに来ちゃうのよ・・・ 」
筋斗雲に座ったブラが、小さくつぶやく。 そして続ける。
「さっきのやり方、ママに教わったのよ。
ああすれば、男の人はちゃんとしたキスを返してくれるって。」
ベジータさんは、そうだったんだ。
おれは、ちょっとだけ笑ってしまった。
だけど、おれも結局は・・・
思い通りになるのが悔しくて、これまでいろいろあがいてたのに。
「筋斗雲に、乗れなくなるかな。」 「・・・そしたら、飛べばいいわよ。」
ブラのちいさな唇は、信じられないほど柔らかい。
長い髪が揺れるたび、花みたいな、果物みたいな甘い香りが鼻をくすぐる。
昔、うんとガキだった頃。
『ブラの匂いを嗅ぐと、腹がへってくる.。』
なんて言っちゃって、怒らせたことがあったっけ。
そんなことを思い出した。
「ブラお姉ちゃんは、悟天お兄ちゃんのお嫁さんになるの?」
パンが、夕食の配膳をする祖母の足元にまとわりつく。
「んー、 どうだべなぁ。 パンは、そうなると思うか?」
「うん!! だって、さっき、お部屋でチュウしてたんだよ。
パパとママみたいに・・・。」
チチが、皿を一枚落して割った。
「大学のこと、きちんと考えるよ。 兄さんや、おかあさんにも相談してみる。」
そう言った時、ブラは本当にうれしそうな・・・
はっきり言ってすっごくカワイイ顔をして、おれはすごーーく幸せな気持ちになった。
これから、ものすごく大変になるなんてこと、忘れちまうくらいにね。