HER LOVE

もしも、明日が から続いていました 未来天ブラの、多分ほんとの最終話です。]

平和が戻った世界を後にし、生まれ育った世界に戻る。

「おかえり。 まあ、二人とも、すっかり 大人っぽくなっちゃって。」

そう。

悟天とわたしは 結局、事態が収束するまでの三年間を、あちらの世界で過ごしてしまったのだ。

 

出迎えてくれたママは、長かった髪を うんと短くしていた。

自分で切ったのだろう、 サイドや襟足が、やや アンバランスだ。

あとで直してあげなくちゃ。

最新型のカプセルには、おみやげという名の物資が ぎっしり詰まっている。

話したいことも、たくさん、たくさん ある。

けれど それらは、ひとまず おあずけとなった。

ラジオが、人造人間の出現を告げたためだ。

 

有志によるラジオ放送は ずいぶん減ってしまっていたけど、

それでも貴重な情報源だ。

つけっ放しにしてある 小型ラジオを、ママは常に、着ている服のポケットに入れている。

けれど もう、そんなこととは おさらばだ。

まばたきをしている間に、悟天は飛び立った。

わたしも もちろん、後を追う。

ママに向かって、「大丈夫よ。」 と声をかけて。

向こうのママから渡された ある物を、しっかりと握りしめながら。

 

もう何年も前から、ゴーストタウンとなっている西の都。

人造人間の二人は、その すぐ近くまで 飛んで来ていた。

空の上。

眼下には、廃墟の街が広がっている。

 

先に着いた悟天に向かって、男のほう、17号が 声をかける。

「よお。 ケガは もういいのか?」

「・・ 見てのとおりだ。」

「ふーん、 やっぱり そこいらの奴とは違うみたいだな。

 おまえが、孫悟飯の代わりを務めてくれるってことか?」

「ああ。 そのつもりだ。」

「そりゃあ ありがたいな。 壊しがいのありそうな街は もうないし、

 残しておいたC.C. やっちまうしかないな、って話してたとこだよ。」

女のほう、18号の方を見る。

「おい、手を出すなよ。 おまえは気が短いからなあ。」

「わかってるよ。」

不満そうに 短く答えた その後で、わたしの方に視線を向ける。

「でも、 こっちなら構わないだろ?」

 

空中で、じわじわと距離を縮めながら、18号が問いかけてくる。

「あんた、以前も 孫悟飯の周りを うろちょろしてたよね。

 あいつに乗り換えたってわけ?」

「・・・ 余計なお世話よ。」

C.C.を壊しちまう前に 会えてよかったよ。 あんたを殺す方が面白そうだ。

 死体を残す、残さない・・ どっちの方が大声で泣くかな?  あんたの母親、ブルマ博士は。」

 

向き合っている わたしを目がけて、18号が手をかざす。

距離にして、およそ・・・  8メートルといったところか。 十分だ。

ポケットの中に隠し持っていた、緊急停止用コントローラー。

その中央にあるボタンを、力を込めて 押してやる。

両目を見開き、手をかざした姿勢のまま、18号は硬直した。

そして、落ちて行く。

がれきと破片の散乱する、地面の上に。

かつて自分の手で破壊した、都の跡に。

 

落ちた場所に目星をつけて、今度は わたしが手をかざす。

エネルギー波で、焼き払うためだ。

迷っては いけない。

あの女は、パパの、悟飯さんの、みんなの仇。

美しい少女の姿を借りた、悪魔なのだ。

 

「こいつ・・ 今、何をした!!」

地上から上がった炎を目にした17号が、こちらの方に向かってくる。

戦闘のさなか、敵である悟天に、背中を見せる形で。

18号の死に、余程 動揺しているらしい。

悟天が叫んだ。  「ブラ、 よけろ!!」

独特の角度で、両手首を合わせる。

閃光、 爆発音、 そして 硝煙 ・・・

終わった。    

17号も、 消滅した。

 

地上に降り立つ。

遅れて降りてきた悟天が、わたしの手元に視線を向ける。

「18号を倒した時、使ってた あれって・・

「これのことね。」

小さな、リモコンのような機械を見せる。

「クリリンさんが壊しちまったって聞いてたけど。」

「スペアがあったの。 向こうのママが、持たせてくれたのよ。」

余計なことを してしまっただろうか?  だけど・・・

「わたしも、作るのを手伝ったのよ。  卑怯だと思う?

 でも、あいつらの力って、修行で得たものじゃないでしょう?」

「いや。」

遮るように、悟天は言った。

「それを言ったら、おれも 背中を狙っちまったし・・。」

そう言うと、へなへなと いった様子で、地面に座り込んでしまった。

「助かったよ。 ブラがいてくれなかったら、ダメだった。 多分。」

「悟天ったら・・。」 

 

駆け寄って、身をかがめ、両肩に手を置く。

「本当にお疲れ様。 終わったわね、やっと。」

顔を上げた彼に向かって、続ける。

「頑張った悟天に、ごほうびをあげるわ。 何がいい?」

「うーん、そうだなあ。 それじゃあね、夕飯のおかずを多くして。」

「いいわよ。 おやつも、わたしの分をあげちゃう。」

「あはっ、やったー。  それからね、もう一つ・・。」

「ん? なあに?  ・・・ 」

 

問いかけが終わらぬうちに、肩をぐい、と引き寄せられて、唇を押し当てられた。

でも、すぐに離れてしまった。

「さっ、 行こうか! ブルマさんに報告しなきゃ。

 あーあ、おなかもすいちゃったな。」

照れ隠しなのだろうか。

悟天は また わたしを置いて、さっさと飛んで行ってしまった。

「ちょっとー! 待ちなさいよ!」

地面を蹴って、宙に浮かんで、追いかける。

 

さっき、戦闘の時、悟天は超化しなかった。

それでも どうにか、強大な敵、人造人間を倒すことができたのだ。

秘められている 大きな力に、彼は気づいていないらしい。

もしかしたら、悟飯さんや悟天と同じく サイヤ人との混血児である わたしも・・・

だけど もう、必要ないかもしれない。

激しい怒りが引き金となって目覚めるという、超サイヤ人の力は。

 

空の上。  悟天は わたしを、待っていてくれた。

出会った頃と同じように、同じくらいの速さで飛ぶ。

荒れ果てた地球。

いったい どこに、どのくらい 人が残っているかも わからない。

でも、頑張れる。

三年間を過ごした あの世界に、少しでも近づけてみせる。

悟天と一緒なら、 きっと ・・・

 

「ん? なんか言った?」

「ううん、 なーんにも。」

決意と同時に、わたしは考えている。

この次のキスは、わたしの方から しよう。 そんなことを。