053.『星空』

[ 046.『約束』のつづきです。ウーブ少年の村でのお話です。]

「明日、都に帰るんだって?」

村人たちも交えての、にぎやかな夕食の席で悟空がブルマに話しかけた。

 

「そうなのよ。 子供たちの新学期の準備もあるし、仕事がね・・・。」

「悟飯たちも帰っちまうし、ちょっと寂しくなるなぁ。」

「チチさんは、もう少し残るんでしょ。」

少しだけ声をひそめて、ブルマは続ける。

「うちが寝泊まりしてたカプセルハウス、使いなさいよ。

 お風呂とかベッド、結構ちゃんとしてるわよ。」

「えー、 いいよ、 そんなの・・・ 」

「たまには奥さん孝行してあげなさい。」

 

ブルマのダメ押しに、悟空は珍しく言い返した。

「ちぇっ、早く帰りたいのはベジータのことが気になるからだろ?」

 

そう。

ベジータは、悟空がウーブ少年と修行をしているこの村に来なかった。

それは、自分のせいだった。

孫家が絡むイベントに参加することに対して、

彼が特につべこべ言うのはいつものことだというのに、

今回は少し言いすぎてしまった。

 

夜も更けてきて、ブルマは一人で星空を見上げる。

大都会の西の都とはまったく違う、満天の星。

 

ベジータは、ああした星のひとつで生まれ

これまでの人生の半分以上を、地球以外で過ごしてきた。

価値観が違うのは当たり前なのに、いろいろなことを譲歩してくれているのだ。

 

帰ったら、 顔を見たら、 すぐに謝ろう。

そして・・・。

 

そう思った時。

夜空から何かがぐんぐん近づいてきて、自分の前に降り立った。

 

「遅かったわね。」

ブルマは、夫に声をかける。

「外でのトレーニングのついでに、寄っただけだ。」

 

嘘、 とは言わずにブルマは微笑む。

「ブラが、とっても寂しがってたのよ。

 だけどみんなに遊んでもらって、すっかり日焼けしちゃって真っ黒。

 今日も、早々と眠っちゃった・・・。」

 

ちゃんと、食事してた? おなか、空いてないの。

ああ。

 

普段と変わらぬ短いやりとりの後で、ブルマは寝室を示した。

 

 

「おまえは、全然焼けてないな・・・。」

数日ぶりの妻の姿を見おろしながら、ベジータがつぶやく。

 

「日焼けなんて、もうできないわよ。 若くないもの・・・ 」

伸ばした腕を、背中にまわす。

 

「じゃあ、こんなことは、しない方がいいんじゃないのか?」

「そうね・・・。 だけど・・・ 」  わたしが、したいの。

続きを耳元でささやいて、小さく笑う。

彼の皮肉な口元にも、いつの間にか笑みが浮かぶ。

 

昔と変わらず、ブルマの肌は白く貫けるようだ。

そして、昔以上にベジータをやわらかく包み込んでいく。

 

 

夜が明ける頃。

夫の身支度する気配で、ブルマは目覚めた。

「わたしたちは、村の人や孫くんたちに挨拶してから帰るから。」

 

見送るために外に出る。

「気をつけてね。」 と声をかける。

 

誰に言ってるんだ、 というような顔で彼は妻を一瞥し、

「そっちこそな。」  小さくつぶやく。

 

星が消えゆく南の空は、夜明けの色までもが違うようだ。

 

昨夜、自分の腕の中にあった妻のやわらかな髪の色に思いをはせながら、

ベジータは一足先に我が家を目指した。