046.『約束』

「聞いてよ。 わたし、この間おばあちゃんに間違えられちゃった・・・

 幼稚園に新しく来た先生によ。」

 

ブラを連れて孫家に遊びに来ていたブルマがもう立ち直れない、と 

いった様子で嘆いた。

少し離れた野原では、パンとブラが遊んでいる。

「若いお母さんはみんなラフな格好なのにお洒落しすぎだからだ、って

トランクスは言ってくれたけど、

 ベジータなんか鼻で笑うのよ。 憎ったらしい・・・。」

 

珍しくチチは静かにほほ笑んでいるだけだ。

「そりゃあ チチさんは早くに結婚したから、ほんとにおばあちゃんになっちゃったけど・・・。」

 

ふくれるブルマに、チチはやっと言葉を返す。

「なんだかんだ言って仲良しだな、ブルマさのとこは・・・。  うらやましいだ。」

「チチさん・・・。」

 

彼女の夫は、久しぶりに出場した天下一武道会の最中、

あのブウの生まれ変わりだという少年の修行をつけてやるために飛び去ってしまった。

本当に、あっという間に。

 

「でも 地球の上の話なんだし、こっちから会いに行けばいいじゃない?」

「だども・・・。」

まるで躊躇せずに自分を置いて行ってしまったことが引っかかっているのだ。

 

「天下一武道会っていえば・・思い出すわね。

 チチさんが孫くんを追いかけてきてそのまま結婚しちゃった時のこと。」

そう。

彼女はかつて、迎えに現れない悟空に業を煮やして対戦相手として再会し

あっさりと初恋を実らせたのだった。

「わたしの方こそ、うらやましかったわ。

 あの頃はいろんなことに踏み切れなかったから・・・。」

 

しみじみと話すブルマを、チチが茶化した。

「おかげで、王子様と巡り会えたんだべ。」

「あはは、  まぁね・・・。

 でも、わたしもね、以前ベジータにこんなこと言っちゃったのよ。」

 

その言葉を聞いたチチは、

あの男がブルマから離れない理由のひとつがわかったような気がした。

「あいつは、天の邪鬼だから。」

笑っていたブルマが、突然大声をあげた。

 

「あーーー!! 

 こら!! パパかお兄ちゃんがいない時は、飛んじゃダメ!!」

遊びに飽きたらしいブラとパンが、いつの間にか空を飛びまわっている。

 

「こらーー!!おめーたち、降りてこねえと

 悟空じいちゃんの所に連れてってやらねえぞ!」

空の上の幼女たちに向かって、チチが声をかけた。

 

「おじいちゃんの所に、行けるの?」  降りてきたパンが、目を輝かせる。

「幼稚園が、夏休みになったらな。」

「ママ、わたしも行きたい。」  ブラがねだって、ブルマも笑顔でうなずいた。

 

『ここじゃない何処かに、行ってもいいわよ。  

会いたくなったら、会いに行くから。

だから、会えない場所にだけは、行かないで  ・・・』

 

そうだ。

じっと待つのがつらいのなら、会いにいけばいいのだ。

若かったあの日みたいに。

 

夫の顔を見たら、自分も言ってみようか。

 

サイヤ人の血を受け継いだ、小さな女の子たちを見守りながら、チチは思った。