004.『寝坊』
[ 『帰らない夜』の翌朝の、C.C.の風景です。]
朝。 目を覚ますとベジータは、もう隣にはいなかった。
時計を見てぎょっとする。 「きゃっ、 大変!」
大学生になったトランクスは自分で勝手にするだろう。
だが、まだ幼いブラの支度がある。
お昼は給食が出るから
お弁当を作る必要はないけれど、
本人を
幼稚園まで送らなくてはならないのだ。
内線電話をかけたけど、返事がない。
仕方なしに部屋まで呼びに行くと・・・ いない。
「一人で起きられたのかしら。」 首を傾げながら階下の、食堂へ向かう。
そこにはトランクスと、園服をきちんと着ているブラがいた。
テーブルの上には、あいた食器がいくつか
のっている。 既に朝食を済ませたらしい。
「トランクス、ずいぶん早いのね。 あんたが作ってくれたの?」
「・・ああ、
うん。」
まあ、自動調理機を正しく使えば誰でもできることなんだけど、
早起きして
妹の分まで用意してやるなんて初めてではないだろうか。
そんなことを思っていたら、ブラが口を挟んできた。 「ママ、起きても平気なの?」
「えっ?」
わたしの顔を、じっと見つめながら続ける。
「無理しないでね。
お休みするんなら、わたしが会社にお電話してあげてもいいわよ。」
「? どうして・・、」 そんなこと言うの?
そう尋ねようとすると、トランクスが咳払いをした。 そして、妹に向かって食器を下げるように命じる。
いつになく素直な様子で、ブラは兄の言うことに従った。
その姿を見送った後、トランクスに疑問をぶつける。
「ねえ、わたし、顔色悪い? 具合悪そうに見えるかしら?」
さっき鏡を見た時は、寝不足で目は赤いけれど
お肌のつやはいいと思ったのに。
「いや、違うんだよ。 あのさ・・・。」
言いにくそうに、トランクスは話し始めた。
話の中身は
こうだった。
夜中にトイレに起きたブラは、ケンカをしていた両親のことが
どうしても気になってしまい、
寝室まで様子を確かめに行った。
思い切って、ロックされていないドアを開けてみると・・ いない。
広い家の中、どうにか気を探って
両親のいる部屋の前までたどり着いた。
ノブに手をかけようとした、
その時。 ドアの向こうから おかしな声が聞こえてきた。
すすり泣きのような、ためいきにも似た
切なげな、なのに どこか喜んでいるようにも聞こえる声・・・。
夫婦の寝室は防音がしっかりと施されていたが、その他の部屋は十分ではなかったのだ。
ブラは踵を返し、兄の部屋へと走り出した。 『なんだよ、こんな時間に・・・。』
寝ぼけまなこの兄に向って訴える。
『ママが大変なの!!』
『?
何かあったのか? 』
『あのね、ママたちがいるお部屋から、ヘンな声が聞こえてきたの!!』
『・・・。 えーーっと、
』 トランクスは、天を仰いで答えを探した。
『その・・ ママは具合が悪いんじゃないか?』
『えーっ!! じゃあ、看病してあげなきゃ。』
『い、いや・・
大丈夫だよ、きっと。 パパがついてるんだろ。』
本気で心配している妹を何とかなだめて、子供部屋まで送り届けた。
しかし
翌朝、いつもよりも うんと早い時間に、トランクスは再び起こされた。
『なんだ、 今度はどうした・・?』
『ママが具合が悪いんなら、自分たちで用意しなきゃ。』 ・・・
「ああ、それで早起きしたってわけね。」 納得したように頷いた後、わたしは疑問を口にした。
「ブラって、気が読めたのね?」
ベジータの意向で、ブラは武術の類を一切やっていない。
「まあ、空を飛べるんなら
家族のくらいはわかるんじゃないの。 家の中だし。」
そして、大きなあくびをしながらぼやいた。「まいっちゃったよ。 すっかり寝不足だ・・。」
「ブラの部屋にも、お手洗いをつけてあげなきゃね。」
「そういう問題じゃないだろ。」
そんなやりとりをしていたら、ブラが戻ってきた。
食器を下げた後、髪をとかしてきたらしい。
背中まである髪が、いつも以上につやつやしている。
「座りなさい、ブラ。 髪を結ばなきゃ。」
「いいの。 今日はこれで行くわ。」
ブラは
まだ自分で髪を結えなかった。 だから代わりに、赤いヘアバンドをつけている。
そうこうしているうちに、ベジータまで
やってきた。 重力室での、朝のトレーニングを終えたらしい。
パジャマの上にガウンをはおった姿のわたしを見て、苦々しげに彼は言う。
「まだ
そんな恰好をしているのか。」
「あんたが起こしてくれないからでしょ。」
「俺はちゃんと声をかけたぞ。」
「あ、じゃあ、今日は
おれがブラを送っていくよ。」
妹の手を引いて、そそくさとトランクスが出て行く。
「やれやれ。
おんなじことの繰り返しだな・・。」 小声で、そんなことをつぶやきながら。
トランクスのおかげで時間に余裕ができたわたしは、ベジータの朝食の支度をしている。
「いいか。 自動調理器の料理だけで構わんからな。 おまえは一切、手を加えるなよ。」
「あら、いいじゃない。 たまには妻の作ったものも食べなさいよ。」
「いいから、余計なことはしてくれるな。」 「もう。
なによ、その言い方。」
あーあ、 なんだか
またケンカになってしまいそうだ。
完了のブザーとともに調理器から出てきた料理は、何故か奇妙な匂いがする。
大皿に盛り付けたそれを見て、ベジータは何とも言えない表情になる。
その顔を見て笑ってしまいながら、わたしは考えていた。
寝室以外の部屋の 防音を、強化しておかなきゃ。