059.『帰らない夜』

[ 変わり映えしないですが、一応サイトの3万ヒット御礼のつもりでupしたものです。]

ベジータと、また言い争いをしてしまった。

そもそものきっかけは、いったい何だっただろうか。

 

彼も楽しめるようにと 頭を捻ったデートの提案を あっさり一蹴されたこと。

出がけのバタバタしていた時に 重力装置の調整を命じられ、

その上 買ったばかりの服を、こてんぱんに けなされてしまったこと。

ああ、それとも 子供たちに関することだったかもしれない。

 

とにかく、そんな夜は同じ部屋でなんか眠りたくない。

いつもみたいに 背中に寄り添うなんて絶対にしたくないし、

かといって 広いベッドの両端に横たわるのは寂しい。

だから わたしは、ある部屋の扉を開いた。

 

ここは わたしと眠るようになる前、ベジータが使っていた部屋だ。

そうは言っても あの頃のベジータは、重力室と外での修行の繰り返しで

のんびりと自室で過ごすことなど無かった。

 

大学生になったトランクスが生まれる前の話だから、もう20年も前のことだ。

その頃のわたしは よく この部屋の、このベッドで眠りながら、彼の帰りを待っていた。

戻ってきたら、すぐに顔が見たかった。

そして、わたしの顔を見ずに 彼が再び、どこかへ行ってしまうのはイヤだった。

 

もちろん、帰ってこないことの方が多かった。

だけど、 あの夜。

浅い眠りから目覚めたわたしは、ベジータが ここに近づいてくるのを感じ取った。

根拠なんてなかったけれど、なんとなく。

気を読むことなんて、全くできないはずなのに。

 

着ていたパジャマを素早く脱ぎ捨て、生まれたままの姿になったわたしは

ベッドの脇のライトだけを点けて、急いで毛布をかぶった。

窓が開く音がして間もなく、彼は毛布を引き剥がす。

それまでと同じように。

『・・・・。』

成功だ。

当たり前みたいな顔をして わたしを抱こうとするベジータ。

ほんの少しだけ、驚かせてやりたかった。

 

『何を考えてやがる、 まったく・・。』

『ふふっ。 だって、あんたの脱がせ方、乱暴なんだもの。』

手袋を、プロテクターを外すのを手伝いながら わたしは続けた。

『着てたものをボロボロにされちゃうから、自分の部屋に戻る時、いつも困ってたのよ。』

『フン。 知ったことか。』

 

そのまま、アンダースーツも脱がせてしまう。

それを合図のようにして、覆いかぶさるベジータと ごく自然に唇が重なり、

わたしたちは お互いをむさぼり合った。

 

愛の言葉なんて、一言もない。

けれども、今にして思えば それでよかったとも思う。

らしくない言葉なんか かけられたら、きっと後から、とても悲しくなっただろう。

ベジータが この地球に、C.C.に留まってくれるなんて、思っては いなかったから。

 

ドアが開く音がする。

窓ではなくて、この部屋の扉だ。

やや乱暴に毛布をめくって、彼はベッドに入ってくる。

相変わらず、何も言ってくれない男。

仕方がないから、わたしの方から話しかける。

 

「どうして来たの? いつものベッドの方が、広くて寝心地がいいはずよ。」

「どこで寝ようが俺の勝手だ。」

「まあね。 あんたの家だもんね。」

 

そうよ。  そして、わたしは あんたの・・・。

そんなことを思いながら、横になったままで パジャマを脱いでしまう。

 

「・・何をしてる?」

「なんだか、暑くなっちゃったの。 このベッド、狭いんだもの。」

 

舌打ちをして こちらを向いたベジータの、襟元に手をかける。

「おい。 何をするつもりだ?」

「やっぱり、寒くなってきちゃった。 あっためて。」

 

戦闘服ではなく、パジャマを脱いだ 彼の背中に腕をまわす。

愛の言葉は 今でも無い。

だけど 多分、どこへも行かないわたしの夫。

 

とうに若くはないのだけれど、昔と変わらず わたしたちは抱き合っている。