180.『素直になろう』

[ ブラの思春期ストーリーです。

春を待つ季節』 と併せてお読みいただけるとうれしいです!]

最近 なんだか落ち込みやすくて、すぐにイライラしてしまう。

雨が降ってきそうなせいか、髪も いまいちまとまらない。

ポニーテールにしようと思って、やっぱりやめる。

昔のママを知ってる人たち みんなに同じことを言われそうで、なんだかウンザリしてしまう。

 

わたしの、そしてママの髪は、細くて意外と扱いにくい。

だからママは昔、しょっちゅう髪形を変えていたのだそうだ。

わたしだって、できることならそうしたい。

なのにわたしは、おかしなところがサイヤ人だ。

 

長さが変えられないのなら、パーマをかけちゃおうかと思った。

お兄ちゃんには 「教師に目をつけられるからやめろ。」 って言われた。

ママの言葉は具体的だった。

「毛質が細いから、どうしてもきつくかけることになるのよ。

ちゃんと手入れしないと、傷んじゃうわよ。」

パパはその場にいなかった。

いたら、なんて言ったかしら。  きっと、「くだらん。」 って言ったわね。

 

結局わたしは ママ特製のスタイリングウォーターを多めに髪に馴染ませて、

急いで階下に下りて行った。

 

お兄ちゃんが食卓でコーヒーを飲んでいる。

「お兄ちゃん、帰ってたの。」

 

ここ何年か、お兄ちゃんは帰ってきたり こなかったりする。

どこかのホテルの一室を、借りきっているらしい。

一人暮らしがしたいなら、ちゃんと家を出ればいいのに。

 

お兄ちゃんは、鼻をひくつかせて イヤな顔をする。

「この匂い、髪につけるやつか? つけすぎだよ。

甘ったるい匂いが、ここまで漂ってくるぞ。」

そういう自分は、髪を少しカットしたようだ。

いいわよね。 髪の毛が地球人で。

 

そこへ、トレーニングを終えたらしい パパがやってきた。

「おはよ、 パパ・・ 」

近頃 朝は すれ違いだったパパは、わたしの姿を見るとこう言った。

「なんだ、 その下品な格好は。」

「え?」   これ、制服なんだけど。

そりゃあ 入学式のあと、スカートをちょっぴり短くしたけど。

 

「下品、か。」  そうつぶやいて、お兄ちゃんが少し笑う。

 

お兄ちゃんが通っていた高校は ママの母校でもあったんだけど、制服がない。

だけど、行きたい高校を わたしは自分で決めた。

ママは賛成してくれたのに、お兄ちゃんは 未だに・・・。

言い返したいけど、やめておく。

そのかわり わたしはスカートの裾をつまんで、ちょっとだけめくった。

下着の上にはちゃんと、もう一枚重ねている。

「見えても平気なようにしてあるから、心配ないわよ。」

 

パパは返す言葉を失ったようだ。

こういう切り返しは、はっきり言ってママの真似。

だから、お兄ちゃんには通じなかった。

「朝っぱらからヘンなもの 見せないでくれよ。」

「悪かったわね・・。」

ムッとしたわたしは、つい余計なことを言ってしまう。

「お兄ちゃんは、わたしみたいな子供はダメなのよね。 だって・・・ 」

ママが、理想の女性なんだものね。

さすがに、そこまでは口に出さなかったけど。

 

「雨が降りそうだから、学校まで送ってやろうと思ったけど やめた。」

やや乱暴に席を立ったお兄ちゃんが出て行ったあとで、わたしはつぶやいた。 

「・・いいわよ、 別に。」

 

「おはよう。 ブラ、時間 大丈夫なの?」

ようやくママが下りてきた。

まだパジャマ姿で、肩にガウンをはおっている。

「雨が降りそうよ。 トランクスに送ってもらえばよかったのに。」

「いいったら。 間にあわないから、もう行くわ。」

 

飛んで行っちゃおうかな。 人に見られたって かまわない。

なんだか、すっごくイライラする。

 

 

昼前から降り出した雨は、

授業が終わる頃には ますます激しくなった。

結局、傘も持ってきてない。

 

こんな時 『タクシーで帰るんじゃないの?』 なんて言ってくる人がいるけど、

わたし、 お小遣いの額は みんなとそんなに かわらないのよ。

 

そんなことを思っていたら、校門の前に一台の車が停まった。

あれは・・・    「ママ。」

 

助手席にわたしを乗せると ママは言った。

「お茶でも飲んでいきましょう。 どこか、いいお店知ってる?」

わたしは、公園のそばにある コーヒーショップに案内した。

ここは、 前に ・・・

 

窓際の席に着いて、ママはメニューを見ている。

「何にするの?」 「コーヒーでいい。」

「朝 食べて行かなかったから、おなかすいてるんじゃないの?」

「・・だから、 お昼に食べすぎちゃったの。」

なるほどね、 とママはおかしそうに笑って、自分はショートケーキを頼んでいた。

タバコやお酒が好きなママは、甘いものをそんなに食べないけれど

イチゴはやっぱり好きみたいだ。

 

窓の外を指さしながら、ママは言う。

「あそこに見えるホテル・・・  トランクスは、あのホテルに部屋を借りてるのよ。」

 

わたしは、朝 思ったことに付け加える。

「一人暮らしがしたいなら、ちゃんと家を出ればいいんだわ。 悟天みたいに。」

 

少し前、 まだ寒かった頃。

悟天と一緒に、彼の恋人が来るのを このお店の ちょうど この席で待った。

悟天は 笑顔でわたしの話を聞いてくれていたけど、

やっぱり外を気にしてた。

 

「悟天くんも、お嫁さん まだだったわね。」

彼女の顔を 思い出してしまう。

「きっと、もうすぐなんじゃない。」

とっても、 きれいな人だった。

 

「 ・・そういえば、パンちゃんは どうしてるかしら。」

 

高校に入ってすぐ、街でパンちゃんを見かけた。

友達何人かと一緒だった。

パンちゃんは、ママやお兄ちゃんが通っていた高校に入学した。

私服姿の彼女たちは、まるで大学生のように見えた。

わたしは自分がひどく子供っぽく思えて、

声がかけられなかった・・・。

 

その時。

「その制服、 とってもかわいいわよね。」

にっこり笑って ママが言った。

「わたしも そういうのが着たかったわ。」

 

「・・貸してあげるから、着てみたら。 パパはビックリするわね。」

答えながらわたしは、手をつけていないショートケーキの天辺の

イチゴをつまんで差し出した。

「ママの大好物でしょ、 食べて。 お肌にもいいわよ。」

 

わたしの手からイチゴを口にした後で、

ママは生クリームをフォークですくって わたしの口元にもってくる。

「太るから、いらない。」

そしたら、こんなことを言った。

「脂肪も適度に摂らないと、大きくならないわよ。」

わたしの胸元を見ながら。

 

ママの言葉で、何故だか わたしは笑ってしまった。

今日 初めてかもしれなかった。

 

ママはこうも言っていた。

「ブラは、16歳になるのね。

これから、うんと楽しいことがたくさん待ってるわよ。  うらやましいわ・・。」

 

うらやましい? ママが、わたしを?

 

あんなにパパに愛されてて、

お兄ちゃんだって 結局 いつもママが一番だっていうのに?

 

それから笑顔でこう付け加えた。

「16歳か。  わたしがドラゴンボールを探す旅に出たのと、同じ年だわ。」

 

外に出ると、雨は もうあがっていた。

そして夕暮れの日差しが、ママとわたしの同じ色の髪を照らした。