『スペシャリテ』

悟空×ブルマの『フルコース』の補足&続きです。

筆者はヤムブルの別れの原因が、単純な浮気だとは考えていません。

その一端を文にすることができて よかったと思ってます。]

「今度は、オラがブルマを気持ち良くしてやるよ。」

床の上に仰向けにしたブルマを、組み敷く形で悟空は言った。

「だから、どうすりゃいいのか教えてくれ。」

 

「どうすればって・・ やり方なんて、別にないのよ。 人それぞれなんだから。」

体を一旦起こしてから、ブルマは答える。

「まぁ、あんたの場合は とにかく、そーっと優しく、ってことを心がけなきゃね。」

早口で そう言いながら、着ている物を脱いでいく。

何も身につけていないブルマの体。

普段から彼女は薄着で、体の線がはっきりと出る服装を好む。

それに以前、直に見たことだってある。

けれども何故か、その時とはまるで違う気がしていた。

ブルマが、ではなく 自分自身が。

 

「力を入れすぎないで、触りたい所に手を持っていって・・。」

そう言われて、悟空の手は すかさずブルマの胸を掴む。

思わず笑ってしまいながら、彼女は彼の、もう片方の手をとった。

内腿の奥に導いていく。  「ね、 ここにも触って。」

「そこが、ブルマの気持ちいいとこなのか?」 「そうよ。 いっぱい、してね。」 ・・・

 

頬を上気させ、切なげに喘いでいたブルマ。

華奢な腕を、背中にきつく まわしていた彼女ときたら、本当に・・・

悟空は知ってしまったのだ。 恋焦がれるという気持ちを。

だから、言った。 「オラ、ブルマとケッコンしてえんだ。」

言わなければ、ブルマは行ってしまう。

都に帰って、いつもの暮らしに戻ってしまう。

そして・・・ その傍らにいるのは、自分ではない男・・・。

直感で、彼は悟ったのだ。 ブルマを手に入れるには、そうするしかないということを。

 

車の入ったカプセルを出そうとする手を制し、悟空はブルマを抱えて飛んだ。

「寒くねえか。」  

厚い胸に顔を埋めて、彼女は答える。「うん、平気よ。 あんたの体、とっても あったかいもの。」

「へへ・・。 おめえは、筋斗雲に乗れねえもんな。 いい子じゃねえからな。」

「あら。 いい子じゃないけど、いい女でしょ。」 そんなことを言って笑い合う。

まるで 宝物のように抱えられての空の旅は、本当に楽しかった。

 

けれどC.C.に降り立ってしまうと、やはり現実に引き戻された。

ヤムチャは今、家にいるのだろうか。

ブルマの両親は、二人を笑顔で迎えてくれる。

「おお、孫くんか。話には聞いていたが ずいぶん背が伸びたな。見違えたよ。」

「ほんと、久しぶりねえ。 ゆっくりしていってね。 じゃあ早速、お食事にしましょうね。」

「やったー。 腹ペコだったんだ。」

何よりもうれしい言葉をかけられ、悟空は満面の笑みを浮かべた。

どうやらヤムチャは不在らしい。 悟空に向かって、ブルマは小声でささやく。

「急にじゃビックリしちゃうから、結婚のことは まだ内緒よ。」

「えっ、でもさ・・ 」 「今夜、わたしの方から話しておくから。 ねっ。」

念を押されて、仕方なく頷く。 少々不満だったけれど。

 

食事の後。 ブルマは悟空を、ゲストルームに案内した。

「小さいけど、お風呂も付いてるわ。 ちゃんと入るのよ。」

「ブルマは まだ、寝ねえのか。」 

「・・父さんと、仕事の話があるの。 その時にあんたのこと、ちゃんと話すわ。」

「わかった。 じゃあ、明日・・ 」 「うん。 おやすみなさい。」 「明日は、一緒に寝ような。」

ドアを閉める時にかけられた言葉で、ほんの少しブルマは笑った。

 

居間に戻ったブルマは、今日あった出来事を・・ 半分ほど話した。

彼女の父は、静かな声で こう言った。

「ブルマが決めたことなら、わたしたちは賛成するし応援もする。

 だけど、ヤムチャくんには自分の言葉で、きちんと話をしなさい。」

母も頷いていた。  本当に、その通りだ。

天才科学者であると同時に、大会社の社長でもあった父。

一人娘への縁談は、山のように届いていたはずだ。

なのに、そんな話は これまで一度もしたことがない。

修行で不在のことも多かったとはいえ、ヤムチャとは事実上 若夫婦のようなものだった。

当然、いつか一緒になるものと思っていただろう。

だが ブルマの両親は、娘を咎めることは一切しなかった。

 

翌日。  新社長に就任したその日の仕事は、挨拶に始まり 挨拶に終わった。

会食の申し込みは延期させてもらい、解放されたブルマが家路に就こうとした、その時。

「ブルマ。」 聞き慣れた声に呼びとめられた。 「ヤムチャ・・。」

「ちょっと、話がしたいんだ。」

いつもと何も変わらない様子に、とりあえず安堵する。

「いつから待ってたの? 受付に言って、呼び出してくれればよかったのに。」

「そうしようとしたらさ、ガードマンに職務質問みたいなことされちまって・・

 きれいな格好してきたのになあ。」

ぼやくヤムチャに、ブルマは言った。 「その、傷のせいよ。」

整った顔に残ってしまった、大きな傷跡。 ブルマは何度も手術を勧めた。

「知り合いの先生に頼めば、きれいに消してもらえるのに。」

「いいんだよ。 これは、おれの勲章なんだ。 だけど・・

一旦、言葉を切る。

「そこまでしたって結局、悟空の奴には敵わないんだよな。」

 

その名を聞いて黙り込んだブルマを、ヤムチャが促す。近くのコーヒーショップを指さしながら。

「あそこで話そう。 時間はとらせないよ。 プーアルを近くで待たせてるんだ。」

席に着くなり、ブルマは尋ねた。 「待たせてるって、どこか行くの?」

メニューを見ずに、ヤムチャはコーヒーを注文した。 そして答える。

C.C.から出て行くんだよ。 荷物はカプセルに詰めたし、もう このまま行くからさ。」

「このまま? そんな・・。」 「だって、もう いられないだろ。」

ほかならぬ、自分が仕向けたことだった。

それでもやはり、心の揺れを ブルマは隠しきれない。 「・・どこに行くの? あの女の人の所?」 

「違うよ。」 はっきりと、ヤムチャは答えた。

「プーアルもいるし・・。 だいたい そんな仲じゃないんだよ、あの人とは。」

 

そんな仲じゃない。 

それは男女の仲ではないということか、将来を考えるような仲ではないということだろうか。

これまで何度も そんなことを考えて、疑った。そのことに もう、ブルマは疲れてしまったのだ。

「じゃあ、いったいどこに住むのよ。」 

「どうにでもなるさ。 自慢じゃないけど、おまえに出会う前は

屋根のある所に寝たことの方が少なかったんだぜ。」

「そんな。 これから寒くなるのに・・。」 ブルマは、バッグの中から財布を取り出した。

「これ、持って行って。」 一枚のカードを差し出す。 

「限度額は たいしたことないけど・・。」

「やめてくれよ、こんなこと。」 ヤムチャは また、きっぱりと言った。 そして続ける。

「おまえを裏切ったのは、100パーセントおれが悪いよ。

 だけど、どうしてそうなったかってこと、考えたことあるか?」

ブルマはうつむいて、唇を噛む。 涙をこらえているようだ。

「・・ごめん。 ブルマが悪いわけじゃないのにな。 おまえと悟空、案外合ってるかもしれないな。」

「え・・?」 「金とか地位なんて、まるで関係ない所にいる あいつなら・・ なんてな。」

 

カップに残ったコーヒーを飲み干し、伝票を掴んで、ヤムチャは席を立った。

「じゃあな。 落ち着き先が決まったら、改めて挨拶に行くよ。ずいぶん、よくしてもらったもんな。」

「待ってよ。 孫くんとは、いったいどんな話をしたの?」

「帰ったら、あいつに聞けよ。 お母さんたちに、あんまり心配かけるなよ。」

そんなことを言い残して、ヤムチャは店を出て行った。

 

夜、 C.C.

あまり そういう気にはなれなかったけれど、約束なので ブルマは悟空の部屋に行った。

自分の部屋に来てもらうのは、抵抗があった。あのベッドで、これまで何度もヤムチャに抱かれた。

もちろん、そんなことは口にしない。

「こっちのベッドの方が大きくていいわ。 わたし、ものすごく寝相が悪いのよ。」

ヤムチャに、いったい何度 文句を言われたことだろう。

けれども こんなふうに答えて、悟空は笑っていた。「そりゃあいいや。 寝てる時にも修行ができる。」

小さなライトだけを灯した薄暗がりの中で、つられて笑うブルマの顔を見ながら彼は言った。

「修行っていえばさ、ブルマの父ちゃんにすげえもん 作ってもらうことになったんだ。」

「父さんに? どんな?」

「うまく説明できねーけど、自分の体を重くできる機械なんだ。

 ちょっとずつ重くしていって、最後は100倍にもなるんだってさ。」

体を重くできる・・ 

「重力を変える装置ってこと?」

「そう! そうだよ。さすがブルマだな。 その機械を置いた部屋をつくってもらってさ、

 そこで修行すんだ。 そうすればさ、人の居ねえ山なんかを探さなくてもいいだろ。」

 

その言葉で、ブルマは理解した。

自分のために、彼が自由を捨てようとしていることを。

「だけど孫くんは、同じ所にいるのがイヤなんじゃないの?」

「いいんだよ。 オラはブルマのそばにいたいんだ。」

結婚したい、と言った時と同じ、真剣な表情。

「ねえ、ヤムチャとは何を話したの?」

しばしの沈黙ののち、悟空は答えた。

「オラが 勝負するか、って聞いたら、そんなことしたくねえ、って言って・・

「あとは?」

「どっちにしても、ブルマとは一度離れるつもりだった。相手がオラでよかったって、言ってくれたぞ。」

「そう・・。」

 

本当は、まだ続きがあった。 ヤムチャは こう言っていたのだ。

どうして他の女となんか・・ 疑問をぶつけた彼に向かって。

『おまえにはわかんないだろうな。 

そういう意味では悟空、おまえの方があいつに合ってるのかもしれないな。 だけど、』

言葉を切って、ヤムチャは続けた。

『これで、ブルマとおれは対等だ。 

おまえがあいつの手を離したら、おれはすぐにでも奪い返しにくるからな。』

・・その時は もう、別の女がいるんじゃねえのか。

精一杯の嫌味に対して、ヤムチャは答えた。

『そんなもの、いつだって捨てるさ。 ブルマは特別な女だ。おまえだって そう思ってるんだろ?』

・・・

 

「どうしたの?」 黙ってしまった悟空の顔を覗き込んで、ブルマが声をかける。

「いや、何でもねえ。」 そう言って 両腕で、ブルマの体を抱きしめる。

「今日は・・ ごめんね、疲れてるの。」

「なんにもしねえよ。寝相のわりいブルマがベッドから落っこちねえように、押さえてんだ。」

おどけたような悟空の言葉。

普通だったら笑うだろう。 なのに、涙が出そうになる。

ヤムチャからも、同じ言葉を何度か言われたことがあった・・・。

「どうした?」 心配そうな声。 「ううん、何でもない。」

素早く目元を拭った後で、ブルマは続ける。 「やっぱり、抱いて。」

「でも・・ 疲れてるんじゃねえのか?」

「うん。 だけど、したいの。 ね、いいでしょ。」

 

「悟空・・ 」 甘くかすれた声が、何度も自分の名前を呼ぶ。

滑らかでやわらかい、華奢なくせに、何もかもを包み込んでくれるようなブルマの体。

彼女を抱きながら、何度も悟空は繰り返した。

「おめえはオラだけのもんだ。 もう、誰にも渡さねえ。」