『フルコース』

ピッコロを下した あの天下一武道会にチチさんが来ておらず、

悟空が独身だったら・・というIFストーリーです。

文中に性描写が含まれますのでご注意ください。]

仕事をお休みにしたその日、わたしは小さな旅をしていた。 

ジェットフライヤーをカプセルに収めて、小型車に乗り換える。

手元にはドラゴンレーダー。 だけど目的はドラゴンボールではない。 

レーダーがさっきから反応している。  近い。 

車では これ以上進むことのできない森の中、じっと目を凝らしてみる。

 

小さな家を見つける。 

そして、家の前には、見覚えのある姿・・・

「孫くん。」  大きな声で、わたしは彼に呼びかけた。

手を振りながら 駆け寄る。 まきを割る手を止めて、孫くんは笑顔を見せた。 

「ブルマじゃねえか。 久しぶりだな・・。」

ピッコロを下した あの天下一武道会の日から、一年余りが過ぎていた。

 

「驚れえたな。 どうしたんだよ、急に。」 

「別に。 どうしてるかしらと思って、会いに来たのよ。」

居場所は見当がついた。 

ここはかつて、孫くんが育ての親であるおじいさんと住んでいた所。 

そして、わたしと初めて出会った場所でもあった。 

正確な位置は、ドラゴンレーダーが教えてくれた。 

促されて入った家の中には、四星球がきちんと飾られていた。 昔と同じように。

あの時 わたしと出会わなければ、孫くんはずっとここで、こういう暮らしをしていたのだろうか。

 

「ねえ、一人でいつも何やってるの?」 

「ん? そうだなぁ。 食いもん捕まえて、修行して、たっぷり眠って・・・。」

ふうん。 それって楽しいのかしら。 

「それなら、神様の後を継いだ方がよかったんじゃないの?」 

「ずーっとおんなじ場所にいなきゃいけねえなんてイヤだよ。」

 

自由でいたい。 自分の居場所を、他人に決められたくない。 

男の人は、そうなのだろうか。 ううん、多分みんな そうだと思う。 

わたしだって、本当は・・・

わたしは その時、多分暗い顔をしていた。

 

「なんだか元気ねえな。 何かあったのか?」 

孫くんの、邪気の無い黒い瞳。 昔とちっとも変わっていない。 

でも、その他は ずいぶん変わった。 

出会った時からこうだったなら、わたしは きっと、間違いなく・・。

 

「何にも無いわよ。 それよりさ、ちょっと質問に答えてよ。」 

「質問? 何だよ。」 

「あのね・・ 口でする、うんと楽しいことって何だと思う?」

少しの間 思案して、彼はこう答えた。 わたしの唇を見つめて。 

「オラはメシを食うことだけど、 ブルマはしゃべることか?」

「そうね。 どっちも当たりよ。 でもね、 」 

答えはもう一つあるのよ。

 

木で作られた椅子に腰かけている孫くん。 

その頬を両手で包んで、彼の唇に自分のそれを当ててみた。

しばらくのち、やっと離れて わたしは言った。 

「結構うまいじゃない。 誰かと したことあるの?」 

「・・覚えてねえのかよ。」

 

その一言で、ずいぶん前の記憶がよみがえった。 

あれは みんなで旅をしていた時のこと。 

どこかで知り合った女の子に いい顔をしたヤムチャに腹を立て、わたしはメソメソ泣いていた。 

その時、心配して呼びに来てくれた孫くんに、こんなことを言ってしまった。

 

『うるさいわね。 あんたみたいな子供には関係ないのよ。』 

自分だって、十分すぎるほど子供だったっていうのに。

『ふうん。』 つまらなそうに立ち去りかけた孫くん。 わたしは手を伸ばして、その腕を掴んだ。

『なんだ?』 

『こういう時は、なぐさめてくれなきゃダメでしょ。』  ・・・

 

「ひでえな、忘れちまうなんて。」 

「ゴメンゴメン。 おわびに、もっといいことしてあげる。 特別よ。」 

「一体 なんだ? いいことって・・・。」

耳たぶに、 首筋に、 唇を這わせる。 シャツの裾から手を入れて、脱いでしまうよう 促す。 

「そうよ、下も、全部。」  それが 答えの代わりだった。

 

 

吐き出すつもりだったのに、かなりの量を飲みこんでしまった。

「うまいのか? それ・・。」  「そんなわけないでしょ、 もうっ。」 

あんた、相当たまってたみたいね。

「どんな味だか、知りたい?」 返事を待たずに、再び顔を近づける。 

「こんな味よ・・

お互いの舌をむさぼり合うような、深く、激しいキス。 ごく自然に、体勢が入れ替わる。 

「今度はオラが、ブルマを気持ち良くしてやるよ。」

床の上に、仰向けのわたしを組み敷く形で彼は続けた。 

「だから、どうすりゃいいか 教えてくれ。」

 

 

事の後。 悟空は、ブルマの髪に指を通していた。 

髪形はしょちゅう変わるけれど、そのしなやかさは 出会った時から、多分ずっと変わっていない。

悟空は気付いた。  ブルマと こうなってみて、初めてピンときた。

ブルマはヤムチャと、こういう関係だったのだ。

ブルマが時々、ひどく怒ったり泣いたりしていたのは、

ヤムチャが他の女と こういうことをしたせいだろうか。

自分だったら 決して、そんなことはしないのに・・・。

 

腕を解いて、ブルマが起き上がった。 「帰らなきゃ。 お休みは終わりだわ。」

「行っちまうのか。」  自分でも驚くくらい、寂しそうな声が出た。

「また来るわよ。 でも・・ 」 一旦、言葉を切る。 

「しばらくは無理かも。 わたしね、C.C. 社を継ぐことになったの。」 

父さんも、年だしね。 

ぽつりとつぶやいたブルマに、悟空は言った。 

「じゃあ、オラがC.C. に行っていいか。」

少しだけ驚いて、けれども笑顔でブルマは答える。 

「もちろんよ。 父さんや母さんも喜ぶわ。」 

「そうじゃねえよ。 遊びに行くんじゃねえんだ。」 

戦い以外では、初めて目にするような真剣な表情。 「オラ、ブルマとケッコンしてえんだ。」

 

「結婚・・?」 ブルマは、自分の耳を疑った。 

「あんた、わかってて言ってる? 結婚っていうのは・・

「知ってるよ。 大人の男と女が、おんなじ家で暮らすんだろ。」 

確かにそうだけど、それだけじゃあ・・。

「それから、子供を持つんだよな。 オラとブルマの子かぁ。 きっとすげえ奴になるぞ。」 

「子供・・? わたしと、孫くんの・・?」  

「そうだよ。 ブルマが勉強を見てやって、オラが修行つけてやるんだ。 

頭が良くて力もあるなんてすげえよ。 オラ、勝てなくなっちまうだろうなぁ。」 

悟空は うれしそうに笑っている。

 

「そんなに簡単なものじゃないのよ。」 

目を伏せたブルマの顔を、悟空の黒い瞳が覗きこむ。 「オラとじゃ、イヤなんか・・?」 

「そんなことないわ。」 

「じゃあ、いいじゃねえか。 オラはブルマのこと、大好きだぞ。」

ああ、 なんてシンプルな言葉なんだろう。

「ブルマは、オラのこと・・。」 「好きよ。」 

涙が、はらはらと落ちてくる。 

「大好き。」

 

プロポーズというものをされたのは、二度目だった。 

うんと若かった頃、大人になったら結婚しようとヤムチャに言われた。

なのに、年だけは十分 大人になった今も、つまらないことでケンカして、泣いて、怒ってばかりいる。

何がいけなかったんだろう。 どうして あんなにも、こんがらがってしまったのだろう・・。

 

「いいわ。 わたし、孫くんと結婚する。」 

「ホントか?」 彼は瞳を輝かせた。

「修行で家を空けてもいいけど、行先はちゃんと教えてよね。」 

いっそ、四星球を持ち歩いてもらおうかしら。 

「わかってるって。」 「じゃあ、一緒に都へ帰りましょ。」 

孫くんが、車の入ったカプセルを出そうとした手を押しとどめる。

「えっ、 なに?」 たくましい腕に抱え上げられ、あっという間に空に浮かぶ。 

「きゃーーーーーー。」

 

これから一体、どうなるんだろう。 ヤムチャになんて話せばいいの? 

父さんと母さんは、案外喜びそうだけど。

「ねぇ・・ 」 「ん?」 

孫くん、と話しかけようとして 思いとどまる。

夕焼け空を 彼に抱かれて飛びながら、わたしは初めて口にしてみた。 

「悟空。」