『君を抱いたら』
[ ‘09暮れに投稿しました『LOVE&HATE』をもう少し濃い感じで
書いてみたいと思いまして・・挑戦しました。
が、二人の年齢差と悟天×ブラをあれだけ書いていることが
どうも引っかかってしまって・・結局 こういう形になりました。]
待ち伏せをした。
そのことを悟られないように、まずは偶然の出会いを 無邪気に喜ぶふりをする。
そして 喉が渇いたなどと言って甘えて、アパートの、彼の部屋にあがらせてもらう。
そこまでは、とても うまくいった。
当たり前だ。 これまで 頭の中で、何度も繰り返し シミュレートしていたのだから。
ただし、今 向き合っている彼ではなくて、別の男を思い浮かべていたのだけど。
家具も物も少ないためか、思っていたより 狭さを感じさせない。
その部屋の主であるヤムチャに向かって、ブラは膝を進めていった。
「ん? どうしたんだい?」
彼が手にしていたカップを受け取り、ローテーブルの上に置く。
彼の両肩に手を置いて、顔を近づけていく。
思いつきなどではなかった。
このことも 彼女の頭の中では、幾たびとなく繰り返された光景なのだ。
なのに、うまくは いかなかった。
「もうっ、どうして よけるの!?」
「いや、だって・・・ ダメだよ、悪ふざけしちゃ。」
「ふざけてなんか、いないわ。」
広くはないアパート。 ベッドも、視界に入る所に置かれている。
不機嫌な顔でヤムチャのもとから離れたブラは そこに腰を下ろすと、彼に向かって手招きをした。
「ねえ、 こっちに来て。」
「・・ブラちゃん、 おじさんをからかわないでくれよ。」
「おじさんなんかじゃないわよ、ヤムチャさんは。」
「じゃあ、おじいちゃんかな。」
おどけたように言う。 確かに、年齢だけで考えれば そうとも いえた。
だが サイヤ人には及ばないものの、彼もまた、実際の年よりも ずいぶん若く見える。
「違うったら。 それに わたしは、同年代の男の子なんか興味無いもの。」
「そりゃあ、君の男の基準は、トランクスやベジータなんだろうからね。」
年の功と言うべきなのか、彼は実によくわかっている。
家族の名前を出されたブラは、まるで それを振り切るかのように 着ている物を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと まずいよ。」
うろたえたヤムチャが、困惑した声を出す。
薄着だった彼女は、あっという間に下着だけの姿になってしまった。
「ブラちゃん。 そういうことはさ、好きな男の前でやってくれよ。」
「その人が わたしのことを、まるっきり女として見てくれなかったら?」
いつまでたっても・・・。
小さく付け加えた後で、ブラは訴える。
「わたし もう、子供のままでいたくないの。 わたしのことが嫌いじゃないなら、 ね、いいでしょ。」
「ブラちゃん・・。」
男と一度寝たくらいで、大人になるなどとは思っていない。
だけど 知らないままでいることが、ひどく イヤになったのだ。
胸に抱き続けていた想いは、もう叶わないかもしれない。
それならば 二番目に好きな人と ・・。
そう願うのは、いけないことなのだろうか。
「一度きりでいいの。 もちろん、誰にも言ったりしないわ。」
この言葉の後、 もしもヤムチャが 強い口調で咎めたり、お説教を始めていたら。
こんなふうに、ブラは尋ねたことだろう。
『ヤムチャさんが これまで誰とも結婚しなかったのは、ママのことが忘れられなかったからでしょう?』
そして、こう続けたかもしれない。
『わたしが代わりになってあげるわ。
なんだったら わたしのこと、ブルマって呼んでもいいのよ。』 ・・・
けれども そうはならなかった。
「まいったな。 でも、口で言っても わかんないだろうしなあ・・。」
などと ひとり言を口にしながら、ヤムチャが近づいてきたからだ。
「こんなことしたくないんだけど・・。 ちょっと ゴメンね。」
ベッドの上に横たわっていた、ブラの手をとる。
「? なに?」
答えない。
彼は 穿いているズボンの上から、ある個所に そっと当てさせた。
「・・・!」
「わかってくれたかい? 全然ダメだったろ?」
「・・・。 わたしだからってこと?」
「何言ってんだよ。 そうじゃないよ。」 即座に否定する。
「年のせいだよ。 もう何年も、そういうことをしてないんだ。」
こんな時 いったい何と返せばいいものか、ブラには まるで見当がつかない。
だから つい、こんなことを言ってしまう。
「だって・・ うちのパパとママは まだ・・・ 」
口に出してしまってから、まずかったと気付く。
だけどヤムチャは笑ってくれた。
「そうなんだ。 さすがだなあ。 けど、ブルマも大変だな。」
ひとしきり、笑った後で こう続ける。
「でもさ、実際に見たわけじゃないんだろ?」
「そりゃあ、そうだけど・・。」
大きくはないベッド。 その上に、彼は自分も横になる。
そして片腕を伸ばし、ブラの頭をのせてやった。
「話でもしながら、仲良く寝てるだけかもしれないよ。 こんなふうにさ。」
黙ってしまったブラに、ごく あっさりとした調子でヤムチャは尋ねる。
「その下着、かわいいね。 自分で選んだのかい?」
「そうよ。 だいたいは通販で買うわ。」
母親であるブルマにそっくりだと、周囲から さんざん言われ続けてきた。
10代になった今、パッと見て 似ていないところといえば・・・。
ブラは両手で、隠すように胸を押さえた。
「お店だと、試着しろって言われるからイヤなの。」
つまらないことを口にしてしまったと、彼女は後悔する。
だから気分直しに、以前から知りたかったことを尋ねてみる。
「ヤムチャさんとママの、最初の時っていつだったの?」
「ん? 18歳、かな。」
「場所は?」
「C.C. ・・ 君の家だよ。」
「どの部屋?」
「なんだか、取り調べみたいだなあ。」
そんなことを言って、また少し笑った。
「ブルマの部屋だよ。」
「あら。 じゃあ、わたしの部屋だわ。」
「そうか。 そうなんだね。」
静かな声で、繰り返す。 「そうかあ。 今は、ブラちゃんの部屋か・・。」
ブラの胸の奥が、キュンと音をたてて痛んだ。
考えずにはいられない。
何故 この人は、母と別れてしまったのだろう。
母に理由を尋ねると、いつだって こう答える。
「いろんなことが、あったのよ。」
この人も、同じように言うのだろうか・・・。
体を起こし、覆いかぶさる形になる。
彼の頬を両手で包んで、唇を重ねる。 やわらかく、 そっと、短く・・・。
照れ隠しに、問いかける。 「よけないでくれたのね。」
それに対し、こんなふうにヤムチャは答えた。
「してほしいな、って思ったからね。」
「みんな そうなの? よけないのは、してほしいから?」
「ブラちゃん?」
厚い胸に顔を埋めて、ブラはつぶやく。
「わたしね、初めてのキスが いつなのか覚えてないの。
小さかった頃は、背中や胸に飛びついて しょっちゅう・・。 もちろん自分からだけど。
好きな人には そうするものだと思ってたのよ。 だって仕方ないでしょう?
ママを見て、育ったんだから・・・。」
「ブラちゃんの好きな男って・・。」
だが それ以上は聞くことをせず、ヤムチャはブラの長い髪をなでた。
そっと、まるで いたわるように。
「あのさ、ブラちゃん。」
帰り道を送りながら、ヤムチャは こんな話を始めた。
「君の両親が、若くなくなった今も お盛んなのはどうしてだと思う?」
「・・・。」
ブラの頭の中には、二つの理由が思い浮かんだ。
若い頃から変わらずに、深く愛し合っているから。
サイヤ人である父が、若い時と同じように母を求めるから。
けれども 全く別のことを、彼は口にした。
「毎晩みたいに抱き合うことで、埋めようとしてるんじゃないかな。
わかり合えない たくさんのことをさ。」 ・・・
ブラは言った。 これしか言えなかった。
「ヤムチャさん、ママと さっさと結婚しちゃえばよかったのに。
うんと若い時、ママがパパと出会っちゃう前に。」
ヤムチャさんが だんな様だったとしたら、ママは自分の気持ちを抑えたんじゃないかしら・・。
そこまでは口にできなかった。
けれども 彼は こう答えた。
「いいんだよ。 もし そうだったら、ブラちゃんとは会えなかったからね。」
そして、こうも言ってくれた。
「頑張ってみなよ。 まだ間に合うよ、 きっと。」
大きな手で、ブラの頭を そっと、優しく撫でながら。
今 わたしは、悟天のアパートのそばに来ている。
夜ではないから、窓を見上げても いるかいないか わからない。
気を探れば わかる。 だけど、あえて それはしない。
携帯を取り出して、番号を押してみる。
留守電に向かって、何を言おうか考える。
あきらめないから。
ただ一言だけ、残してみようか。
彼の恋人が聞いていたら、二人はケンカになるだろうか。
『はい?』
驚いた。 長い呼び出し音の後、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
「どうして・・・。」
『え? あ、もしかして ブラちゃん?』
まるで屈託のない声で、悟天は続ける。
『この間 休日出勤してね。代休がとれそうにないから、今日は早く帰らせてもらったんだよ。
どうしたの? 何かあった?』
「・・待ってて。」 『えっ?』
もう少し、あと少し 待って。
わたしが一人前の女になるまで、お願い、もう少しだけ・・。
聞き取れないほど小さな声で、わたしは もう一度 言った。
「待ってて。」