005.『複雑な関係』
[ 169.『彼女の彼』のチチ目線+ベジブルです。]
天界からの帰り。
全員はジェットフライヤーに乗りこめなかったこともあり 孫家は遠慮することにした。
飛ぶことのできないチチが筋斗雲を呼ぼうとしていると、
ふわり、 と体が宙に浮いた。
ベジットに抱きあげられたのだ。
息子たちが両隣りを飛び、抱えられたまま我が家を目指す。
ブルマが言っていたように、見た目は確かに悟空に近い。
そして、体つきも・・・。
こんなふうに腕の中にいると、
夫の死からこれまでのことが 嘘のように思えてくる。
しかし、気難しげな表情はやはり別の男のものだった。
眼下に自宅が見えてきて、ゆっくりと降下していく。
「重かったべ。 すまなかったな・・・。」
ねぎらうチチに、ベジットが何か言ったようだが 強い風にかき消された。
チチが、家族以外の男の体温を感じたのは初めてのことだった。
夕方、 孫家。
ベジットは手持無沙汰な様子で、悟飯の部屋の本棚の中の一冊をパラパラとめくる。
「修行して強くなるのと同じくらい、勉強は楽しいです。
学校ではいい友達もたくさんできました。」
兄のまじめな近況報告に、悟天が茶々を入れる。
「それって、ビーデルお姉ちゃんのことでしょ。」
「別に、彼女のことだけじゃ・・・ 」
悟飯がほおを赤らめた。
「仕方ねえな。」
夕飯の支度ができたと呼びにきたチチがつぶやく。
「おらが悟空さと一緒になった年と、もうあまり変わらねえんだから・・・。」
夜。
さすがに同じ部屋では寝られないだろうと、チチはわざと遅くまで片付けをしていた。
今夜は居間で寝るつもりだ。
悟天の様子だけ見ようと、寝室に入る。
子供の寝息が聞こえる中、ベジットは窓辺に佇んでいた。
「眠れねえだか。」 小さく声をかける。
「ちょっと、話でもするか?」
居間でお茶を淹れてやりながら、無愛想な男に話しかける。
「やっぱり、あんたはベジータなんだなぁ・・・。」
「どちらでもあって、どちらでもないんだ。 今は。」
ようやく彼は、そう答えた。
「だが、絶対になんとかする。 ドラゴンボールでは無理だとしてもだ。」
目を伏せてチチは、静かに笑った。
「悟空さもあんたも、勝手に死んじまったのにな・・・ 」
そして、まっすぐにベジットの目を見つめて言った。
「ブルマさにも言ってやるといいだよ。 その言葉。」
玄関の扉を開けて、笑顔で送り出す。
「C.C.でもここでも、好きな所にいればいいだよ。
あの世以外ならな・・・
ただ、ここにいる時は、悟天に優しくしてやってくれ。 あの子は・・・ 」
「二人して、同じようなことを言いやがって・・・。」
ようやく元に戻れた日、妻を胸に抱きながらベジータはつぶやいた。
「わたしがあの朝、元に戻るまでは来ないで、って言ったのはね・・・ 」
閉じていた青い瞳を見開いて、ブルマはささやく。
「ベジットのことを好きになっちゃうと困るな、って思ったからよ。」
「なんだと・・・ 」 「ふふっ・・・ 冗談よ。」
半分だけね。 チチさんも、もしかしたらそう思っていたかもね。
夫に再び組み敷かれながら、ブルマは小さく笑った。