271.『サイヤの常識 地球の非常識』

[ 『七葉のクローバー』の続きで、トラパンの娘と天ブラの息子たちが

祖父母であるベジブルを生まれ変わらせようと奮闘するお話です。

オリジナル感が強いので、お許しいただけるかたのみ お願いします。]

彼女の名前はキャミ。 トランクスとパンの一人娘だ。

キャミという名は、祖父であるベジータがつけてくれたと聞かされていた。

だが 実は、亡くなった祖母であるブルマが遺してくれたのだという。 

そのことを知った彼女は、自分の名前が ますます好きなった。

 

16歳になる年の ある晴れた朝、 大好きだった祖父が亡くなった。

彼女の青い瞳を見つめ 最後に口にした言葉は、祖母の名前だった。

葬儀の後、彼女は決心する。 

祖父と、今も天国にいるのであろう祖母を、すぐにでも生まれ変わらせたい。

二人が新しい命として 再び出会うことができるよう、手助けがしたいと考えたのだ。

 

幼い頃、 これまた祖父から 隠し場所を教えられていたドラゴンレーダーを手に、

彼女はドラゴンボールを探しに行こうとした。

一番年上の従兄・・・ 悟天とブラ夫婦の長男である彼とともに。 

実は、彼は 彼女の恋人でもあるのだった。

だが、 いざ 出発という時。

そのことを察した 彼の四人の弟たちが同行したいと申し出て、結局 皆で行くことになった。

 

ドラゴンレーダーは一つしかない。 

けれども 六人全員が武術に長けており、強い。 もちろん武空術だって お手のものだ。

たとえ 山頂に転がっていようが 恐竜の住処に紛れ込んでいようが、

彼らにとっては さほど問題ではない。

なんと半日程で、七個全てを集め終えることができた。

 

「出でよ、 神龍。」

周りの大人たちによって、幼い頃から 何度となく聞かされてきた 呼び出し文句。

あっという間に 周囲は闇に包まれて、上空には巨大な龍が現れた。

それは さながら 映画のクライマックスシーンのようで、一同は圧倒された。

だが 祖父母を生まれ変わらせ、再び出会えるようにという願いには、

良い返事を返してもらえなかった。

 

『その願いを、叶えてやることはできぬ。』

「どうして?!」 「なんでだよ。」

皆が口々に叫ぶ中、リーダーである長男が 尋ねる。

「やっぱり おじいちゃんは、簡単には生まれ変わらせてもらえないのか。」

地獄という場所で、一体どのくらい 罪をつぐなわなければならないのだろう。

少なくとも 孫である自分たちにとっては、厳しいながらも 心から信頼できる師匠だったのに。

 

『それもあるが・・ おまえたちの祖母であったブルマは、もう既に生まれ変わっているのだ。』

「なんだって?!」 「そんな・・!」 

その時。 キャミは、神龍の赤々と輝く 両の眼に じっと見つめられているような気がした。

彼女の恋人もまた、同じことを感じたらしい。 何も言わずに、そっと手をつなぐ。

 

「じゃあ、どうする?」 「神様あたりに、直談判してみるか?」

「けど、誰に会うのが 一番いいのか・・。」

平和な時代に生を受けた彼らは、地球を見守っているという 神々とは、面識が無かったのだ。

 

「仕方ない。 今回はあきらめて、仕切り直す。」

「えーっ、 来年まで待つってことか?」 「なら、何か願っておかなきゃ勿体ないよ。」

長男の下した判断に、皆が不満を口にした時。  

キャミと同い年である、兄弟の末っ子が前に出てきた。

「兄貴とキャミが・・・、 」 

神龍に向かって何かを訴えかけたが、一旦言葉を切って 言い直す。

「トランクス伯父さんが、兄貴とキャミのことを認めてくれるようにしてくれ。」 

 

「!?」

皆が驚いている中、 『願いは叶えた。 では、さらばだ。』 

たちどころに神龍は消え去り、闇が晴れていくとともに ドラゴンボールは散っていこうとする。

「あっ、 待て!」  

キャミと長男、末っ子を除いた三人が 武空術を使って追いかけ、

石に戻ってしまった それを、首尾よく捕まえた。

「三個 ゲットか。 これで来年 探すのは四つだけで済むな。」  

その言葉にキャミは呆れる。 「そんなことして、いいのかしら・・。」

 

そんな中、 長男と末っ子は 険悪な雰囲気で睨み合っていた。 

男ばかりの兄弟だから、小競り合いはめずらしくない。 だが、いつものそれとは明らかに違った。

「余計なことしてくれたな。 親切のつもりだったのか?」 

「・・・。 おれは、二人を結婚させてくれとは言ってないよ。」 

「なに?」 

気色ばむ長男に臆することなく、末っ子が言い放つ。 

「いくら 伯父さんが認めてくれたって、キャミの気持ちが変わっちまうこともあるぜ。

せいぜい頑張りなよ。」

「この野郎・・!」 

「やめて!!」 

 

掴みあいのケンカが始まると思われた。  しかし・・ 

「なんだ、 ・・・はキャミに惚れてたのか。」 

「やめとけよ。 パン伯母さんが 可愛い女の子を産んでくれることに期待しようぜ。」

兄弟たちの呑気な言葉で、彼らは拳を下ろした。

末っ子がつぶやく。 「パン伯母さんの赤ん坊って・・ いくらなんでも、年が違いすぎだろ。」 

先ほどの指摘には、否定も肯定もせずに。

 

それに対し 誰かが答え、「関係無いさ、年の差なんか。 キャミや おれたちの親を見ろよ。」 

そして続ける。 「そうそう。 いとこ同士ってこともね。」

「サイヤ人は女が少ないから、 そんなこと全然気にしないんだって。 

いい女は、強い奴のものなんだってさ。」

 

「・・・ 」  何かを言おうとして、キャミが口を開きかけた。 すると、誰かが また言った。 

「おじいちゃんが そう言ってたんだよ。」  ・・・

 

「さ、 帰るぞ。 さっきも話したとおり、仕切り直しだ。 父さんや悟飯伯父さんにも相談してみよう。」

長男の言葉で、一同は その場を後にした。 

祖父母への願いは叶えられず、手に入ったのは 石の姿で復活を待つドラゴンボールが三つ。

他にはっきりしたことと言えば、 長男とキャミの仲を、兄弟 皆が気付いていたこと。 

そして・・・

彼らが生まれる前に亡くなった祖母 ブルマが、既に生まれ変わって この世にいるという事実だった。