002.『でも、だって。』

[ 『物思い』に似た感じなのですが、

セル戦後あたりの若く まだ少し不安定だった時期の回想と

ベジータの心情を入れてみました。 拙サイトらしくベジータ⇒←ブルマです。]

しわが増えただの、たるみがどうの、といった愚痴は 右から左へ聞き流していた。

俺にはよくわからなかったし、本人も、口で言うほど気にしていない。 

それが、わかっていたからだ。

その俺が、妻であるブルマの衰えを はっきりと感じ取ったのは…

いつものように、夜、ベッドの上にいる時だった。

 

 

夜、 寝室、ベッドの上。 わたしたちは、いつものように肌を合わせている。

手のひらも指も唇も、ベジータからの愛撫は とても気持ちがいい。

それなのに わたしの体は、以前のようには反応しない。 

はっきり言うと、濡れてくるまでに ひどく時間がかかるようになった。

こんなこと、少し前までは考えられなかった。 これも、老いの兆しなのだろうか。

まったく、イヤになってしまう。 

美容に健康、あれほど気を遣っているというのに、こんなところから衰えてくるなんて。

 

あれは、いつのことだっただろうか。 

ずっと前、多分 トランクスが まだ小さかった頃だ。

それでも もう この夫婦の寝室で、二人で眠るようになっていたけれども。

 

理由は忘れてしまった。 

けど その日、わたしたちはケンカをしていた。

出て行くか、別の部屋で休むだろう。 

そう思っていたのに、予想ははずれた。

ベジータも わたしも、黙ったままで、お互いを無視する形でベッドに入った。

二人して、広いベッドの両端で、背中を向けて眠りにつく。 

そのはずだった。

 

それなのに、明りを消して三十分程が過ぎたのち。 

ベジータに、背後から いきなり、抱きすくめられた。

『なによ…!』  

答えない。 けれど その手は乱暴に、左右の胸を揉みしだく。

『ちょっと! あっ … 』  

まただ。 これまでにも、何度かあった。

言い争いの後などに わたしが口を利かないでいると、たまに こういうことをする。 

快楽で、ねじ伏せようというのだろう。

身をよじったところで、適うはずがない。 

仕方がない。 せめて、甘い声だけは出すまい。 

できるだけ、口をつぐんでいようと心に決める。

けれど その決意は、入り込んだ指先により、あまりに あっけなく覆される。

『あ、 あ、 ん…っ 』  

ああ、どうして この男は、これほどまでに容易く、わたしの体を開かせるのだろう。

 

首筋に、耳たぶにかかる吐息が、わたしをさらに昂らせる。 

耳元に向かって、彼が ささやく。 

『何が欲しいんだ?』  

その最中にも指は、濡れた茂みを掻き分けて、わたしの奥を捏ねまわしている。

『何故 黙ってる? どうしてほしいかを言え。』 

『…。』

返事の代わりに わたしは、彼の いきり立った熱いものを掴んだ。 

お返しを、してあげるつもりだった。

なのに うまくいかない。 ほかならぬ、彼によって遮られたためだ。

 

『きゃっ!』  勢いよく、うつ伏せにされる。 

『ちょっと! 痛いわよ!』 

とはいえ、これで ようやく終わりが見えた。 指による、執拗な責めは もう終わる。 

けど それは間違いだった。

『あっ… 』 

両手首を、引き裂いた布で固定され、今度は仰向けの形にされる。 

そして彼は、わたしの目下の望みを わざと叶えない。

『イヤよ、ねえ、もう、』 

『何がだ。 何がしたいのか、はっきりと言え。』 

『イヤ、 言いたくない… あーーっ … 』

 

いやらしい 水の音が響き渡る中、いったい何度 昇っただろうか。

さすがに耐えきれなくなった彼が ようやく入って来た時には、

白いシーツは まるで、子供が失敗した後のようになっていた。

 

 

「ああ …!」  

どれくらい経っただろうか。 ようやっと、あの感覚が訪れた。

けれど それは、今施されていた愛撫だけでなく、若かった日の記憶が もたらしたのかもしれない。

 

ともあれ わたしはいつものように、彼に一旦 仰向けになるよう促す。

覆いかぶさり、唇を重ねる。 舌を、割り入れて絡める。

指だけでなく、口を使って愛してもらった時には、いつも そうしている。

そして 深いキスを済ませた後は、わたしも また、彼の中心に顔を埋める。

そう長い行為ではない。 

それでも、昔と変わることなく、熱と十分な硬さを持って いきり立つ。

そのことに安堵しながら、わたしは、彼の上に またがろうとした。

「待て。」 

「? なに? … あんっ!」

 

体勢を、入れ替えられて仰向けにされる。

「ん あっ!」 

のしかかってきた彼に、あっという間に貫かれる。

組み敷かれた わたしに向かって、彼は問う。 

「おまえは いったい、何をそんなに焦っているんだ?」

焦ってる? わたしが…? 

「何言ってんの? 別に何も、 … んっ、」

彼なりに、若くなくなった わたしを気遣っているのだろうか? 

ゆっくりと動きながら、彼は続ける。

「これ以上、何を望むというんだ。 いいか、おまえは この俺の妻だ。 そして、俺は ずっと、」

ここにいる。 

薄暗がりの中、彼の口元は 確かに そう動いた。

それから間もなく、ため息とともに彼は果てた。 

わたしが、うれしいと叫んで しがみつく前に。

 

不機嫌そうに、背中を向けてしまったベジータ。 

「もう。 こっち向いてよ。 …あら?」

消そうとしていた照明の、明度を上げて確かめる。 

「あら、やっぱり! わあ、すごい発見しちゃった。」

「やかましいぞ。 なんだ、いったい。」 

向き直った彼に、訴えかける。 

「白髪よ。 あんた、白髪があるわ。」

「… なんだと?」 

「一本だけ だけどね。 でも 待って、探せば まだ あるかも。」

指をくぐらせ、硬い髪を掻き分けようとする。 

なのに、手首をつかまれ止められてしまった。

 

「やめろ。 つまらんことをすると、手を縛るぞ。」 

「やだあっ。 そんなことされたら条件反射で、」 

「? なんだ。」 

「したくなっちゃう…。」

「チッ、もう、いい加減にしろ。」  

そう。 今夜は わたしの方から、抱いてほしいと 強く言ったのだ。

「寝るぞ。」 

「うん。 でも、こっちを向いてね。」 

「…。」

 

沈黙、 その後 ほどなくして、耳に届いた 微かな寝息。 

小さな声で わたしは つぶやく。

「一緒に、年をとっていけたら いいのにね。」

多分、聞こえていないと思うから。

 

 

地球人と、戦闘民族であるサイヤ人とでは 年をとるスピードが違うようだ。

だから ブルマが口にした願いを、俺は叶えてやることができない。

俺が こいつにしてやれるのは、抱いてほしいと言われたら 応じてやること、

そして ここにいてやることだ。

戦いに敗れて死ぬか、それとも 老いて死ぬのか。 

だが生きているうちは、ここに留まろうと思う。

 

そんなことを考えていたら、あることに、思い至った。

老いて、死ぬ。 

特に鍛えているわけではない、普通の女であるブルマ。 

もしかすると、俺よりも先に…

 

つまらない考えを、必死に振り払った。 

許さない。 認められるか、そんなことを!

敵ではなく、時の流れが、ブルマを奪い去っていくかもしれない。

そのことから 俺は、ずっと目を逸らし続けていた。