147.物思い

第2回VB69Fes.参加作品です。晩年を描いたお話に通じていく内容です。

いつまでも若いままのベジータ、いつまでも女でありたいと願うブルマ。

熟年となった二人の、ベッドタイムストーリーです。]

事の後。

仰向けの姿勢で横たわっている夫の上に、重なる形でうつ伏せになる。

「ねえ・・。」 「なんだ。」

ああ、 なんて答えてくれるはずがない。

だけど、尋ねずにはいられない。

「気持ち、よかった?」

 

予想通り、 彼は大きな舌打ちをする。

「いちいち聞くな。 まったく、 いくつになっても下品な女だ。」

いくつになっても、 か。

「だって、 気になるんだもの。」

 

おそらく 年齢による、体質の変化なのだろう。 

決して感じていないわけではないのに、わたしは濡れなくなっていた。

 

かつて・・  ううん、

ほんの少し前まで わたしは、ひどく感じやすい女だった。

始まりのキスで、 小手調べの愛撫で 既に、自分でもわかるほどに潤った。

からかいの言葉を口にするような男ではない。

けど その代わり、 わざと水の音を響かせたり、

時には 汚れた中指を、口の中にねじ込んできたりもした。

腹をたてた わたしは、前歯を使って がりりとそれを噛んだり、

唇で挟みながら 濡れた舌を 上下に、丁寧に這わせた。

彼の体の他の部分にしてあげるのと、とても よく似たやり方で。

彼の表情が変わっていくのを、確かめるのが楽しかった。

 

老いていく わたしの体の変化に、彼は当然 気付いている。

気遣ってゆっくりと動いてくれるさまは、彼らしいとは言えなかった。

そんなふうに扱われたのは これまで、

ブラを産んで間もない頃くらいのものだったのに。

もっとも 彼にしてみれば、初めて わたしを抱いた時から 力を抑え、

傷つけぬよう 気をつけてくれていたのだろうけど。

「痛むか。」 

その一言を口にする代わりに、途中でやめてしまうことがある。

幸い 今日は違ったけれど、わたしは それが、とてもイヤなのだ。

 

けれど そうなってしまった時。

わたしは すかさず、仰向けになった彼の下半身に顔を埋める。

まるで鎮まってはいない 熱いものを口に含んで、懸命に愛する。

その味と匂いは、かつての彼の指を思い出させた・・・。

 

彼が称する年齢は、わたしと ほとんど変わらないのに 体は違う。

はっきりとは言えないけれど、

彼の体は せいぜい40歳といったところではないだろうか。

うんと若かった頃よりは、衰えてきている。

それでも まだまだ現役、 男盛りと言える年代だ。

 

「あんたが、ちゃんと 満足したかどうかが気になるのよ。」

迷った末に 口に出した質問。

それなのに、彼ときたら こんなふうに答える。

「どっちでも構わん。」

「えっ?」  どういうこと?

「おれは おまえに付き合ってやっているだけだ。」

・・・。

「それは つまり、

あんたの方は別にしたくないんだけど、わたしの要求に応えてくれてるってこと?」

「・・そういうことだ。」

 

まったく・・・ よく言うわね。

嘘つき、 じゃなくって 心底カッコつけやなのね、この人。

「ベジータ。」

わたしは 体の位置を、一気に上にずらした。

「なんだ。  ・・ぶっ、 」 

彼の顔を目がけて、おっぱいを 思いっきり押し当ててやった。

「何しやがる!」

「もっと うれしそうにしたらどう? 世の男たちの夢なのよ、 こうされるのは。」

だけど、  あーあ。

自慢の胸も さすがに、引力には逆らえなくなってきたわ・・・。

「おっぱいだけでも、何とかしてもらおうかしら。」

「・・何をするっていうんだ。」

めずらしく、食い下がってくる。 やっぱり、好きなのよね。 ふふっ。

 

「見えないところに ちょっとだけメスを入れてね、 シリコン? 食塩水かしら。

 そういう物を注入して、バストアップさせるのよ。」

かなりイヤな顔をしながら、彼は言った。

「くだらん。 なんだって そこまでする必要があるんだ。」

「『俺だけしか見ないはずだろうが!』 って言いたいの? あっ、そうか・・

思い出し笑いをしながら続ける。

「たとえお医者さんでも、他の男に見られたり触られたりするのは、我慢できないんだったわね。

 だって、ブラを産んだ時だって・・・。」

「うるさい!! もう寝るぞ!」

勢いよく毛布を被って、こちらに背を向けてしまった。

仕返しのつもりらしく、 こんなことを言ってくる。

「おまえも さっさと寝ろ。 年寄りに寝不足は堪えるぞ。」

・・・

「なによっ、 もう!!」

 

ライトを消した部屋の中。

暗さに慣れた目で、まだ眠ってはいない背中を見つめてながら わたしは考えている。

老いていく速度が、わたしとは違っている人。

だったら 子供たち・・

サイヤ人の血が半分流れている トランクスとブラも、そうなのだろうか。

だとしたら 家族の中で、わたしだけが おばあさんになってしまうのかしら。

「イヤだわ、 そんなの。」

若返ることが無理だというなら、 もう これ以上年をとりたくない。

わたしだけ おばあさんになるなんてイヤ。

せめて、今のままで 止まってほしい・・・。

 

 

あの夜、 強く念じた願いは、思っていたのとは別の形で叶えられる。

わたしは 後悔することになる。

最期の日まで、 ずっと。