Friends or Lovers

もろに管理人好みの、ベジブル←ヤムです。

時期はセル戦前、ブルマがトラを身籠っている時期。

お許しくださるかたのみ お願い致します。]

西の都の繁華街。

デパートやショッピングセンターが建ち並び、平日でも 大勢の人が行き交う。

そんな中、歩道の脇に設えられたベンチで、妊婦さんが休んでいた。

買い物の途中らしく、足元には 店の名前が入った紙袋が いくつも置かれている。

具合が悪いのだろうか?

大きな おなかに両手を当てて、座り方も どこか、だらりとしている…

「ブルマ! ブルマじゃないか!」

 

「ヤムチャ。 なんで こんな所にいるの? どこかで修行してたんじゃないの?」

「ああ、ずっと山に籠ってたさ。 ちょっとだけ、小休止のつもりで下りて来たんだよ。

  一人なのか?」

「そうよ。 やっと休めたから、買い物しに来たの。 母さんは、あいにく用事があってね。」

「そうか…。」

目の前にいるブルマを、改めて見つめる。

子供の父親は どうしたんだ、一緒じゃないのか。

そんなこと、聞くまでもない。

その男は、女の外出に付き合ってくれるような奴じゃないからだ。

ブルマの腹の子の父親、それはベジータだ。

二人の仲は、おれが出て行った後も続いていたのだ。

 

いや、今は そんなことよりも。

「大丈夫か? 気分が悪いんじゃないのか?」

「平気よ。 ちょっとね、おなかが張り気味なの。 つわりは、軽い方だったんだけどね…

 ねえ、それよりさ、」

言葉を切ったブルマ。

その視線の先には、今さっきまで、おれと一緒にいた女性が立っている。

「早く行ってあげなさいよ。 わたしなら大丈夫よ、車だし。」

カプセルを取り出す。 

「いや、危ないだろ。」

運転中に また、調子が悪くなったら どうするんだ。

ブルマに向かって、おれは続けた。

「ちょっと、 ちょっとだけ待っててくれ。 いいか、そこに いてくれよ。」

 

 

信号待ちの車の中。

おれは片手で、自分の頬を押さえている。

助手席に座っているブルマが、心底 呆れたような声を出す。

「バッカみたい。」

そう、あの女性に おれは、こう言っちまったんだ。 おなかの大きい、ブルマのことをだ。

『実は あれ、おれの奥さんなんだよ。』

 

「ひっぱたかれて当然よ! まったく、誰が あんたの奥さんよ。」

「いや、最初は 旧い友達だって ちゃんと言ったんだよ。 具合が悪そうだから送っていきたいって。

 そしたら 自分も行くって きかないもんだからさ。」

「だから 平気だって言ったのに…。 だいたいさ、あの女の人 誰?いつ知り合ったのよ。

 あんた、ほんとに修行してたわけ?」

「美容師さんだよ。 山の中で一生懸命修行して、伸び放題になってた髪を切ってくれたの。」

「ふん、どうだかね。 男のくせに、頭なんか 坊主にでもすればいいんだわ。」

ちぇっ、なんだよ。

付き合ってた時は、あれが似合う これはダサいって、あんなに うるさかったくせに。

「坊主はイヤだよ。 夏は日差しが熱そうだし、逆に 冬は寒そうだ。」

それを聞いたブルマは、おかしそうに笑いだした。

そんな顔を見るのは、本当に久しぶりだった。

 

車は、C.C.に到着した。

「どうも ありがと。 ねえ、ついでに荷物、運んでくれる?」

言われなくても そうするつもりだった、けど…

「すごいなあ、 これ みんな 赤ん坊の物か? 店に言って、届けさせりゃいいのに。」

「そうしようと思ったんだけどね、いちいち頼むのが面倒になっちゃって。」

一軒では済まさず、あちこちの店をまわってきたらしい。

大金持ちのC.C.からの注文とあれば、店の方から やってくる。

でもブルマは 自分の足で、気に入る物を探したかったんだ。 きっと。

「御苦労さま、助かったわ。 お茶でも飲んでいってよ。」

「サンキュー、 じゃあ、お茶だけな。 酒や食事は いらないから。」

「! 出さないわよ。」

 

客として通される、C.C.の居間。

その一角には、たくさんの写真が飾られている。

おもに家族の記念写真で、同時に ブルマの成長記録でもある。

ブルマが、大切に育てられてきた証。

いずれは おれとブルマの結婚式の写真も、そこに飾られる。

そう思って、疑わなかった時期もあった。

これを見て、ベジータは 何とも思わないんだろうか。

それとも、こういう物は 視界に入らないのだろうか。

 

「?」

写真立てと一緒に、何かが立てかけられているのに気づいた。

「なんだい、これ。」

ブルマが、カップにお茶を注ぎながら答える。

「それはね、超音波で とらえた画像をプリントしたものなの。」

そうか。 つまり、おなかの中にいる子供の写真だ。

「赤ん坊、男の子なんだろ。」

「どうして わかるの? あ、気とか?」

「いや。 だって、ブルー系の服ばかり買ってたじゃないか。」

「なーんだ。 それで わかったの。」

そんな やりとりから、僅か数秒のち。

場の空気が さっと変わるのを感じ、その後 間もなく、奴、

ベジータが姿を現した。

 

もっとも、ブルマにとっては 『帰って来た』 という感覚なのだろう。

「何か月ぶり…? いったい、どこにいたのよ。」

当のベジータはといえば、カプセルを、まるでゴミをポイ捨てするように投げた。

中からは おなじみの白い手袋と、使用済みらしいブーツが一足だけ出てきた。

「代わりを用意しろ。」

ようやっと、短い言葉を発したベジータ。

「プロテクターやアンダースーツも 持って帰ってって言ったじゃない。

 破損の仕方を調べたいのに…。」

ブルマからの抗議は無視。

ましてや おれの存在なんて、こいつにとっては透明人間みたいなものだ。

だが、 「…。」

時間にすれば、ほんの僅かの間だった。

ベジータは その鋭い目で、確かに おれを睨みつけた。

 

何だよ、文句あるのか?

そりゃあ、恋人としての仲は終わってるよ。 

だけどブルマとは、旧い友達でもあるんだ。 友達の家を訪ねて悪いか?

そもそも 普通の体じゃないブルマを、一人きりにしていたのは おまえだろう。

それは、口にできなかった。

怖かったってだけじゃない。 あることに、思い至ったためだ。

今になって、ようやく。

 

ブルマに向かって告げる。 「じゃあ おれ、もう 行くよ。」

「そう…? ごめんね。」

そして、玄関先で こう続ける。 大きな おなかを見つめながら。

「修行に戻るよ。 今度 会うときは、もう生まれてるな。 いろいろ、頑張れよ。」

「そうね。 あんたこそ、頑張ってね。」

「ああ。 精一杯やるよ。 敵を倒すことはできなくても、やれることはある。

 たとえば、戦えない人たちを庇うこととか。」

そう言うと、ブルマは深く頷いてくれた。

「それで、いいんじゃない。」 

「それにさ、もう死にたくないよ。 どうにかして、生きていたいんだ。」

「そうよ、死んじゃダメ。 わたしは もう、ナメック星へは行けないわよ。

 これからは子育てと仕事で、大忙しになるんだから!」

 

そうだ、ナメック星。

かつて、おれを生き返らせるために、宇宙を旅してくれたブルマ。

ドラゴンボールの力によって送り返され、その一団の中に ベジータもいた。

行き場を無くした あいつに向かって、ブルマは言ったという。

『あんたも 来たら?』

それが始まりで、終わりだった。

 

「どうしたの、黙っちゃって。」

「いや、何でもないよ、じゃあな。 

  そうだ、その髪形、似合うよ。 以前のパーマ頭より ずっといい。」

「一言 余計よ。 でも ありがと。 あんたも、その髪形ステキよ。

 あの美容師さん、腕は いいみたいね。」

「ちぇっ、そっちこそ余計だよ…。」

そんなふうに、その日は別れた。

 

離れた場所から、C.C.を見る。

そうしながら、ひとりごちる。

「ほんと バカだな。 今頃になって気づくなんて。」

そうだよ。 他の皆が気づかなくても、おれは気づくべきだった。

未来から来て、皆に警告をした あの少年。

あいつの顔は、ベジータにそっくりだった。

そして、髪。 あの髪は、ブルマに似ていたんだ。

あの少年は、二人の息子だ。

つまり、ブルマのおなかにいる男の子は…。

「未来のブルマが、自分の子供をよこしてくれたんだな。

 皆が 死なずに済むように、生き延びることができるようにって。」

 

そして おれは また、この言葉を口にする。

「おれは ずっと、友達でいるよ。 ベジータがいなくなっちまった後も、ずっとだ。」

それは別れた日から、何度も繰り返してきた言葉だ。

 

一人ぼっちにはしないよ。 

家族にはなれなくても、恋人にも戻れなくても、生きて おまえのそばにいる…。

けど これも、今 気付いた。

もしかしたら おれは、未来のブルマに恋をしちまったのかもしれない。