プリンセス・プリンセス

悟天目線で、ベジブルそしてタブグレ風味があります。

時期は主に、ブラがおなかにいる頃です。]

お母さんに呼びとめられる。

C.C.に行くんだべ? なら ちょっと待ってくれ。」

「うん、 わかってるよ。」

 

このところは、いつも そうだ。

C.C.に遊びに行こうとする おれに、自家製の、いろんなものを持たせようとする。

最初の頃は とにかく、スタミナのつきそうな料理が主だった。

けど それらの ほとんどが ベジータさんとトランクスくんの胃の中に消えてしまうことを知ると、

果物を使ったデザート系を作ることが多くなった。

 

ブルマさんに、食べてほしいからだ。

ブルマさんのおなかには、赤ちゃんがいる。

トランクスくんの弟か妹。

もしも早めに生まれてきたら、うちのパンと同学年になるんだよ。

 

容器をおれに手渡す時、お母さんはいつも、おんなじことを言う。

「ブルマさのおっかあが元気なら、おらがでしゃばることもねえんだけど…。」

ブルマさんのお母さん、 トランクスくんのおばあちゃんは今、

あまり具合が良くないのだ。

 

傾けないよう気をつけながら、小型のカプセルの中に納める。

今日は何だろう。 また、ゼリーみたいなやつかな?

トランクスくんが言っていた。

『赤ん坊ができてから ずっと食欲が無いんだけどさ、あれだけは よく食べるんだ。』

お母さんが作る物の材料は、ほとんど この辺りで採れたものだ。

届け物のデザートも、裏山に実った果物を使っている。

お店では あまり見かけない それを、ブルマさんは、イチゴの次くらいに気に入っているらしい。

でも 残念ながら、今朝見てみたら もう、ほとんど終わっていた。

一応、考えながら採っていたつもりなんだけど…

街の人が来て、残りを もいでいってしまったのかもしれない。

まあ 自然の恵みってやつだし、マナーが悪かったわけじゃないから、構わないんだけどね。

 

C.C.に着いた。

「よお。」  トランクスくんが、迎えてくれる。

「こんにちはー。 これ、うちのお母さんから。」

「サンキュー、助かるよ。 あっ、ママ。」

ブルマさんが やって来た。

この時間に家にいるなんて、以前は あまり無いことだった。

会社も、しばらく休んでいるそうだ。

「いらっしゃい、悟天くん。 いつも ありがとうね。」

まだ少しだけ、顔色が良くないように見えた。

それでも ずいぶん、元気になったみたいだ。

 

そんなことを考えていた時。 「!」

大きな気が、こちらに近づいてくるのを感じた。

トランクスくんも、もちろん気付いた。 「なんだ? いったい…。」

姿を見せたベジータさんも一緒に、皆で 外に出てみる。

すると間もなく、広い庭の芝生の上に、奇妙な形をした乗り物が着陸した。

「これは… 」  見覚えがある。 

ハッチが開き、中から人が出てきた。

二人だ。  小柄な男の人と、とっても小さな

ベジータさんが、声をあげた。 

「ターブル!」

 

そう。 乗り物は、宇宙船だ。

そして、やって来たのは ターブルさん。 ベジータさんの、弟だ。

その傍らに立っているのは

ブルマさんが、皆の気持ちを代弁する。

「グレちゃん? じゃないわね…。」

うん。 よく似てるけど、ちょっと小さすぎる。

グレさんって人も小さかったけど、その半分くらいの上背しかない。

 

「皆さん、お久しぶりです。 三年、 いや もう四年近いんですね。

 お元気でしたか?」

以前会った時と変わらない、優しい声と話し方。

純粋なサイヤ人だっていうのに…   もともと そういう人だったんだろうか。

それとも、奥さんの影響なのかな。   だとしたら、すごいな。

そんなターブルさんに向かって ベジータさんとブルマさんは、

ほぼ同時に、だけど まったく別の質問をした。

「そんなことよりも、突然 どうした。 またフリーザ軍の残党でも現れたか?」

「それよりさ、その ちっちゃい子、もしかして お子さんなの?」

それらに対し、ターブルさんは にこやかに答えを返す。

「いえ、違うんですよ 兄さん。 地球に来たのは近況報告と、ちょっとした用事のためです。

 そのとおりですよ、義姉さん。 前に こちらにお邪魔した後、生まれたんです。

 娘の、レモといいます。」

レモちゃんという名の女の子は、恥ずかしそうに、それでも皆に向かって、

ぴょこんと頭を下げていた。

 

ブルマさんが また、質問をする。

「グレちゃんは どうしたの? 今回は一緒じゃないの?」

「ええ。 それが、実は

ん?  レモちゃんが手に持ってる あれって、カプセルだよな。

前にターブルさんたちが ここに寄った時、お土産でも詰めてもらったんだろうか。

「あっ、こら!」

小さな手がスイッチを押し、中身をぶちまけてしまった。

「ダメじゃないか、レモ。」

ターブルさんの足元に、赤い 実のような物が散乱する。

「あら? あれは…

ブルマさんも気がついた。  例の、パオズ山周辺で採れる果物だ。

小さな体をかがめるようにし、いくつか拾い集めたレモちゃん。

その後 おれたちに、一つずつ それを配り歩いた、

「あら、くれるの?」 「

「あ、 ありがとう。」 「おれにも? いいのかい?」

 

それを見て、ターブルさんが話し始める。

「実は、二人目の子供ができたんです。」

「わあっ、 おめでとう!!」 ブルマさんが すかさず、口を挟んだ。

「ありがとうございます。 ただ つわりが重いせいで食が進まなくなってしまって。」

「あら …。」 

ブルマさんと おんなじだ。 皆が、顔を見合わせる。

「それで、以前 地球で ご馳走になった果物の味が忘れられないと言うんで、

 娘と一緒に やって来たんです。」

そうか、 それが この果物なんだ。

残りの実を採っていったのは、ターブルさんたちだったのか。

あー そういえば、近所のおばさんが UFOを見たって騒いでたっけ…。

 

レモちゃんに向かって、ブルマさんが話しかける。

「お姉ちゃんになるのね。 楽しみね。 弟と妹、どっちなのかしら。」

一呼吸置いて、レモちゃんは ちゃんと答えた。

「男の子。」

「…えっ? もう わかってるの? すごいわねえ。 そう、弟なの。」

そして ブルマさんの、まだ全然ふくらんでいない おなかを見つめて こう言った。

「女の子。」

「えーっ!わかるの? ほんとに?」

とっても うれしそうに、ブルマさんは続ける。

「元気なら どっちでもいいんだけど… でも うれしいな。」

 

皆が笑顔になった時。

照れ隠しもあったのだろうか、ベジータさんが、こんなことを言いだした。

弟である、ターブルさんの顔を見ながら。

「おまえの娘は、母親にしか似ていないな。 サイヤ人の特徴が、まるっきり見られない。」

あわてた様子で、ブルマさんが たしなめる。 「もう、ベジータったら! 失礼よ!」

それに対し、ごく あっさりとターブルさんは答えた。

「それね、仮の姿なんです。」

「どういうこと?」  皆が、次の言葉を待つ。

「グレの星の人達は、身を守るための変身能力を持っていまして…。

 それに、ものすごく恥ずかしがり屋なんです。

 よほど親しくならないと、本来の姿は 見せてくれません。」

「そうだったんだ!」

何だか いろいろ、納得してしまった。

 

ターブルさんは、こうも付け加えた。

「どことなくですが、素顔のグレは義姉さんに似ているんですよ。」

「そうなの! ふふっ、やっぱり兄弟ね。 好みが近いんじゃない?」

「フン…。」

ブルマさんは もちろんだけど、ベジータさんも、結構うれしそうに見えた。

だって 口の端っこが、にんまり 持ち上がっていたもん。

 

グレさんが待っているからと、ターブルさんたちは慌ただしく 出発した。

空に飛び立とうとする宇宙船を 見送っていた時。

「あっ!!」  おれは気づいた。 「トランクスくん! 見てみなよ、ほら!」

「ん? なんだ、どうした? あっ…

窓辺で、レモちゃんが手を振っている。

だけど、姿が違っている。 変身を、解いたんだ。

長い髪、 パッチリした目で色白で…

体は、やっぱり すごーく 小さいみたいだけど。

 

「かわいかったなあ…。」

うっとりと つぶやいた おれに、トランクスくんは不満をぶつける。

「おれは よく見えなかったよ。 勿体つけないで、ちゃんと見せてくれればいいのに。

一応、親戚なのにさ。」

まあまあ。 その言葉の代わりに、こんなふうに答えてみる。

「トランクスくんの妹って、あんな感じなんじゃない? きっと そうだよ。」

そう言った時の、トランクスくんの顔。

口の端がニッと上がって、ベジータさんに、本当によく似ていた。

 

 

あれから、なんと18年もの歳月が流れた。

おれは30過ぎたけど、まだ結婚は していない。

今のおれと同じ頃、兄さんは とっくに家庭を築いていた。

それを思うと、ちょっと落ち込んでしまう。

だけど おれはおれだから、あんまり気にしないことにしている。

 

それにね、恋人になりそうな女の子はいるんだ。

その子は今、おれの隣を歩いている。

「そうか、ブラって誰かに似てるなと思ったら…。」

「ブルマさんだ、なんて言うんじゃないでしょうね。」

「まさか。 そんな わかりきったこと、わざわざ言わないよ。」

そうだよ。 

髪や瞳の色は違うんだけど、ブラはあの時会った レモちゃんに似ている。

そりゃあ そうか、従姉妹だもんな。

そして どちらも サイヤの王家の血を引く、お姫様だ。

この話をしたら、何て言うかな。

他の女の子の話をしないで、って怒られちゃうかも。

 

すたすたと早足で歩いて行く、怒りんぼうのお姫様。

追い越されないよう 手をつなぐと、色を塗られた唇の、端っこだけが持ち上がった。

ちょっと皮肉な表情は、誰かに とっても よく似ている。