250.『ロマンティックが不足』
[ Wプリンス祭に出品していたお話です。
例の新作アニメの、筆者目線での続きのつもりで書きました。 ]
にぎやかな宴も終盤の頃。
じゃあ
そろそろ、と帰途に就こうとする人達を見送った後
いつまでも意地汚く 皿をからにし続ける夫たちを尻目に、わたしたちは女だけでテーブルを囲んだ。
メンバーはわたしとチチさん、そしてグレちゃんだ。
18号も誘ったけれど、マーロンちゃんが疲れたようだからと クリリンくん一家は帰ってしまった。
頑丈なサイヤ人と違って、マーロンちゃんは本当に普通の女の子なのだから仕方がない。
と、 いうことでサイヤ人の夫を持つ
妻達のつどいとなった。
少し離れた場所では、トランクスと悟天くんが遊んでいる。
悟飯くんはビーデルちゃんと、なんだかとってもいいかんじだ。
あと何年か後だったら、彼女もこの席についていたかもしれない・・。
お茶を飲みながら、グレちゃんは自分のことを少しずつ話してくれる。
ベジータの弟であるターブルくんとの、出会いと始まり。
それはそれはロマンティックなラブストーリーで、わたしとチチさんは
何度も溜息をついた。
グレちゃんは、故郷の星の王女様なのだそうだ。
女王に即位する前に平和を取り戻すことができて、とてもうれしいと涙ぐんでいた。
グレちゃんに話をふられて、チチさんも孫くんとの出会いから
これまでのことを話し始めた。
ちょっとロマンティックに脚色しすぎだと思ったけれど、
例の・・ 天下一武道会でのシンプルなプロポーズはあの頃、
とってもうらやましいと思ったわ・・・。
「お義姉様たちの話も聞かせてください。」
気がつくとグレちゃんは、つぶらな瞳をキラキラさせてこちらを見ている。
「んだ。 そういえばブルマさとベジータが、どうして一緒になったか
ちゃんと聞いたことがねえ。」
「だって、 わたしは別に・・・
」
つい、
なんとなく、 だもの。
夜、 C.C. 。
明日の朝
発つというターブルくん夫妻は、ゲストルームに案内した。
トランクスは帰り道で、既に
半分眠っていた。
ベジータも、寝室のベッドの上に横たわる。
いつもどおり、
わたしの隣に。
その姿を見て、思わず口から出てしまう。
「わたしって、 あんたの奥さんよね?」
「なんだ、 急に・・。」
藪から棒な言葉に、少し驚いたようだ。
「なんだか自信がなくなっちゃった。
わたしたち、結婚式も挙げてないし、あんたから何の言葉も もらってないわ。」
「今さら何を言ってやがる。」
そうね。 ベジータみたいな男が、こんなふうにそばにいてくれるってこと。
それだけで、十分幸せだって思ってた。
だけど・・・
「グレちゃんに聞いたのよ。
ターブルくんからのプロポーズの言葉。
一生
全力で守ります、って言ってくれたんですって。」
「フン。 守りきれなかったから はるばる地球まで泣きついてきたんだろうが。」
「ひどいわ、 そんな言い方・・・。」
この男の口が悪いのは
いつものことだっていうのに、
今夜は何故か
ひどく心が尖ってしまう。
「あんただってそうじゃないの。 敵を追いかけるのに夢中で、
わたしが危ない目に遭ってたって・・・。」
言わないつもりでいたのに、止まらなくなる。
「本当はわたしのことなんて、どうだっていいんだわ。」
だから、 助けてくれなかったのよ。
最後まで言い終わらぬうちに、ベジータはベッドから出て立ちあがった。
「少し 頭を冷やせ。」
ドアが閉まる音を聞いた後、 わたしは少しだけ泣いた。
本当に久しぶりに。
シーツもカバーも、手伝いロボットが毎日取り換えているはずだ。
なのに
もう、ベジータの匂いがしてくるみたい・・。
彼の枕に顔を埋めて、わたしは考えていた。
今日、 落下物からわたしを助けてくれたヤムチャ。
まだ 付き合い始めたばかりの・・
今日の悟飯くんたちと同じ年の頃、わたしは彼にプロポーズされた。
うんと若い時の口約束。 だけど、とってもうれしかった。
今でも大切な思い出だ。
だけど結局、ヤムチャとは別れた。
ベジータと
こうなっていないとしても、彼とは一緒にならなかった気がする・・・。
かけがえのない宝物をわたしに授けて、
わたしのそばで生きてくれるのは、毎晩一緒に眠ってくれるのは、ベジータ。
ロマンティックな言葉を口にするなんて、考えられない。
でも、 だけど、 わたしは
ちゃんと、わかってる。
わたしは起き上がって
部屋を出た。
気なんてわからない。 でも、ベジータはそこにいた。
シングルのベッドの上で、
こちらに背を向ける形で。
毛布をめくって、わたしもベッドに横になる。
とても温かい。 そう、
これは、彼の体温のせい・・。
「なんだ。」
そのままの姿勢で、眠っていない彼が言う。
「頭を冷やし終えたから
来たの。」
「・・ずいぶん
早いな。」
「ほんとよ。 確かめてみて・・
」
ベジータが、こちらを向く。 お互いの両腕が、背中にまわる。
「なつかしいわね、この部屋。」
ここは以前、ベジータの部屋だった。
今みたいに一緒に眠るようになる前は、ここへも
よく訪れた・・。
「グレちゃん、トランクスや悟天くんたちを見て、とってもうらやましそうにしてたわ。
早く子供がほしいんですって。」
いつものそれよりも
ずいぶん狭いベッドの中、暗さに慣れた目で ベジータの顔を見る。
なんだか複雑な表情をしている。
「悟飯くんとビーデルちゃんも、あと何年かしたら
きっと・・。
孫くんは
若いおじいちゃんになるわね。」
眠っていないくせに、ベジータは何も言わない。
「わたしはチチさんより年上だけど、
でもね・・ 」
できれば
まだ、子供がほしいって思ってるのよ。
わたしはおしゃべりで、余計なことばかり言っちゃうけれど
あんたとの始まりは、今まで誰にも話してないわ。
だから
もし女の子が生まれたら、その子にだけ教えてあげるつもりなの。
ベジータは黙っていた。
眠っているかどうかは、わからなかったけど。
「でも、
男の子でもいいわ。 そしたら今度は黒い髪かもね。
ターブルくんみたいなかんじなのかしら・・・。」
肩を抱いている腕に、少し
力がこもった気がした。
翌朝。
C.C. 一家に見送られ、ターブルとグレは自分たちの星へ帰って行った。
再会を約束して。
宇宙船で、グレはようやく変身を解く。
「そのままの姿でもよかったのに。」
「そうね。 今度お会いする時には・・。」
異星人からの
長年にわたる侵略のために、グレはかなり用心深くなっていた。
グレの星の人々は戦闘力は低いが、身を守るための変身能力を持っていた。
「兄さんとは、女性の好みが似ているかもしれないな。」
姿を戻した妻の姿を見て、ターブルはひとりごちた。
グレは
かなり小柄ではあるものの、愛らしい顔立ちで、女性らしい体つきをしていた。
「今度お会いする時には・・・
」
また同じことを口にしたグレは、一旦言葉を切る。
「わたしたちの子供が、一緒だといいわ。」
ターブルは、頬を染めて恥じらう妻の肩を抱き寄せた。
その後 故郷の星に戻ったグレは間もなく懐妊し、元気な男の子を出産した。
平和になり、世継ぎにも恵まれたということで、民衆は喜びに沸いた。
ベジータによく似たターブルと、ブルマにどことなく似たグレ。
その息子は高い戦闘力と立派な尻尾を持っており、やっぱり誰かによく似ていた。
かなり小柄だったけれど。