『幸せになるために』 トランクス編
親友と妹の結婚式。 花嫁のブーケを受け取ったのは、パンだった。
式の後のガーデンパーティーで、花束を持った彼女がおれの方に歩いてきた。
「このたびは、おめでとうございます。」
他人行儀な挨拶に、「あ・・ ありがとう。」とだけ答える。
そのあとで、二人して顔を見合せて笑う。
小さな頃と変わらない、無邪気で明るい笑顔。
おれと一緒にいる時には、あまり見せてくれなかった。
実は、おれたちは付き合っていたことがあった。
長い間のことじゃないから、たぶん誰も気づいてないと思う。
「なんだか、元気ないみたい。 ブラちゃんがお嫁にいって、寂しいの?」
「先を越されて、くやしいだけだよ。」
彼女の手もとの花束が、目に入る。
「次の花嫁はパンちゃんだな。」
そう。彼女にはもう、恋人がいる。
「まだまだ、先のことだと思うわ・・・。」
離れた所にいる新郎新婦の二人を見つめて、パンがつぶやく。
「彼は、悟天おにいちゃんみたいに大人じゃないから。」
おれは思わず笑ってしまう。 悟天じゃなくて、自分に向かって。
彼女と過ごした、短い日々を思い出す。
同じ頃、母さんに 病気のことを打ち明けられた。
会社のことも、いろいろあった。
おれは、誰かに甘えたかった。
一回りも年下のこの子に 苛立ちをぶつけて、甘えてばかりいた。
「元気出してね。」
パンは 花束から青い色の花を一輪抜き取って、おれの上着の胸ポケットに差した。
「トランクスの瞳の色に似てるわ・・・。」
「・・ブラに合わせて、作ったせいだろ。」
長いまつ毛に縁取られた、黒い瞳がおれを見つめる。
何か、何か言わなきゃ。 口を開きかけたその時、彼女は先にこう言った。
「わたしたちも、がんばろうね。」
そして小さく手を振って、人の輪の中に戻っていった。
母さんだったらこんな時、そっとキスしてくれるんだろうな。
・・そして、おれが父さんだったとしたら。
有無を言わさず腕の中に彼女を抱えて、どこかへ連れ去ろうとするだろうか。
「いちいちこんなふうに考えちまうから、おれはダメなのかな。」
トランクスはテーブルの方へ歩いていき、席についているブルマに告げる。
「仕事が少し残ってるから、会社に出てくる。」
「えーっ、何よ、こんな日に・・。」
彼は返事をせずに、
さっきパンから渡された花をテーブルの上のグラスに差して 立ち去った。
グラスに水を入れながら、ブルマは小さくつぶやいた。
「バカね・・・。」
花嫁姿の娘を囲む人の輪の中で、ひときわ目立つ、艶やかな黒髪。
その後ろ姿をブルマは見つめる。
「なかなか、うまくいかないものね。」
「何がだ。」
ブルマはそっと、傍らにいる夫の肩に頭をもたせ掛けて言った。
「ううん。 こっちの話・・・。」