Sleeping Cinderella

当サイトの七万ヒットを踏んでくださった まきこ様からのリクエストで、

まったりトラパンです。果たして、まったりしているかどうか わかりませんが…

そして何と言いますかデジャヴ感もありますが…。GT寄りの二人のつもりです。]

C.C.社の傘下である、このホテル。

トランクスは ここに、仕事用の部屋を借りているという。

本当に、仕事のための部屋なのかしら?

けど 今は、そのことを考えるのは やめにする。

 

空に浮かんで 窓から覗いて、びっくりさせてやろうと思った。

だけど、それも やめておく。

何故だか今日は、きちんと訪ねたいと思った。

それに もし、部屋の中に、 他の誰かが いたとしたら。

窓の外から 二人でいるところを、目にしてしまったりしたら…。

わたしは首を、横に振った。

 

フロントを通さずに、エレベーターに乗ってしまう。

とても大きなホテルだから、見咎められることはない。

最上階より、一つ下の階で降りる。

部屋番号は、大体だけど わかっている。

ブラちゃんが、多分そうだと教えてくれた。

トランクスの、愛車のナンバーと同じ。

ドアの前に立つ。

間違いない、彼の気を感じる。 

どうやら、他に人はいないようだ。

よかった。

ノックしようと 手を伸ばしかけた時、気がついた。

ちゃんと、チャイムがついている。

すごい。 何だか、マンションみたいだ。

 

ボタンを押した数秒のち、 トランクスが、ドアを開けてくれた。

「こんにちは。」

「パンちゃん。 どうしたんだい、こんな所に … あれ?」

…。 やっぱり、 気づくわよね?

「パンちゃん、だよね?」  

怪訝な顔で、背後に回り込む。

部屋の奥へと 歩みを進めて行くわたしを、まるで確かめるように見つめている。

「いったい どうして… あっ!」

はっとしたように、彼は大きな声をあげた。

「ブラの奴だな? あいつ、本当に作ったんだ…。」

そう。 わたしは今、大人の姿になっている。

ブラちゃんが調合した、特別製の成長促進剤を飲んだためだ。

今より およそ十歳ほど上、二十代の初め頃。 トランクスよりも、ちょっとだけ年下という設定だ。

 

「あいつめ…。 このところ やたらと 母さんのコンピューターをいじったり、

 おじいちゃんの蔵書を引っぱり出したりしてたんだよ。 まさか本当に作っちまうなんて…。」

言葉を切って、心配そうに続ける。

「これじゃあ、人体実験じゃないか。 大丈夫かい? 具合は悪くない?」

「平気よ。」

ついつい、強い口調になってしまう。 

期待していた反応と、少し違っていたからだ。

「何ともないわ。 四分の一とはいえ わたしだってサイヤ人。普通の人より ずっと頑丈だわ。

だからこそブラちゃんは、自分用に作った貴重な薬を 特別に分けてくれたんだから。」

「…。  まったく、あいつときたら。」

ブラちゃんの目的を、トランクスは わかっているみたいだ。

ためいきをついた彼の、目を見つめながら 問いかけてみる。

「ねえ、どう思う? 大人になった わたし。」

「あ、 うん …。」

わたしは見逃さなかった。  

トランクスは わたしの、胸の辺りに視線を向けた。

 

確かに、自分でも気になる。

背も少し伸びたのだけど、とにかく 胸が重くなった。

つけていたハーフトップは きつくて仕方が無いし、何だか急に、恥ずかしくなってきた。

胸元を、腕で隠すようにしながら尋ねる。

「昔のママに似てる?」

「そうだね。 ああ、だけど… どっちかっていうと、チチさんに似てるかな。」

「おばあちゃん?」

「うん。 若い頃の、って言っちゃ悪いけど、おれがチビだった頃のね。

 瞳も黒だし、前髪を そんなかんじに、眉の辺りで揃えててさ。」

「写真で、見たことあるわ…。」

でも あれは、もっと前の物だ。 

一緒に写っていたのは、まだ小さな子供だったパパ。 

そして、若かった頃の おじいちゃん。

 

わたしは多分、悲しげな顔をしていた。

そのせいだろうか。 トランクスは、意外なことを言いだした。

「どこかに出かけようか。」

「えっ?」

「せっかくだからさ。 効いてる時間って、どのくらいなのかな。」

「2〜3時間って言ってたけど…。」

「もし 戻らなかったら、どう始末をつけるつもりなんだろうな、あいつは。」

また、ブラちゃんのことだ。

「ま、今は いいや。 行こうよ。」

戻らなくてもいい。 このまま、大人の姿のままでもいい。

そんなことを思いながら わたしは、彼の後を ついていった。

 

すぐに外へは出かけなかった。

ホテルの中にある、ブティックに入って行く。

香水のいい匂い、ふかふかの絨毯。 とっても高級そうな お店だ。

「どうして?」

「だって、その恰好じゃ ちょっと…。」

また、胸元に目をやった。 ジーンズだって、きついんだけど。

 

スタッフの、すごく きれいなお姉さんに向かって、慣れた様子でトランクスは命じる。

「この子に似合いそうな物を、一揃い選んでくれ。」

わたしは小声で訴える。 「いいの?なんだか高そう…。」

笑いながら、彼は答えた。

「平気だよ。 ここなら、とりあえず全部揃うからさ。」

選び抜かれた素敵な物を、美術品のようにして 売っているお店。

自分では とても、コーディネートなんかできない。

スタッフのお姉さんの手によって、そしてトランクスも少し意見を出して、わたしは変身した。

本物の、大人の女の人みたいに。

 

「結構、時間かかっちゃったね。 急ごう。」

服に合わせて、薄くだけど メイクもしてもらったのだ。

「きゃっ…

よろけてしまった。 初めて履いた、ヒールの高い靴のせいだ。

でも 平気。トランクスが、素早く 支えてくれたから。

「大丈夫? ごめん、急がせたせいだね。」

「ううん。」 

慣れてしまえば へっちゃらだ。 バランスをとることなんて、簡単だもの。

だけど、少しの間だけれど、腕を組んで歩いた。

 

それなのに…

車のドアを開けてもらい、助手席に座って、「どこに行こうか?」

そう 尋ねられた直後。

体の内側が まるで、燃えるように熱くなった。

「…、 … !!」

薬を飲んだ時と同じだ。

元に戻ってしまう。  そんな、早すぎる。 

あんまりだわ…。

「パンちゃん!?」

時間切れだ。 魔法が、解けてしまった。

 

トランクスは車を停めたまま、しばらく何も言わなかった。

しょんぼりと うつむいている、わたしのことを気遣ったのだろう。

けれども しばしののち、明るい調子で切り出してきた。

「夕方まで、まだ少しあるよ。 どこに行きたい? でも その前に、着替えた方がいいな。」

言い終わらぬうちに、わたしは答えた。

「もう いい。 帰る…。」

 

車に乗せてくれた時、 二人で並んで歩いた時、 服を買ってくれた時。

トランクスは、とても慣れた様子だった。

同じようなことを、いつも しているのだろうか。

ブラちゃんが、こんなことを言っていた。

『わたしね、悟天の結婚式で、フラワーガールなんか やらされるのは絶対にイヤなのよ。』

うん、 そうよね。 よく わかる。

花嫁さんを引き立たせるために着せられる、可愛いけれど子供っぽいドレス。

あんなの、トランクスの前で着たくない。

ううん、違う、そうじゃない。

他の誰かと、結婚なんかしてほしくないの。

 

何がイヤだったのか、やっと わかった。

瞼の裏が、熱くなる。 だけど涙は我慢した。

その代わり、目を閉じた。 少しだけ、顎を上げてみる。

「パンちゃん…。」

わたしが どうしたいか、彼は理解したようだ。

数秒ほどが経ったのち、両肩に手が置かれた。

機嫌を直させるため 仕方なく、だったかもしれない。

いい。 それでも。

ほっぺだろうか、それとも おでこ?

わたしの予想は、どちらもはずれた。

唇が、重なった。

だけど そっと、ほんの わずかの間だった。

薄く塗られた口紅が、移る暇もないくらいに。

 

 

そこで、目が覚めた。

なんと 今のは、夢だったのだ。

 

「よく寝てたなあ。」

わたしのいるベッドの上に、腰を下ろしたトランクス。

例の部屋で、彼の仕事が一段落するのを待っているうちに、いつの間にか眠りこんでしまったらしい。

 

実は さっきまで見ていた夢は、全てが 心の中の出来事というわけではない。

ところどころだけど、現実に起きたことが混じっている。

そういうことが何度かあって、それで高校生になった今、

わたしは この部屋のベッドの上にいるのだ。

残念ながら、服を脱いだことは まだないんだけど。

 

横たわったトランクスの顔が、ごく自然に近づいてくる。

唇が、重なる。 まるで、当たり前みたいに。

ドレスなんか着ていないし、お化粧だって していない。

だけど 本物の、ちゃんとしたキスをしてもらえる。

だから シンデレラより、眠り姫よりも 多分 幸せ。

でも…。

「残念、 もう 時間だな。 さ、送って行くよ。」

あいかわらず、時間には追われている。

 

「あーあ。 早く大人になりたいな。」

ぼやいた後で、手を伸ばして つないだ。

温かい、トランクスの手。

腕を組むよりも、こっちの方が好きかもしれない。