Addicted  To  You

[文中の一部に性的な表現が含まれますのでご注意ください。]

『ずいぶん慣れてきたよね・・・。』

 

ベッドの上、彼の下。 

何に?という質問は、わたしの意思とは別の声に替えられる。 

けれども彼は答えを返す。

 

『好くなってきただろ、ってこと。』  『わかんない、そんなの・・・ 』

『そう? おれにはわかるよ。 だってさ・・・ 』

 

 

ジーンズのポケットに入れていた携帯の、着信音が鳴り響く。 

音を切っておくのを忘れていた。

驚いたわたしは、拭いていたお皿を床の上に落してしまった。

 

「ごめんね、ママ・・・。」 「いいわよ、片付けておくから。電話、いいの?」

この時間に来るメールは、トランクスからの連絡だ。

後で見たって構わないのに、この場を離れたくて自分の部屋に戻る。

 

ぼんやりしていると、いつも思いだしてしまう。

その時、彼がささやく言葉。 耳にかかる熱い吐息。 

優しく、そしてゆっくりと解きほぐすように触れる指先・・・。

 

もう、わたしはおかしくなってしまいそうだ。

もっと大人だったら、こんなことはないのだろうか。

どれほど激しく抱き合った後でも、

そんなことはおくびにも出さずに日常に戻っていけるんだろうか。

わたしにはとても考えられない。 少なくとも、今は・・・。

 

「友達から相談されてることがあるの。」 

出かけるために、わたしはまた嘘をつく。

トランクスは最初にわたしを送ってくれた日の時間をちゃんと覚えていて、

その頃までにはきちんと帰してくれている。

だから、たいした嘘じゃないかもしれない。 それでも、とても苦しくなる。

 

「行く前におばあちゃんの所に寄って。

悟天くんに届けものをしてほしいって言ってたわ。」

 

ママに言われて、離れに向かう。 「おばあちゃん・・・。」

「ああ、パン。荷物になってすまねえけど、これを悟天の部屋に届けてやってくれ。」

 

紙袋を受け取る。 

中身はおばあちゃんが編んだ衣類と、この辺りで採れたもので作ったお惣菜だ。

「傷みやすいものじゃねえから、用事が済んでからでも構わないだよ。

それと、もし悟天が部屋にいたら・・ 」 

「なあに?」

「おめえが選んだ子なら、反対なんかしねえからちゃんと連れて来い、

って言っといてくれ。」

 

わたしが黙っていると、おばあちゃんは笑顔で言った。

「ここんとこ、休みの日にもちっとも戻ってこねえで。 

いい子ができたんだべ、きっと・・・。」

 

そして、わたしの背中を優しくたたいた。 まるで、労わってくれるみたいに。

 

 

『おれのこと、好き?』 

 

終わったあとトランクスは わたしを抱きすくめながら、いつも同じことを尋ねる。 

わたしは頷く。 肩で息をしながら。

 

『・・・ほんとかな。 相手は誰でもよかったんじゃないか?』 

『どうして、そんなこと言うの・・・』 

『パンがいい子だから、いじめたくなるんだよ。 おれは性格が悪いからね。』 

『昔はあんなに優しかったのに。』 

 

トランクスは、ふっと笑ってわたしの頭をなでた。そしてつぶやいた。

『あの頃は、よかったな。』

 

すみれ色の髪と同じ色のまつ毛が、青い瞳に影を落とす。 

トランクスの瞳は、どんなにきれいな海よりも青い。

うんと小さな頃からずっとずっと、わたしはそう思っていた・・・。

 

『パンがここに来るのは、おれのことが怖いからだろ。』 

『違うわ・・・ 』

言い終わらぬうちに、唇が塞がれる。 

始めは優しく、次第に深く、息ができなくなるほど長く。

そして、わたしは再び彼に抱かれる。

 

わたしが怖いのは、トランクスじゃない。

快楽に呑み込まれて、足もとが見えなくなってしまいそうな自分。 

それから・・・

 

彼の心の奥深くに仕舞いこまれた苛立ち、 寂しさ ・・・ 

それと向き合うことが怖いの。

 

まだ10代のわたしには不似合いな、ホテルの贅沢な一室。

 

トランクスが来てくれるのを待ちながら、わたしはそんなことを考えていた。