『嘘みたいなI love you 』
[ パンの部屋のベッドの上が舞台です。結婚前のラブラブな時期です。]
アパートの一室。 引っ越すための準備が進められているパンの部屋。
「気持ち、いい?」 「・・・。」
彼女の匂いのするベッドの中で、いつものように おれたちは抱き合っている。
「ちゃんと答えてよ・・。」
おれの言葉で 閉じられていた瞼が開き、濡れた唇がかすかに動く。
「う・・ ん・・。」
「どこがいい? どうしてほしいの?」
答えないとわかっていても、問いかけずにはいられない。
そして、やっぱり おれは尋ねてしまう。 終わった後、体を離してしまう前に。
「おれのこと、好き?」 ・・・
「うん。」 ただ うなずくだけじゃなく、おれの目を見て答えてくれる。
そう。 パンの答え方は、あの頃とは違っている。
だけど正直、ちょっとだけ物足りない。
「ちゃんと言ってよ。」 「え?」
「その・・ 好きだって。」 「えーっ。」
頬が赤く染まったことが、薄暗がりの中でもわかる。
「こういう時に言うのって、ちょっと、なんだか・・ 」
嘘っぽい、ってことか。
「普段だって、パンは あんまり言ってくれないじゃないか。」
「そんなこと・・。」
左腕に、ちょうど納まるパンの頭。
結婚式のために長く伸ばしている髪を、あいた右手で梳いてみる。
「時々 自信なくすんだよな。 パンは おれのことホントに好きなのかなって。」
おれは話し始めた。 本当にずいぶん昔、 おれがまだ中学生だった頃のことを。
あの日、学校から家に帰ると リビングにチチさんがいた。
『おかえり。』 『あ・・ こんにちは。』
背もたれを倒したベビーチェアには ブラが寝かされていて、
1歳になったパンは、部屋の中をめずらしそうに歩き回っていた。
『何カ月か早く生まれてると、こんなに違うもん なんですね。』
ブラはまだ、首がすわったばかりだった。
『すぐにおんなじになるだよ。 おめえと悟天だって、こうだったんだ。』
チチさんの答えに、おれはちょっと照れてしまった。
『あの・・ ママは?』 『ちょっと はずしてるだよ。』
『また仕事の電話かな。』
母さんは育児休暇中だったけど、なかなかゆっくりさせてはもらえなかった。
『いや・・ ベジータに呼ばれただ。』
なんだ、重力室か。 『じゃあ、おれが代わってこようかな。』
父さんと訓練を重ねるうちに、装置の調整の仕方を 少しは覚えた。
チチさんが笑って言った。 『ブルマさの手で直してもらいたいんだべ、 おめえの父さんは。』
『・・・。』
その時。 ベビーチェアに寝かされていたブラが泣きだした。
『どうしただ、ブラちゃん。』 チチさんが素早く、手慣れた様子で抱き上げる。
『おなかがへったのかな。』 『ミルクはさっき飲んでただよ。』
『じゃあ、 おむつ・・ 』 『いや、これはもう眠いんだべ。 ほらほらブラちゃん、いい子だな。』
歌うように節をつけて、ブラを抱えている腕をゆらす。 泣き声が治まった。
けれども、今度はパンがぐずりだす。
ついさっきまで、一人でおとなしく遊んでいたのに。
大好きなおばあちゃんをとられたと思ったのかな。
パンの声で、ブラはまた泣きだしてしまった。
『あ、あの・・ 代わりますよ。』
泣いているブラに外の景色を見せようとして、チチさんは窓に向かって歩いている。
『じゃあ、パンの方を抱っこしてやってくれ。』
言われたとおり、おれはパンを抱き上げた。 すると・・・
『イヤ! イヤ!! おばあちゃん! おばあちゃん!!』
悲痛な叫び声。 パンは身をよじるようにして、必死におれの腕から逃れようとしたんだ・・・。
「あーあ、 あの時はショックだったな。」 「そんな小さい頃のことを言われても・・ 」
パンは照れて笑っている。 おれの左胸に顔を埋めて。
「それだけじゃないよ。 物心ついてからだってさ・・ 」
あれは、うーん、 高校生・・もう大学に入ってたかな。
パンとブラが、幼稚園に通ってた頃だよ。
学校が休みの日、ブラを連れて孫家に遊びに行ったんだ。
帰る時間が近づいた頃、ブラの奴がわがままを言ったから、おれが叱った。
そうなると あいつはすぐに、悟天のところへ逃げていく。
『お兄ちゃんキライよ。 一人で帰って。 わたし、ここのおうちの子になるわ。』
『そんなことになったら、パパが泣くぞ。』
っていうか、おれが殺されちまうよな。
『パパにはママがいるから平気よ。 わたし、今日から悟天の妹になる。』
まったく口の減らない奴だ。 いったい誰に似たのかな。
『じゃあ好きにしろよ。代わりにパンちゃんを連れて帰るからな。』
おれの冗談を真に受けたパンは、真っ赤になって逃げ出してしまった・・・。
「あの時も かなり傷ついたよ。」
今 おれの腕の中にいるパンは、必死になって弁解する。
「トランクスのこと、意識してたからよ・・。」
「意識? どうして?」 「それは・・ トランクスのことが・・ だから・・ 」
「ん?よく聞こえないな。」
黙ってしまう。 「もうっ。 ずるいわ。」
ちぇっ。 もうちょっとだったのにな。
「ねえ、そういう時のブラちゃんに、悟天おにいちゃんが何て言ってたか知ってる?」
誤魔化したな。 ま、一応 参考までに聞いておくか。 「いや。 なんて?」
「あのね・・ 妹になっちゃったら、お嫁さんにできないな、って言ったんですって。」
けっ。 「あいつ、どんな顔して言うんだよ、そんなこと。」
「ふふっ。 最初に言ったのは うちのママだったみたいだけど。」
ビーデルさんか。 それなら わかる。
パンのママであるビーデルさんは、今じゃブラの義理の姉さんだものな。
考えてみると不思議だよな・・。
「ブラちゃんと悟天おにいちゃんは、結ばれる運命だったのよね、きっと。」
「おれたちだって、そうだよ。」
仰向けにしたパンに もう一度覆いかぶさり、その唇にキスをする。
今度は好きって、ちゃんと口に出してくれるといいな。
だけど おれは気が短いから、ついつい先に言っちゃうんだよな。
「ね、 おれのこと、好き?」