Prisoner Of  Love

 

 

あれから三日後。

意外にも、パンちゃんの方から連絡があった。 会社に電話をかけてきた。

家にはかけにくかったんだろう。

連れて行ったレストランで携帯の番号を教えて、彼女からも聞いた。

 

レストランでは緊張していたらしく居心地が悪そうだったけど、

大きな窓から広がる夜景には瞳を輝かせていた。

 

だから、次に会った時には

おれが仕事部屋代わりにしているホテルの一室に直接案内した。

窓のブラインドを上げてやると、警戒して言葉少なだった彼女は小さく歓声をあげた。

「きれい・・・。」 

「結構、いい眺めだろ。 夜景が好きなんだね。」

 

自分で空を飛べるのに。と付け加えると

「だって、飛んでる時は目的地のことばかり考えちゃうんだもの。」と答えた。

なんとなく、パンちゃんらしいと思った。

 

その日はルームサービスを頼んで、部屋の中で食事をした。 

この間よりもずっと楽しそうに彼女は質問をしてくる。

「ここは、仕事をするためのお部屋なの?」 

「そうだよ。それと一人になりたい時・・・ 」

「贅沢ね。 あんなに広くて立派なおうちがあるのに。」 

「・・あとは、女の子を連れ込むためだよ。」

 

そんな会話があったのに、パンちゃんは次もこの部屋に来た。

 

もうためらうこともなく、窓辺に駆け寄って自分でブラインドを上げる。 

「きれいね・・。」

 

おれは彼女に尋ねた。「家には、なんて言って来てるの?」 

「どうしてもって頼まれたから、もう少しアルバイトを続ける、って・・・。」

「悪い子だな。」 

おれは椅子を窓辺に置いて腰をおろした。 「おいで。」 

 

えっ?と大きな瞳をさらに見開いた彼女の手をとって引き寄せ、膝の上に座らせる。 

「ここで見るといいよ。」

 

立ちあがろうとするのを、軽く押さえこむ。 

観念した彼女は、こんなことを話し始める。

「昔、よくブラちゃんが悟天おにいちゃんの膝に乗ってたわね。」

「あれは母さんの・・うちの親の真似をしてたんだ。」 

彼女は笑う。「本当に仲がいいのね。」

「良すぎなんだよ。」 

おかげでおれは、あれほど誰かを愛せる気がしないんだ。

 

後からつぶやいた言葉は、彼女の耳には届かなかった。

 

「わたし、ブラちゃんがうらやましかったわ。 

ほんとはわたしも、トランクスに甘えたかったの・・・ 」

 

顔をこちらに向けて、唇を重ねて口をふさぐ。 

今日はちゃんとまぶたを閉じていた彼女を、

抱きかかえる形で立ち上がり ベッドの上に下ろす。

 

「イヤだったら言うんだよ。」

 

 

かわいくて愛おしいと心から思っているのに、その無防備さに苛立ってくる。

自分の手でメチャクチャに壊してしまいたくなる。

ちゃんと聞いてみたことはないけれど、

父さんと母さんの始まりもそうだったんじゃないか。

 

おれはやっぱり父さんによく似ているんだろうか。 

そんなことを考えていた。

 

その頃の母さんほど大人になりきっていない彼女に対する罪悪感は確かにあった。

だけどパンちゃんは普通の女の子じゃない。 

本気で抵抗すれば、おれを払いのけるくらいは容易いはずなんだ。

 

けれども、彼女はそうしなかった。

 

 

「・・・イヤって、言わないからだよ。」 

体を離してからすぐに背を向けてしまった彼女におれは言った。

「トランクスを嫌がるはずないわ・・・。」 

 

肩に手をかけてこちらを向かせる。 

顔を覗き込んで、わざとささやくように言う。

「おれ、悟飯さんに殺されちゃうね。」 

「そんな・・・ 」 彼女はそこで言葉を切った。

「パパとママだって、高校生の頃からなのよ。 そんなことしないわ・・・ 」

 

おれはもう一度、彼女に覆いかぶさった。

 

目を閉じて、身をまかせていても、

パンちゃんはおれの欲しい言葉を決して口にはしなかった。