This is Love

昨夜、彼女の夢を見た。

妹の結婚式の日、久しぶりに話ができたせいかもしれない。

 

夢でおれは 腕の中に納まっている彼女に、例の一言を口にした。

『おれのこと、好き?』

 

パンは 以前と変わらない様子で、こっくりと頷いた。

その後 おれは尋ねてみた。 あの頃、ずっと思っていたことを。

『じゃあ、どうしてそんなに 悲しそうな顔するんだよ・・。』

 

 

昼下がり。

予定が中止になって時間ができたおれは、母さんの入院先へ向かった。

 

ノックをして病室に入ると、花瓶に生けられた 青い花が目に入った。

これは・・・。

あの日のことを思い出す。

 

見入っていると、母さんに声をかけられた。

「きれいでしょう。 昨日パンちゃんが来てくれたのよ。」

あの子、とってもきれいになったわよね。

続いた言葉に、そうだね。とだけ答えた。

 

「ブラは?」 「産科の方へ 検診に行ってるわ。」

そして 母さんは、こんなことを言い出す。 

「ねぇ、トランクスって どんな子が好きなの?」

「・・なんだよ、急に。」

「別に。 ちょっと聞いてみたいと思ったのよ。」

 

何か気付いてるんだろうか。

パンのことから話を逸らすために おれは答えた。

「母さんみたいな子、かな。」

自分でも洒落にならないと思いながら。

 

「つまり、パンちゃんみたいな子、ってこと?」

「何 言ってるの? タイプが全然違うだろ・・。」

自分でもおかしくなるくらいに うろたえてしまう。

 

「早く相手を見つけろって、そればっかりだね。 そんなに心配なの?」

「それもあるけど・・・ 幸せになってほしいのよ。」

 

大きな窓から日の光が差し込む。

夜になったら、父さんはここから入ってくるんだろう。

「母さんの言う幸せって・・ 」

おれの言葉を遮って、母さんは言い直す。

 

「幸せだな、って感じることが たくさんある人生を送ってほしいの。

あんなふうにね。」

 

ドアが開いて 病室にブラが戻ってきた。 満面の笑顔で。

「ママ 聞いて。 あら、お兄ちゃんも来てたの。

おなかの赤ちゃんね、男の子だったわ。」

 

超音波映像の写真を見せられて あれこれ説明されたけど、正直よくわからない。

 

「こんなんで、医者はほんとにわかってんのか?」

C.C.社製の検査機器だったわよ。」

「・・それなら間違いないな。」

 

母さんの方を見ると、両手で目頭を押さえていた。

すごくうれしそうで、同時に ほっとしているようにも見えた。

 

「体調がいい時、一度 C.C.に帰らせてもらわなきゃ。

重力室のメンテをしておかないとね。」

 

サイヤ人の血を、濃く受け継ぐ男の子。

しかも父さんと悟空さん両方の孫なんだ。

すさまじいパワーを秘めていることは、想像に難くない。

力を使いこなすためには、誰かが導いてやらなくてはならないだろう。

 

けど 母さんは、きっと そういうことよりも・・・

自分がいなくなってしまった後の 父さんのことが、心配でたまらないんだと思う。

 

 

「訓練のことはベジータや悟天くんに任せて、

ブラは いっぱい抱っこして、かわいがってあげるのよ。」

目立ち始めた娘のおなかに、自分の耳元を当てる。

生まれ出る日を 待ち切れないような動きを感じる。

「男の子は 大きくなっちゃったら、なかなか甘えられなくなるから・・。」

 

 

仕事に戻るために 病院を後にしたおれは、

母さんがそんなふうに言っていたことを知らなかった。

 

 

半年余り前のこと。 ブラが 家の居間に一人でいた。

写真立てに入れて飾られている一枚を手にとって、唇を寄せていた。

多分ずいぶん前に撮った、悟天も写っている写真だ。

その後ブラは両腕で、まるで自分のことを抱きしめるような仕草をしていた。

 

ブラと悟天の結婚が決まったのは、それから少し後のことだ。

もしかしたら あの日、二人は、初めて ・・・

 

パンが、おれと そうなった日。  

彼女が あんな顔をしていたとは思えなかった。

 

夢の中でも彼女は、黒く濡れた瞳で 悲しげにおれのことを見ていた。 

そして、こう言った。

『トランクスは わたしのこと、好き?』

 

好きだよ。 当り前じゃないか。

そう言ってやりたいのに、声がうまく出せない。

 

そうだよ、 好きなんだよ。

だから、パンの全部が欲しかったんだよ。

 

「パン。」 名前を、口に出してみる。

 

幸せ っていう言葉を耳にすると、彼女を思い出さずには いられない。

 

おれは、彼女を笑顔にしてやることは できないんだろうか。

 

もう、本当に 遅いんだろうか。