099.『彼女の知らない事実』
[ 絵師さまのイラストからイメージして書いたお話です。 ]
「停めろ。」
助手席に乗っていたベジータが、脚を伸ばしてブレーキを踏んだ。
「あぶないじゃない。 何するのよ・・・。」
言い終わらぬうちに彼は車から降り、さっさとどこかへ飛んで行ってしまった。
「あーあ・・・。」
ため息をつきながら、わたしも外に出る。
しばらくの間、空と、青い海を眺めた後 取り出したタバコに火を点けた。
たまには二人で出かけたいな。 そう思っただけなのに。
一緒に来たがっていたトランクスに嘘をついて出てきた、ばちが当たったのかしら。
今のベジータは、自分なりのやり方であの子に関わってくれている。
赤ちゃんの頃は、まるで無関心に見えていたけど。
もっと言えば、孫くんのいない地球に留まって、わたしのそばにいてくれる。
わたしはやっぱり、ひどく欲張りなんだろうか。
そういえば昔、チチさんがよく孫くんを叱り飛ばしていたっけ。
あんなに怒らなくてもいいのに、っていつも思ってた。
だけど今は、彼女の気持ちがよくわかる。
いくら苛立ちをぶつけても、ちっとも気にしていない様子で
あっからかんと笑顔を見せる夫。 たやすく心がほぐれてしまう自分。
それが、とってもくやしいんだわ。
そんなことを思っていたら、何かが近づいてくる気配を感じた。
地面に降り立つ音が聞こえる。
なんにも言わない、不機嫌な顔。
それでもわたしはうれしくなって、あっさり笑顔になってしまう。
「それを仕舞え。」
車をカプセルに納めさせると、ベジータはわたしを抱えて
海の上の空をしばらくの間飛んでくれた。
岩場のちょうど陰になっている場所。
わたしはまだ、ベジータの腕の中にいる。
彼は今、空を飛んでいないのに。
「これじゃ、家にいる時と変わんないわ・・・ 」
「・・おまえとすることなんて、他にあるのか?」
なによ、ひどいわね。 言葉は声にならなかった。
空の上にいる時とは違うかたちで抱きしめられて、胸の奥が締め付けられる。
「ねぇ・・・ 」
本当に言いたいこととは、別の言葉を耳元に囁く。
「下品な女だな。」
彼のいつもの反応に、わたしは何故か安心する。
そんな時のベジータは、ほんの少しだけ笑っているように見えるから。
「冗談よ。」
体を離して、立ち上がろうとする。
「トランクスが待ってるものね。 帰らなきゃ・・・ 」
波の音だけが聞こえてくる中、
沈みかけた陽の光がブルマの乱れた髪を照らす。
ベジータは彼女を再び抱き寄せた。
彼の腕の中、ブルマは満ち足りた表情で、海と同じ色の瞳を閉じる。
それを見ているベジータもまた、身も心も満たされていく。
決して認めてはいけないと、必死に抗い続けながら。