253.『調子が狂う』
ある夜。
ブルマが自分の部屋で休もうとしていると、ドアが開いた。
「ベジータ、 戻ってたの・・・。」
ベジータは何も言わず、部屋に置かれたベビーベッドを一瞥する。
中には、小さな赤ん坊が眠っていた。
「トランクスね、最近夜泣きすることがあるから、こっちに連れてきてるのよ。」
小声で話すブルマをベジータは、ベッドの上に押し倒そうとする。
「ちょっと・・・ ここじゃダメよ。 起きちゃうわ。」
「声を出さなければいいだろう。」
勝手な言い分に、もっと小さな声で言い返す。
「そんなの、つまんないじゃない。 どうせなら・・・。」
言葉に詰まったベジータの肩に腕をまわして、ブルマは続ける。
「あんたの部屋でいいじゃない。 ねっ。 連れてって・・・。」
返す言葉が見つからないベジータは、
ブルマを抱きかかえて自室に運ぶはめになった。
「降りろ。 歩け。」 と 言いかけると、
「わたし、 重たい?」 と 聞いてくる。
「・・・そんなわけないだろう。」
「トランクスを産んでから、あと2キロ、落ちないのよね・・・。」
結局、部屋に着いてしまった。
不愉快になって、ベッドの上に放り出す。
「きゃっ・・・ 乱暴にしないでよ。 あのね、いつもより、そーっとお願いね。」
彼は ブルマに触れる時はいつでも、考えられないほど慎重を期していた。
そんなこと言われる筋合いはない、と口にする前に
耳元でその理由を教えられた。
舌打ちする彼の右手をとって、
ブルマは自分のやわらかな胸に押し当てる。
「うふ、ドキドキしてるでしょ。 久し振りだもんね・・・。」
結局、彼女のペースで事を終えた。
ブルマは、ベジータの左腕を枕に、かすかな寝息をたてている。
眠りに落ちる前、彼女はつぶやいていた。
「トランクス、とってもかわいいのよ。 あんたとおんなじ顔なんだもの・・・。
わたしから生まれてきたのに、不思議よね。」
不思議というなら、この女のほうだ。
俺は、結果的にブルマの言うことを聞いてしまっているようだ。
腹が立つのに、いつの間にか悪くない気分にさせられちまう・・・。
そんなことを思いながら、ベジータもいつしか眠りについていた。
んぎゃぁぁぁーーーーーーー!!
けたたましい赤ん坊の声がする。 ブルマが飛び起きた。
「ああ、やっぱり泣いちゃった・・・。」
あわててパジャマをはおる。
「行ってあげなきゃ。 でも、 終わったあとでヨカッタわね。」
軽口を言いながら、そそくさと部屋を後にする。
何が何だかわからずに 起こされたベジータは、
ベッドのそばに超小型のスピーカーが置かれていたことに気づいた。
「ブルマのやつ・・ いつの間にこんな物を・・・」
そして、もうひとつ、
彼女が忘れて行った物を見つけた時には、
彼は腹を立てる気も失ってしまった。
「あの時、穿くの忘れちゃった・・・。」
トランクスを寝かしつけてから、そのまま眠ってしまったブルマは
翌朝、すでに主がどこかに行ってしまった部屋に
自分の忘れものが二つ並べられているのを見た。