051.『風が、吹いた』

ベジータ童貞設定の馴れ初め〜トラ授かり話です。

こういう話、もう既に いくつも書いているのですが、

ラスト近くにありますベジータのセリフが書きたかったんです…

(元ネタは手塚治虫先生の『三つ目がとおる』の最終回です。写楽×和登さんです。)]

「えーっ、 したことないの? これまで一度も? 嘘 ぉー。」

夜、C.C.。  ベジータのために、用意した部屋。 

その部屋のベッドの上で、わたしは素っ頓狂な声を上げた。

だって、以前聞いた彼の年齢は、わたしと ほとんど変わらなかったはずだ。

けど まあ その辺は、地球人の感覚とは違っているのかもしれない。

「悪いか。」 

悔しそうな、彼の声。 わたしは すぐに こう答えた。 

「ううん。 ちっとも、悪くなんか ないわよ。」

 

そうよ。 わたしだって この年になるまで、たった一人としか付き合ったことがないんだから。

友達に戻ろうと 何度も思って、だけど つい最近まで、思い切ることができなかった。

その理由は、思い出が多過ぎるから。 それに…

いつからか わたしは、強い男、戦う男にしか 魅力を感じなくなっていた。

ヤムチャと別れてしまったら、代わる男は もう現れないかもしれない。 

そんな不安も、実は少し あった。

ベジータを、愛しているとは まだ言い切れない。 

けれど、惹かれているのは確かだった。

つい なんとなく、こういうことになったけれども、いったい どう転ぶのだろう…。

 

当のベジータは今 わたしの、裸の胸に むしゃぶりついている。

「あん、 ちょっと… 痛いわ。」 

文句を言うと 舌打ちをして、それでも手を止めてくれた。

その手を取って、茂みの奥へ導いていく。 

「ね、 ここも触ってよ。」 

腰を動かし、彼の指先が、ちょうど当たるように仕向ける。

「ああ…。」 

うっとりと目を閉じた わたしに、怪訝な様子で彼は尋ねる。 

「何だ、これは。」

「ん? ああ、女の子のね、気持ちいい所。 あんたのこれと、おんなじよ。」 

そう言って、彼の昂っているものを掴む。

「! 貴様、何しやがる!」 

「何って あのね、セックスっていうのは、挿れるだけが全てじゃないのよ。」

 

あまり摩擦はせず、強く握りながら 手首を上下させる。  

「どう? 気持ちいいでしょ? あ、あんっ!」

彼の方は 二本の指のはらを使い、ついさっき導いてあげた敏感な部分を、速く激しく擦り始めた。

ぬかるみの音が聞こえてくる。 

「気持ちいい…。 あんた上手ね、 あっ!」

両手首を掴まれて軽く捩じられ、シーツの上に押しつけられる。 

そして、 「んっ!」

あっという間に、入り込まれる。 

熱く潤っていた そこは、あまりにも容易く、奥深くまで受け入れてしまう。

 

そこからは、彼の独壇場だった。

その夜、何度も抱かれたけれど、わたしが優位に立つことは二度となかった。

 

 

そして 朝。 わたしの隣に、彼は もう いなかった。

明け方、彼が身支度をして出て行こうとしている時、実は 一度 目が覚めた。 

なのに瞼がちゃんと開かず、声もかけられなかった。

それでも、ほんのわずかの間だったけれど、わたしの方を見つめていた。

 

ああ、昨夜は いったい、何回抱き合っただろうか。 

好きだという言葉なんて、一切 無かった。 

それでも、とっても、すごく…。

枕からは微かに、彼の髪の匂いがする。 昨夜は その匂いを、何度となく吸い込んだ。

彼、ベジータが何度も、わたしの胸に顔を埋めたためだ。 

そうよ、ちょうど こんなふうに。

大きな枕に突っ伏して、わたしは もう一度 瞼を閉じた。

 

なのにベジータときたら、あれから何日経っても姿を見せない。 

外に出っ放しで、帰ってこないのだ。

けど 以前にも、こういうことはあった。 

屋内でのトレーニングに行き詰まると、人のいない荒野かどこかに行ってしまう。

だけど、必ず 戻ってくる。 

重力室はもちろんのこと、あの戦闘服を用意できるのはC.C.、ううん、わたしだけなんだもの!

今度 向き合った時、彼はいったい どんな顔で、どういう態度をとるだろう。 

それを思うと、何だかワクワクしてしまう。

 

けれど、さらに日が経つにつれ、その期待感は、不安と動揺に変わっていった。

何故かというと… 来るべきものが、来なくなってしまったからだ。

「妊娠? まさか、」 

でも確かに あの夜は、避妊なんて考えは、頭から すっぽり抜け落ちていた。

 

ドラマなんかで目にするような、気分の悪さは ほとんどない。

それでも、『気』 なんてわからない わたしなのに、

自分の中に別の生命が芽生えている事実は、感じ取っていた。

そんな悶々とした思いで、眠れずにいた ある夜。 

ロックしないでいた窓が、外から開く音がした。 

ベジータが、戻って来たのだ。

 

夜の冷気を纏ったままで、彼は わたしに覆いかぶさる。

「何よ…。 いったい どこに いたのよ。」 

「…。」  

答えない。 

「ここは わたしの部屋よ! 戦闘服の替えは、あんたの部屋。」 

それにも答えず彼は、わたしのパジャマを捲りあげ、胸を、腹部を露わにした。

手袋を着けたままの手に、まさぐられる。 

「痛いわ、やめて!」

ひと月と少し前の あの夜、彼の部屋のベッドの上でも、同じセリフを口にした。 

けど、あの時とは全く違う。

わたしは、腹を立てている。 

彼、ベジータが、わたしの変化に、すぐに気付いてくれないことに…

 

「…!」  

ベジータの、手の動きが止まった。 

薄暗がりの中、わたしの顔を、腹部を見つめる。

「わかった? 気付いた? あのね、まだ誰にも言ってないし、病院にも行ってないの。 だけど…」

彼は何も言わなかった。 

黙ったままで また窓から、あっという間に飛び去ってしまった。

わたしの話を、終わりまで聞くことさえしてくれずに。

 

「何よ、あれ。 ひどいわねー。 まあ別にさ、期待なんかしてなかったけどね。」

独り言。 ううん、違う。 おなかの子供に、言い聞かせている。 

「おまけに開けっぱなし。 寒いわねえ!」 

起き上がり、窓をちゃんと閉めてから、再びベッドに潜りこむ。

瞼を閉じると、彼の匂いが、手の感触が よみがえってきて、涙があふれた。

 

 

それから三日後。 ようやく時間が出来た わたしは、初めて産院へ足を運んだ。

やはり予想通り、間違いなかった。

超音波によって映し出された、小さな小さな命の映像。 

いとおしさに、胸の奥が きゅんと鳴る。

だけどC.C.社製の装置を使えば、もっと はっきり見えるのではないか。 

そんなことを思ってしまった。

そして… 

待合室の壁に貼られていた、おっぱいを飲んでいる赤ちゃんが写っているポスター。

それを見た時は、ベジータのことを思い出した。

 

車での帰り道、フロントガラスの向こうで、よく見知った人物が こちらに向かって手を振っている。 

「ヤムチャじゃない。」 

山に籠って ずっと修行をしていたけど、小休止のつもりで下りてきたという。 

とりあえず、車に乗せる。

「髪、切ったんだな。 いいじゃないか、似合ってるよ。」 

「ふふっ、ありがと。」

そう。 産院を出た後、その足で美容院に寄ったのだ。

「うん、前の髪形より ずっといいなあ。」 

「そうお? でも待ってよ、パーマ、そんなに似合わなかった?」

そんな他愛のない会話をしながら、C.C.の敷地内に入った、その時。 

「! 危ない!」  「キャアッ!」 

わたしは あわててブレーキを踏んだ。

ベジータが現れた。 空から、ちょうど車の真正面に 降り立ったのだ。 

 

「ちょっと! なんなのよ、危ないじゃないの!!」

「戦闘服の替えを取りに来た。 すぐに用意しろ。」 

「だから あんたの部屋にあるわよ。 この間も言ったじゃないの。」

「その前に、重力室だ。 調整は済んでいるのか。」 

「やってあるわよ。 あんたが無茶な使い方さえしなきゃ、いつだって完璧なの!」

「いや、まずは腹ごしらえだ。 食う物はあるんだろうな。」 

「母さんがいるから大丈夫でしょ。 … どうしたのよ?」

ヤムチャも、戸惑ったような声でささやく。 

「ベジータの奴、どうしちまったんだ? 前から こんなだったか?」

 

その様子を見ているベジータの目が、ますます険しく吊り上がっていく。

もしかして、これ…。 

かなり意地悪な気分になって、わたしは言い放つ。

「なにヤキモチ妬いてんのよ。 そんな権利ある? 

あんたとは結局、たった一晩 一緒に過ごしただけでしょ。」

「えっ、 なんだって?」 

ヤムチャからの問いかけはスルーし、わたしは さらに続ける。

「そうよ。 わたしはね、あんたの恋人でも、ましてや 奥さんでもないんだからね!」

それに対し、返って来た言葉は こうだった。 

「調子にのりやがって…。」 

 

ちょっと言いすぎただろうか。 怒ったまま また、行ってしまうだろうか。

そして もう これきりに、なってしまうんだろうか。 

けれども、彼はまた、口を開いた。 

「おまえは俺の、」 

「? 俺の、 なに?」 

答えない。 一旦黙って、言い直す。 

「おまえはサイヤ人の… サイヤの王家の血を引くガキを、産む女だ!」

「ベジータ…。」

 

愛の言葉ではない。 

それでも彼にとっては多分、精一杯の気持ち。

胸がいっぱいになった。 

思わず駆け寄り、手を取ろうとしたけれど、払いのけられた。

「痛い!」 

文句を言うと、少しだけ うろたえたような顔になった。

でも その後は 背を向けて、さっさと立ち去ってしまった。

 

「なあ、どうなってるんだよ。 さっきの話、本当なのか。 ブルマ、おまえ ほんとにベジータと、」

ゆっくりと、わたしは口を開く。 けれど ヤムチャに対してではない。 

自分自身に、言い聞かせるためだ。

「本当よ。 だって わたし、強い男が好きなんだもの。」

だからね、強い男の子を産んで、育てていくのよ…。

あら。

性別なんて まだ わかんないのに、わたしったら 男の子って決めつけてる。

それに、約一年後にせまった大きな戦いも、無事に終わると信じている。

その時 ベジータは、わたしは、それに生まれてくる子供は、いったい どうしているんだろうか。

 

「あっ… 」  

風が、吹いた。 

やや強い風が わたしの、切ったばかりの髪を揺らした。