081.『指先』

ボブからベリーショートにしたブルマのお話です。 トランクスは1歳代後半・・かな。

早い子なら結構しゃべりますよね!(やや苦しい)

また遅くなってしまった。 

出迎えてくれた 母さんに向かって尋ねる。 

「ただいま。 トランクス、もう 寝ちゃった?」

「少し前にね。 今日は公園で うんと遊んで、その後 髪も切りに行ったから… 

あら、ブルマさんも。」

「うふっ、 どう? お昼に 少し時間が空いたから、切ってきちゃった。」

「とってもいいわよ。 すっきりしたし、いろんなお洋服に合うと思うわ。」

 

そうでしょ、そうでしょ。 そろそろボブに飽きていたところだったし、気分転換したかった。 

時間が足りなくて、パーマまではかけられなかったんだけど… 

かえって、よかったみたいだ。

 

「ブルマさん、お食事は?」 

「ごめんね、軽く食べてきちゃったの。」

「じゃあ お風呂ね。 今日は二階の方の お風呂にどうぞ。」 

「えっ?」

それ以上は何も言わず、母さんはウインクを一つした。

 

言われたとおり、二階のバスルームの扉を開ける。  

使用中である そこには、案の定 ベジータがいた。

「なんだ。」 

「ん? ちょっと、入れてもらおうと思って。 一緒の方が、省エネにもなるでしょ。」

「フン。 俺は もう出るぞ。」 

「えーっ、なんだあ。」  

久しぶりに、シャンプーでもしてあげようと思ったのに。

 

「あっ、そうだ。 ねえ 今日、髪 切ったのよ。 どうかしら?」 

「どうも こうも…。 俺に聞くな。」

「あんたに会ってからは初めてよね、こんなに短くするの。」

そう。 前に こういう、頭の形に沿ったショートヘアにしたのは… 

孫くんの兄貴が、地球にやってきた頃だった。

あの頃は まさか、こんなことになるなんて 考えもしなかったわ。

答えを返すことをせず、ベジータは出て行ってしまった。

「ふんだ、何よ。」  

急いで 髪を洗う。 こういう時、短いと本当に楽ちんだ。 

ごしごしと、タオルで水気を拭いながら、わたしは彼の部屋へと向かった。

 

ロックはされていない。 

もっとも、されていたとしたって、すぐに解除できちゃうんだけど。

ベッドの脇にある、小さなライトだけを灯して ベッドに入る。

無愛想な背中に、そっと寄り添う。

さっき わたしが使った物と、同じシャンプーの残り香を吸い込む。

「髪の毛、まだ 湿ってるわよ。 ちゃんと乾かしてないのね。」 

まあ わたしも、今日は そうなんだけど。

 

こっちを向いて。 

その言葉の代わりに 身を寄せる。 

眠ってないなら 何か話して。 

そう言う代わりに 半身を起こし、頬にキスをする。

繰り返しているうちに 彼はようやく、こちらを向いてくれる。

「あっ、 イヤッ。」  

乱暴なのは わざとで、始めだけだ。 

「もう! 痛いわ。」  

そう訴えた後、わたしを抱き寄せる ベジータは優しい。

いつだって、 大抵。

 

ねえ、トランクスのこと、もっと 見てあげてよ。

自分なりにで いいから、関わってあげてよ。

そして、文句でも命令でも構わないから、もっと もっと 話してよ。

あの戦いの前と比べて、ベジータは明らかに口数が減った。

重力室でのトレーニングを再開した時は ホッとしたけど… 

それは己を鍛え上げずにはいられない 本能のためなのだろうか。 

それとも、他にすることが ないせいだろうか。

言えない言葉を 飲み込んだまま、わたしは今夜も 彼に抱かれる。

 

「… 。」   

裸で、ベッドの上で翻弄されて、ぐったりと瞼を閉じていた時。 

額や耳元、生え際の辺りに、指先が触れているのを感じた。

? ベジータ?  

ふふっ。 やっぱり、ショートヘアが めずらしいのかしら。

頭髪が不気味に変化しやがる、なーんて思ってるのかしらね。

心地よさの中、わたしは そのまま、深い眠りに落ちていった。

 

朝。 目を覚ますと、ベジータは既に いなかった。 

それは いつものことなんだけど…。

ふと、自分の髪に手を当てる。 

「きゃっ、 何これ!」

さわっただけで わかる、ひどい寝ぐせ。  

昨夜、ちゃんと乾かさずに寝たせいだ。 

「大変、早く直さなきゃ!」

 

梳かすだけでは無理そうだ。 一階にある、大きな洗面所の方に駆け込む。 

スタイリングウォーターを多めにつけて、母さんに借りたカーラーを巻く。 

その上から思い切り、ドライヤーの温風を当てる。

その時。 「ママー、おはよう!」  

ドアを開けて、トランクスが入ってきた。

 

「おはよう。 あらあら、トランクスも。」 

ひどい寝ぐせだ。 この子、寝ぞうが悪いから…。 

手ぐしで整えながら、温風を当ててやる。

「熱いよー。」  

文句を言って 逃げ出そうとするのを押さえて、「公園で お友達に笑われちゃうわよ。」 

そう言ってやると、小さな口を尖らせて じっとしていた。  

ふふっ、かーわいい。 今日は、早く帰るようにしなきゃね。

おっと、いけない。 

自分の支度を急いで済ませて、あわてて玄関の方へ行く。

 

朝のトレーニングを終えたらしい、ベジータが歩いてきた。 

「おい。」

「えっ、 なに?」 「… 」 

「あ、 重力室? どこか、調子悪い? 帰ったら、見てみるわね。」

 

だから いつか、トランクスが もう少し大きくなったら、一緒にトレーニングをしてやってね。 

ここでは あんたが、あの子の師匠になってやってね。

心の中で、そう続けた。  

ベジータは何故か、ふっ と、口の端だけに笑みを浮かべていた。

 

さて その後、 会社に着いてから。 

「ブルマ社長、 あの、それは…」 「髪飾り、じゃ ありませんよね?」

「え? 何言って…  あーーーーっ!!」  

寝ぐせ直しのカーラーが、一つだけ ついたままだったのだ。

トランクスのお世話でバタバタしてたし、後頭部だから気付かなかった。 

だから ベジータは笑っていたのね。 

くやしい…。

 

その日は穏やかな、 いいお天気だった。  

外に出るたび、窓を開けるたびに そよ風が、短く切った髪を揺らした。

それと同時に、昨夜の 指先の感触を思い出して、頬が やたらと熱くなる。

今日は絶対 早く帰って、何かの形でお返ししてやらなきゃ。 

「さ、 頑張ろうっと。」